第11話 地図が導く場所
翌朝。
三人は宿場町へ向かって街道を歩いていた。
朝の空気はひんやりとしていて、鳥のさえずりが静かな森に響いている。
「今日はいい天気ですね。」
リクは大きく伸びをした。
「歩きやすそうです。」
「そうですね。」
ミアはうなずき、リクから地図を受け取る。
「そろそろ宿場町が見えてくる頃だと思うんですが……。」
そう言いながら地図を広げた。
「……あれ?」
ミアの手が止まる。
「どうしました?」
リクがのぞき込む。
「この道……。」
ミアは首をかしげた。
「昨日見た時、こんな道ありましたっけ?」
地図には、街道から北へ延びる細い道が一本描かれていた。
行き先には、小さな丸印がある。
だが、町や村の名前は書かれていない。
「見落としてたんじゃないですか?」
リクは気にした様子もなく答えた。
「古い地図ですし。」
「そう……なんでしょうか。」
ミアはもう一度地図を見つめる。
昨日まで何度も見ていた地図だ。
見落とすような場所ではなかった気がする。
「アルドさんはどう思います?」
リクが振り返る。
アルドは地図をのぞき込み、小さく目を細めた。
「……不思議じゃのう。」
「この道を見るのは初めてのはずなのに。」
「どこか懐かしい気がする。」
その一言に、ミアは思わずアルドを見る。
「懐かしい……?」
アルドは困ったように笑った。
「理由は分からん。」
「じゃが、行ってみた方がよい気がするんじゃ。」
三人の視線が、地図に新しく描かれたその道へ集まった。
「どうしますか?」
ミアは地図を見つめたまま尋ねる。
「街道をそのまま進めば宿場町です。」
「でも、この道は……。」
「行ってみましょう。」
リクはあっさり答えた。
「えっ?」
ミアは思わず聞き返す。
「だって、道がありますし。」
リクは不思議そうに首をかしげる。
「行けるなら行ってみてもいいんじゃないですか?」
「でも、昨日まで無かった道なんですよ?」
「見落としていただけかもしれません。」
リクは笑う。
「もし行き止まりなら戻ればいいですし。」
ミアは地図と道を何度も見比べる。
どうしても違和感が消えない。
それでも、危険な気配は感じなかった。
「……そうですね。」
小さくうなずく。
「少しだけ見てみましょう。」
アルドも静かにうなずいた。
「わしも、その方がよい気がする。」
三人は街道を外れ、新しく描かれていた細い道へ足を踏み入れた。
街道とは違い、人が歩いた形跡はほとんどない。
草花が道の両脇を覆い、木漏れ日が静かに降り注いでいる。
「本当に道なんですね。」
リクは周囲を見回した。
「地図に描かれているだけじゃなくて安心しました。」
「そこは安心するところなんですか……。」
ミアは苦笑する。
その時。
遠くの森の奥から、小さな爆発音のような音が響いた。
ドンッ!
三人は同時に足を止める。
「今の音は……?」
ミアが音のした方向を見つめた。
森の向こうから、白い煙がゆっくりと立ち上っているのが見えた。
「誰かいるんでしょうか。」
リクは煙の方を見つめる。
「行ってみましょう。」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ミアは慌てて止める。
「何が起きたか分からないんですよ?」
「だから確認した方がいいかなと思って。」
リクはいつもの調子で答える。
「困っている人かもしれませんし。」
ミアは小さくため息をついた。
「そう言うと思いました。」
三人は足早に煙の上がる場所へ向かう。
木々を抜けると、小さな開けた場所へ出た。
地面は黒く焦げ、あちこちから白い煙が立ち上っている。
焦げた草の真ん中で、一人の少女が尻もちをついていた。
年はリクたちと同じくらい。
長い髪はところどころ煤で黒く汚れ、ローブの袖も少し焦げている。
少女は自分の両手を見つめながら、大きくため息をついた。
「また失敗……。」
その声は、どこか悔しそうだった。
リクは少女へ近づく。
「大丈夫ですか?」
少女は驚いて顔を上げる。
「ひゃっ!?」
突然現れた三人に慌てて立ち上がろうとする。
しかし、足元の焦げた石につまずき、そのままもう一度尻もちをついた。
「いたた……。」
リクは苦笑しながら手を差し伸べる。
「けがはありませんか?」
少女は少しためらった後、その手を見つめた。
「……ありがとうございます。」
おそるおそるリクの手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
ローブについた土を払うと、小さく頭を下げた。
「助かりました。」
「よかった。」
リクは笑顔でうなずく。
「大きな音がしたので、何かあったのかと思って。」
少女は少し恥ずかしそうに頬をかいた。
「ちょっと魔法の練習をしていて……。」
「また失敗しちゃいました。」
周囲を見回すと、焦げ跡の中心には魔法陣のような模様がうっすらと残っている。
ミアはその跡を見つめ、小さく目を見開いた。
「これ……全部あなたが?」
少女は照れくさそうに笑う。
「はい。」
「まだうまく制御できなくて。」
アルドは静かにその様子を見つめていた。
「若いのに、大したものじゃ。」
少女は照れたように頭を下げる。
「そんなことありません。」
「失敗ばかりです。」
リクは焦げた地面を見回しながら感心したように言う。
「これだけ派手に失敗できるのも才能ですね。」
「えっ?」
少女はきょとんとする。
ミアは思わず額に手を当てた。
「普通、そういう褒め方はしません……。」
少女は思わず吹き出した。
「ふふっ。」
さっきまで落ち込んでいた表情が、少しだけ柔らかくなる。
「私……そんなこと言われたの、初めてです。」
森の中に、小さな笑い声が響いた。
その出会いが、この先の旅を大きく変えることを――
まだ誰も知らなかった。
次回『魔法使いの少女』




