第19話 旅の仲間
村を出た四人は、穏やかな街道をゆっくりと歩いていた。
朝の風は心地よく、木々の葉がやさしく揺れている。
「今日は気持ちのいい天気ですね。」
リクは大きく伸びをした。
「そうですね。」
ミアも笑みを浮かべる。
「昨日はゆっくり休めましたし、いい出発になりました。」
アルドはいつものように穏やかな表情で歩いている。
エルナもその後ろを歩きながら、小さく鐘楼の方を振り返った。
もう鐘楼は木々に隠れ、見えなくなっていた。
(結局、あの違和感は何だったんだろう……。)
杖のこと。
アルドのこと。
考えれば考えるほど分からなくなる。
「エルナさん。」
前を歩いていたリクが振り返った。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい。」
「少し考え事をしていました。」
リクは安心したように笑う。
「旅をしてると、考え事も増えますよね。」
「僕なんて毎日です。」
ミアは思わず吹き出した。
「リクさんの場合は、考えているようで考えていませんけどね。」
「え?」
「そうですか?」
「そうです。」
エルナも小さく笑う。
張りつめていた空気が、少しだけ和らいだ。
しばらく歩いたところで、リクがふと思い出したように尋ねる。
「そういえば、エルナさんは魔法が使えるんですよね?」
「はい。」
「攻撃魔法も回復魔法も、一通りは使えます。」
「すごいですね!」
リクは目を輝かせる。
「助かります。」
「あと、料理も少し得意です。」
エルナが照れくさそうに付け加えると、リクはぱっと表情を明るくした。
「本当ですか!」
「それはもっと助かります!」
「……。」
ミアは呆れたようにため息をつく。
「そこなんですか。」
「いや、旅って食事も大事じゃないですか。」
リクは真面目な顔で言う。
「確かに大事ですけど……。」
ミアは苦笑するしかなかった。
エルナも思わず笑い声を漏らす。
いつの間にか、自分が自然に笑っていることに気付いた。
そのことが、少しだけうれしかった。
笑い声が静かに街道へ溶けていく。
穏やかな時間だった。
しばらく歩いたあと、エルナは前を歩くリクへ声をかけた。
「リクさん。」
「はい?」
リクは振り返る。
「一つ、お聞きしてもいいですか?」
「もちろんです。」
エルナは少しだけ言葉を探すように視線を落とした。
「どうして、初めて会った私を信じてくれたんですか?」
「私は素性も分からない旅人でした。」
「危ない人だったかもしれません。」
リクは少し考え込む。
「そうですね。」
「危ない人だったらどうしようとは思いました。」
「えっ。」
エルナは思わず目を丸くする。
「思ったんですか?」
「はい。」
リクはあっさりとうなずいた。
「でも。」
「困っている人を見て、そのまま行っちゃったら、後で気になりそうだったので。」
「だから、一緒に歩いてみようと思いました。」
あまりにも自然な答えだった。
特別な理由はない。
勇者だからでもない。
ただ、自分がそうしたいと思ったから。
エルナはその横顔を静かに見つめる。
「後悔したことはありませんか?」
「ありますよ。」
リクは笑った。
「でも、助けなかったことを後悔する方が多い気がします。」
その言葉に、エルナは足を止めた。
ミアもアルドも、静かに振り返る。
エルナはゆっくりと頭を下げた。
「……お願いします。」
三人は黙って耳を傾ける。
「もし、ご迷惑でなければ。」
「私も、この旅をご一緒させてください。」
しばらく静かな風だけが吹き抜ける。
そしてリクは、いつもの笑顔で答えた。
「もちろんです。」
「最初から、そのつもりでした。」
「えっ?」
エルナが思わず顔を上げる。
「だって昨日、一緒に宿へ泊まりましたし。」
「もう仲間だと思ってました。」
一瞬の静寂。
「リクさん……。」
ミアは額に手を当て、小さく笑う。
「そういう大事なことは、ちゃんと言葉にしてください。」
アルドも穏やかに目を細めた。
「にぎやかになったのう。」
エルナは思わず吹き出す。
「ふふっ……。」
「ありがとうございます。」
その笑顔は、旅の途中で見せてきたどの笑顔よりも、晴れやかなものだった。
四人は再び歩き始める。
今度は、同じ目的を持つ旅の仲間として。
先頭を歩くリク。
その隣にはミア。
少し後ろにはアルドとエルナが並んで歩いている。
「そういえば。」
リクが振り返る。
「エルナさん。」
「はい。」
「これからよろしくお願いします。」
その一言に、エルナはもう一度笑顔を見せた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ミアも小さく笑う。
「これで本当に四人旅ですね。」
「にぎやかになったのう。」
アルドも穏やかに目を細める。
四人の笑い声が、穏やかな街道へ静かに響いた。
勇者。
賢者。
記憶を失った老人。
そして、一人の魔法使い。
それぞれ歩んできた道は違う。
けれど今は、同じ道を進む旅の仲間だった。
やがて街道の先に、小高い丘が見えてくる。
その向こうには、まだ見ぬ景色が静かに広がっていた。
リクはその景色を見つめ、少しうれしそうに笑う。
「行きましょう。」
その一言に三人はうなずき、四人は並んで歩き続けた。
次回『動き出す黒き影』




