第二十四話:侍は侍として生きる
静まり返り、言葉を失って呆然と立ち尽くす貴族たち。 その大広間の入口にある重厚な大扉の前に、二つの影があった。
「――おお……おおお、女神の御使い様……ッ!」
なんと、そこにはいつの間にかお出ましになられていた国王陛下夫妻が膝をつき、祈るように胸の前で手を組んでおられたのだ。その目にはポロポロと涙が溢れ、俺の姿を神聖なものを見るかのような感動の面持ちで見つめている。
「御使い様……! 我が国を、そして愚かな我らをお守りいただき、誠にありがとうございます……!」
「ん? ……い、一体どうなさったのですかな、国王陛下!?」
状況が飲み込めず狼狽する俺に、国王陛下は痛恨の面持ちで語りかけた。
「貴方様が『女神の使い』として宣言をなさると同時に聖なる光が舞い降り……その瞬間、長らく我らの心を覆っていた重い霧のようなものが一気に晴れ渡ったのです。ここ最近の記憶はぼんやりと霞み、貴方様方に対してどのような無礼を働いていたのかすら定かではありませんでした……。しかし今、聖なる光によって魂が覚醒いたしました! どうか……どうか不徳な我らの無礼をお許しくだされ……!」
国王陛下が深々と平服すると、それにならうように大広間を埋め尽くしていた貴族たちも、次々とその場に平伏し始めた。
「や、お辞めください! 拙者は女神の使いでも何でもありませぬぞ! ただの……ただの侍で……!」
「いいえ! 教会の高位聖職者も共にこの奇蹟を拝見し、紛れもなく『女神の御使い様』であると正式に認定しておりますれば……!」
よく見れば、国王陛下のすぐ後ろで豪奢な宗教服を着た大司教らしき僧侶が床に額を押し付け、涙を流しながら熱心に感謝の祈りをブツブツと唱えている。
(かんべんしてくれ……!!)
幕末の修羅場を幾度も潜り抜けてきた俺であったが、この「神格化」の大波には耐えきれず、思わず助けを求めるように後方へ向かって叫んでいた。
「あ、アナスタシアーーーーッ!!」
◇
卒業パーティーの狂騒から数日が経過した。 本日は貴族議会への会合出席のため、公爵家の一員として全員で王城へと向かうこととなった。 この会合には関係者全員が召集されており、議題の第一位が「俺の今後の身柄と扱いについて」だというのだから、実に頭が痛い。
王城に到着し、重厚な廊下を静かに案内される。 かつて王妃との茶会で訪れた庭園や、式典の行われた大広間は外部と直結していたため、城の深奥部へ入るのはこれが初めてであった。
通路はどこまでも広く、見上げるほど天井は高く、大きな窓には透き通るガラスが嵌め込まれている。日ノ本の重々しい木と瓦の城郭とはまるで異なる異国の景色に、俺は何度目かの感嘆を覚えずにはいられなかった。
案内された議場は壮大な円形構造をなしていた。 外側が高く、内側に向かって擂り鉢状に低くなっており、全体の視線が中央へ集中するように設計されている。 王国の政務を担う重鎮たちが中央を固め、傍聴・閲覧のみを許された貴族たちが外郭を囲む。
そして俺たち王太子の婚約者候補(だった者たち)の座席は、中央の最前列に用意されていた。 全方位からの好奇と畏怖の混ざった視線が突き刺さり、どうにも居心地が悪いが、こればかりは諦めるしかない。
やがて議会が開会された。 ここに至っては、俺という存在の『正体』を明確に開示せねば話し合いが進まぬため、包み隠さずすべてを語ることにした。
本来のアンジェリカは死に至る呪いを被り、幾度も虚無の転生を繰り返した末に精神の死を迎えていたこと。 女神がその不憫な魂を救い上げるため、肉体の天寿を全うさせるべく、身代わりとして俺の魂を遣わしたこと。 俺はかつて日ノ本という国に生まれた武人であり、同じく日本の記憶を持って生を受けたアナスタシアと協力し、呪いの因果を突き止めて対処してきたこと――。
「――件のあやかし……いや、呪いの化身の浄化を女神に祈り、天からの光が降ったのであれば、あれこそがすべての元凶であったと見て相違ありますまい」
そう結び、アンジェリカに懸かっていた『強制力(呪い)』が完全に解呪されたことを告げた。
次に、あの卒業パーティーにおける王太子の『独断による宣誓』についてだが、こちらは議会において正式に無効・破棄が承認された。 調査によると、王太子の記憶は学園に入学した頃からどこか曖昧になっていたという。元より短気な気質ではあったものの、婚約者候補たちに対して個人的な憎悪があったわけではなく、何者か(システム)の意図に操られていた節が強かったようだ。
とはいえ、操られていたとはいえ犯した過ちの規模が大きすぎたため、王太子の資格は一旦『保留・一時剥奪』となり、厳しい再教育プログラムを受けることとなった。
一方のカレン嬢だが、彼女もまた当時の記憶が綺麗に抜け落ちており、現在は本来の真面目な性格に戻って一から勉強をやり直しているらしい。元より努力家で純朴な女性であったため、当面は経過観察という扱いだ。
将来、再び王太子との交流が戻る可能性もあるが、その際は王太子側が王位継承権を放棄して一貴族として添い遂げればよい――それが王家の導き出した冷静な裁定であった。
アナスタシア、マリーベル、ジョアンナの次なる縁組については、議会から正式に承認が下り、滞りなく成立した。
そして――最後にして最大の懸案事項として残されたのが、俺の今後の行く末であった。
呪いが解けたと知るや否や、各派閥の貴族たちから「我が家へ」と凄まじい勢いで縁談の打診が殺到した。 だが、俺は議場の中心でハッキリと断言した。
「――不仕付けながら、俺は生涯結婚するつもりはない。生涯独身を通させていただく」
どよめく議場を余所に、今度は「ならば我が聖堂の象徴・聖女としてお迎えしたい」と教会から熱烈な要請が飛んだ。俺は静かに首を振った。
「それもお断りする。俺は刃を握り、時には殺生すら厭わぬ現場の武人。神に祈りを捧げる清廉な聖職者など柄ではない」
「で、では……今後は一体どのようにしてお過ごしになるおつもりで……!?」
困惑する議長や貴族たちを見渡し、俺は腰のミスリル十手を軽く叩いて微笑んだ。
「――俺は、騎士になろうと思う。だが、王族や権力者を護るための近衛ではない。この王国の市井に生きる平民、庶民の日常と治安を……足元から護る『街の騎士』になりたいのだ」
かつて江戸の町で、見廻組として市井の安寧を護るために命を張ったように。 この異世界においても、権力闘争の泥沼ではなく、懸命に生きる民の味方でありたい。それが俺の矜持であり、武士としての生き様であった。
公爵家の人々は、その申し出を温かい目で見守り、快く認めてくれた。 後ろに座っていたアナスタシアは、「……ふふ、あなたらしくて素敵ね」と扇の陰で嬉しそうに目を細めて笑っていた。
貴族たちは俺を陣営に引き込めなかったことを大いに残念がっていたが、すぐに「ならば次の学期で我が息子を騎士科へ移籍させ、彼女の側近にさせよう」「いや我が家が先だ」と、早くも俺の周りに令息を送り込もうと新たな画策を始め出す始末であった。
こうして長い貴族議会は閉会し、俺は誰のシナリオでもない、自分自身の道を一歩踏み出すこととなったのだ。
――数か月後。 新学期の日の光が注ぐ学園の門を、俺はくぐった。 ドレスを脱ぎ捨て、身に纏うのは動きやすい男装の騎士制服。腰にはあの白レースと朱紐で飾られたミスリル十手。
「ご機嫌よう、アンジェリカ様! いえ……これからは『騎士アンジェリカ』とお呼びすべきかしら?」
隣を歩くアナスタシアが、悪戯っぽく微笑みかけてくる。 その後方からは、マリーベルやジョアンナ、さらにはあの課外実習で共に戦った男子貴族たちや冒険者上がりの学生たちが、慕うような笑顔で集まってくるのが見えた。
「このような平和な時を守らんとな…」
俺は口元を緩めると、風に髪をなびかせながら、青空の下へと颯爽と歩みを進めたのだった。
<本編完>
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とのことなので、AIラベルは表示されていないようです。
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本作はAI(Gemini)を利用し、作者が文章を書き→AIに校正を行ってもらい→それを再度見直し、修正・削除を行っています。
基本お話は完全に手作りですが、描写等のもサポートしてもらっています。




