第14話 世界が届けた剣
静まり返った広間。
四人の視線は、祭壇の中央に残された細長い台座へ集まっていた。
「やっぱり何もありませんね。」
リクは台座をのぞき込みながら言う。
「昔は何か置いてあったんでしょうか。」
エルナは石碑へ視線を戻す。
「もう少し読めるかもしれません。」
そう言って、刻まれた古代文字を一文字ずつ追い始めた。
「『選ばれし勇者……』」
「『剣を手にし……』」
「『災厄を退ける……』」
途中までは読める。
しかし、その先は文字が削れ、意味をつなげることができない。
「やっぱり全部は読めません。」
エルナは悔しそうに首を振った。
ミアは祭壇の周囲を歩きながら、静かにつぶやく。
「勇者。」
「剣。」
「ここまでそろっているのに、一番大事な剣だけがないなんて……。」
アルドは祭壇を見つめたまま、小さく目を閉じる。
「……待っておる。」
「え?」
リクが振り返る。
アルドは自分でも驚いたような顔をした。
「いや……。」
「今、そんな言葉が浮かんだだけじゃ。」
「何を待っているのかは分からん。」
その時だった。
どこからともなく、かすかな風が吹き抜ける。
遺跡の中とは思えない、不思議な風だった。
四人は思わず顔を上げる。
風は祭壇の周りをゆっくりと巡り始めていた。
風は次第に強くなり、祭壇の周囲を渦を巻くように流れ始めた。
「風……?」
ミアが思わず身構える。
遺跡の中に風が吹くこと自体、不自然だった。
エルナもローブの裾を押さえながら辺りを見回す。
「魔力の流れが変わっています……。」
「こんな反応、見たことがありません。」
祭壇の上に小さな光の粒が浮かび上がる。
一つ。
また一つ。
やがて無数の光が祭壇を囲み、静かに舞い始めた。
「きれいですね。」
リクは感心したように空を見上げる。
「遺跡の仕掛けでしょうか。」
「そんな仕掛けがあるなんて聞いたことありません!」
ミアは思わず声を上げる。
エルナは目を見開いたまま光を見つめていた。
「違います……。」
「これは誰かが魔法を使っているわけでもありません。」
「まるで、この遺跡そのものが反応しているみたいです……。」
アルドは静かに祭壇を見つめていた。
その瞳には、どこか懐かしさのようなものが浮かんでいる。
「……始まる。」
ぽつりと漏れたその言葉に、三人が振り返る。
「アルドさん?」
しかし本人も驚いたように首をかしげた。
「すまん。」
「また勝手に口から出てしまった。」
次の瞬間――。
ゴォォォォォン!!
遺跡全体が大きく震えた。
天井から細かな砂が降り注ぎ、広間の空気が一変する。
祭壇の上で舞っていた光は、一筋の光となって真上へ伸びていく。
その光は遺跡の天井をすり抜け、まるで空の彼方へ何かを呼びかけるように消えていった。
四人は、ただその光景を見つめることしかできなかった。
光が消えると同時に、遺跡は再び静寂に包まれる。
「……終わったんでしょうか。」
リクが辺りを見回す。
その時だった。
遠くから、何かが風を切るような音が聞こえてきた。
ヒュン――。
最初は小さかった音が、みるみる大きくなる。
ヒュンッ!
ヒュンッ!!
「何か来ます!」
エルナが思わず叫ぶ。
次の瞬間。
ドォン!!
天井を突き破り、一筋の銀色の光が祭壇の中央へ突き刺さった。
砕けた石片が辺りへ飛び散り、土煙が広間を包む。
「きゃっ!」
エルナは思わず身を伏せる。
ミアも腕で顔をかばった。
やがて土煙がゆっくりと晴れていく。
祭壇の中央には、一振りの美しい銀色の剣が静かに突き立っていた。
白銀に輝く刀身。
飾り気のない柄。
どこか神々しい雰囲気をまとい、祭壇の中央で静かに輝いている。
ミアの表情が凍りついた。
「……そんな。」
「この剣……。」
リクは祭壇へ近づき、首をかしげる。
「どこかで見たことがありますね。」
ミアは震える声で答えた。
「最初の村です……。」
「あの広場に刺さっていた……聖銀の剣です。」
広間は静まり返る。
誰一人、その剣がどうやってここへ現れたのか説明できなかった。
長い沈黙を破ったのは、リクだった。
「なるほど。」
三人が一斉にリクを見る。
「ここに運ばれてきたんですね。」
「……え?」
ミアは思わず聞き返した。
「祭壇に剣が必要だったから、誰かが持ってきたのかもしれません。」
リクは何の疑いもなく祭壇を見上げる。
「ちょうどよかったですね。」
「ちょうどよくありません!」
ミアは思わず声を上げた。
「最初の村からここまで、どれだけ離れていると思ってるんですか!」
「しかも、さっきまでここには何もなかったんですよ!?」
エルナも祭壇へ駆け寄り、剣を見つめる。
「こんなこと……魔法でも説明できません。」
「転移魔法だとしても、誰が、何のために……。」
アルドは静かに剣を見つめていた。
「……待っておった。」
小さくそうつぶやく。
「え?」
リクが振り返る。
アルドは自分でも驚いたように目を瞬かせた。
「いや……。」
「またじゃ。」
「なぜそんな言葉が出たのか分からん。」
広間は再び静まり返る。
祭壇に突き立つ聖銀の剣だけが、淡い光を放ち続けていた。
リクは剣へゆっくりと近づく。
「せっかくですし。」
「一応、抜いてみますか。」
その一言に、ミアとエルナは息をのんだ。
リクは祭壇の前へ立つ。
白銀の剣は、静かに光を放っていた。
「この前は抜かなかったですし。」
「せっかく目の前にありますから。」
そう言って、何気なく柄へ手をかける。
「リ、リクさん……!」
ミアが思わず声を上げる。
しかし、リクは気にする様子もなく軽く力を入れた。
スッ――。
驚くほどあっさりと、聖銀の剣は祭壇から抜き放たれた。
「抜けました。」
「前に村で見た時は、そのまま通り過ぎちゃいましたけど。」
「こうして見ると、きれいな剣ですね。」
「……。」
誰も言葉を返せない。
エルナは信じられないものを見るように、剣と祭壇を何度も見比べている。
「そんな……。」
「あり得ません……。」
ミアも静かに首を振った。
「前は、あの村にあった剣なんですよ……。」
「それが、どうしてここに……。」
リクは二人の様子を見て、不思議そうに首をかしげる。
「祭壇に必要だったんですかね。」
「ちょうど届いてよかったです。」
ミア
「『ちょうど』じゃありません!」
エルナ
「届くわけがありません!」
その時だった。
リクの手に握られた聖銀の剣が、一瞬だけ淡く輝く。
誰も、その小さな光には気付かなかった。
次回『勇者の剣』




