第13話 名もなき遺跡
四人は静かに遺跡を見つめていた。
森の中にひっそりとたたずむ石造りの建物。
入口を覆っていた草木は、まるで誰かが最近かき分けたように左右へ倒れている。
「誰か来ているんでしょうか。」
リクは遺跡へ近づきながら言った。
ミアは首を横に振る。
「足跡がありません。」
「それなのに草だけが避けられている……。」
エルナも入口へ手を伸ばす。
冷たい石壁をそっとなぞり、小さく目を見開いた。
「この石……。」
「見たことのない加工です。」
「古いんですか?」
リクが尋ねる。
「はい。」
エルナは静かにうなずく。
「少なくとも、私が知っているどの時代の建物とも違います。」
アルドは遺跡の入口を見つめたまま、小さくつぶやいた。
「……帰ってきたような気がする。」
三人が一斉に振り返る。
「何か思い出したんですか?」
ミアが尋ねる。
アルドは少し考え込み、首を横へ振った。
「いや。」
「口から出ただけじゃ。」
「自分でも、なぜそんなことを言ったのか分からん。」
遺跡の入口からは、ひんやりとした空気が流れ出していた。
リクはその暗闇を見つめ、笑顔で言う。
「行ってみましょう。」
そう言って、一歩、遺跡の中へ足を踏み入れた。
ミアたちも後に続く。
遺跡の中は薄暗く、ひんやりとした空気に包まれていた。
壁や天井は長い年月を感じさせるほど古びているが、不思議なことに崩れた様子はほとんどない。
「思ったよりきれいですね。」
リクは壁を見回しながら歩く。
「誰かが手入れしているんでしょうか。」
「そんなはずありません。」
ミアは静かに首を振る。
「こんな遺跡があること自体、誰も知りませんでした。」
エルナは壁に刻まれた模様へ近づく。
指先でそっとなぞると、小さく息をのんだ。
「これは……。」
「何か分かるんですか?」
リクが尋ねる。
「文字ではありません。」
エルナはゆっくりと首を横へ振る。
「でも、魔法陣の一部によく似ています。」
「こんな形は見たことがありませんが……。」
アルドは周囲を静かに見回していた。
まるで何かを探しているようだった。
「どうしました?」
ミアが声をかける。
「いや……。」
アルドは少し困ったように笑う。
「何を探しておるのか、自分でも分からん。」
その時だった。
カン……。
遺跡の奥から、あの乾いた音が再び響く。
四人は足を止める。
カン……。
一定の間隔で鳴り続けるその音は、まるで誰かが四人を奥へ導いているかのようだった。
リクは音のする方を見つめる。
「まだ聞こえますね。」
「行ってみましょう。」
そう言って、迷うことなく歩き出した。
ミアたちは顔を見合わせ、小さくうなずく。
四人は、遺跡のさらに奥へと進んでいった。
奥へ進むにつれ、通路は少しずつ広くなっていく。
壁には等間隔で石の台座が並び、天井には丸い穴がいくつも開いていた。
「明かりを置く場所でしょうか。」
エルナが台座を見つめる。
「そうかもしれません。」
ミアもうなずいた。
「誰かが生活していたというより、多くの人が利用していたような造りですね。」
リクは壁を軽く叩く。
「丈夫そうですね。」
「何年くらい前の建物なんでしょう。」
エルナは首を横に振った。
「分かりません。」
「でも、こんな建築様式は本で読んだこともありません。」
アルドは静かに通路の奥を見つめていた。
「……。」
「アルドさん?」
リクが声をかける。
アルドは少し考え込みながら答えた。
「不思議じゃ。」
「初めて来たはずなのに……。」
「次は右へ曲がればよい気がする。」
三人は顔を見合わせる。
「どうして分かるんですか?」
ミアが尋ねる。
「分からん。」
アルドは苦笑した。
「ただ、そんな気がしただけじゃ。」
リクは迷うことなく右へ歩き始める。
「じゃあ、行ってみましょう。」
「えっ、信じるんですか?」
ミアが慌てて後を追う。
「勘が当たることもありますから。」
リクは笑いながら答えた。
アルドの言った通り、右へ曲がった先にも通路が続いていた。
さらに奥には、うっすらと大きな空間が見え始めていた。
四人は足を止めることなく、その広間へ足を踏み入れる。
天井は今までの通路よりもはるかに高く、中央には円形の石造りの祭壇が静かにたたずんでいた。
祭壇の周りには何本もの石柱が並び、長い年月を経たとは思えないほど美しい姿を保っている。
「ここが、この遺跡の中心でしょうか。」
エルナは息をのんだ。
ミアもゆっくりと周囲を見回す。
「……こんな場所が、誰にも知られていないなんて。」
祭壇へ近づくと、その手前には一枚の石碑が立っていた。
古代文字がびっしりと刻まれている。
「読めますか?」
リクが尋ねる。
エルナは石碑の前へしゃがみ込み、文字を一つひとつ目で追っていく。
「少しだけ……。」
「完全には読めません。」
「でも、一部なら。」
静まり返った広間に、エルナの声だけが響く。
「『勇者』……。」
「『選ばれし者』……。」
「『剣』……。」
その言葉に、ミアは思わず息をのんだ。
「剣……?」
エルナはさらに読み進めようとするが、途中から文字が削れていて判読できない。
「ここから先は読めません……。」
リクは祭壇へ目を向けた。
祭壇の中央には、何かを納めるためだったと思われる細長い台座だけが残されている。
しかし、その上には何もなかった。
「空っぽですね。」
リクは少し首をかしげる。
「昔は何か置いてあったんでしょうか。」
誰も答えられなかった。
広間には静寂だけが流れている。
その祭壇が、本来は何を待ち続けていたのか――。
四人は、まだ知る由もなかった。
次回『世界が届けた剣』




