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伏線を全部無視していたら世界を救ってしまった件  作者: 春野ケイ
世界がおかしくなり始める

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18/25

第18話 鐘楼に残る記憶

その日の夕方。


四人は村の空き家を借り、一晩休ませてもらうことになった。


村は小さいながらも温かく、旅人を歓迎する空気が流れている。


「助かりましたね。」


リクは荷物を下ろし、大きく伸びをした。


「今日はゆっくり休めそうです。」


「そうですね。」


ミアもようやく肩の力を抜く。


一方、エルナは窓から鐘楼を見つめていた。


夕日に照らされた石造りの鐘楼は、昼間とは違う静かな雰囲気をまとっている。


(あの杖……。)


昼間の出来事が頭から離れなかった。


確かに一瞬だけ、魔力のような気配を感じた。


だが、古い木の杖から魔力を感じるなど聞いたことがない。


(考えすぎ……でしょうか。)


そう自分に言い聞かせても、胸の奥の違和感は消えなかった。


その時、部屋の外から笑い声が聞こえてくる。


「リクさん、それは違います。」


「えっ、そうなんですか?」


ミアとリクが何やら話しているようだった。


エルナは思わず小さく笑う。


旅を始めた頃には、こんなふうに笑えるとは思ってもいなかった。


少しだけ。


ほんの少しだけ、この旅が心地よく感じられた。


その頃――。


外ではアルドが一人、夜風に当たっていた。


静かな村。


虫の鳴き声だけが響いている。


アルドは遠くの鐘楼を見つめ、小さくつぶやいた。


「……終わっておらんのか。」


その言葉を口にした本人が、一番驚いていた。


「……終わって、おらん?」


首をかしげる。


なぜそんな言葉が出たのか。


何が終わっていないのか。


まったく思い出せない。


ただ、胸の奥だけが少し痛んだ。


そこへリクが外へ出てきた。


「アルドさん。」


「眠れないんですか?」


アルドは穏やかに笑う。


「年を取ると、少し目が覚めやすくての。」


「そうなんですね。」


リクは特に気にする様子もなく、アルドの隣へ立つ。


二人はしばらく黙ったまま夜空を見上げた。


満天の星が、静かに村を照らしていた。


夜風は心地よく、虫の鳴き声だけが静かに響いていた。


しばらく星空を眺めたあと、リクがぽつりと口を開く。


「アルドさん。」


「なんじゃ?」


「記憶のこと、あまり気にしすぎなくてもいいと思いますよ。」


アルドは少し驚いたようにリクを見る。


「そうかのう。」


「はい。」


リクは夜空を見上げたまま笑う。


「思い出せないなら、これから思い出を作ればいいじゃないですか。」


「僕もこの世界のことは、まだ全然知りませんし。」


「だから、一緒ですよ。」


その言葉に、アルドは目を丸くした。


やがて、穏やかに笑う。


「そうじゃな。」


「思い出せぬなら、これから作ればええ。」


「ありがとう。」


「どういたしまして。」


リクは照れくさそうに笑った。


二人は再び夜空を見上げる。


その光景を、宿の窓からエルナが静かに見つめていた。


(リクさんは……。)


強いから人を助けるのではない。


特別だから人を惹きつけるのでもない。


ただ、相手が自然と安心できる言葉を、何気なく口にしてしまう。


だからミアも。


だからアルドも。


気付けばリクの隣を歩いている。


エルナは窓を静かに閉め、小さく息を吐いた。


「私も……。」


そこまで口にして、言葉を飲み込む。


まだ、その続きを言う勇気はなかった。


翌朝。


鳥のさえずりとともに四人は目を覚ます。


荷物をまとめ、村を出る支度を始める。


外へ出ると、昨日の老人が笑顔で待っていた。


「もう出発か。」


「はい。」


リクは笑顔でうなずく。


「いろいろ教えていただいて、ありがとうございました。」


老人は目を細める。


「気を付けて旅をするんじゃぞ。」


そう言って四人を見送った。


アルドは村を出る前に、一度だけ鐘楼を振り返る。


しばらく静かに見つめていたが、やがて何も言わず前を向いた。


「行きましょう。」


リクの一言に、三人もうなずく。


四人はゆっくりと村を後にした。


遠ざかっていく鐘楼は、朝日に照らされながら静かに村を見守り続けていた。


次回『旅の仲間』

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