第二幕(9)
第八回アイリス異世界ファンタジー大賞に参加します。
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家の門をくぐると、屋敷の入り口に馬車が停まっていた。紋章を見るとどうやらクラレンス・ブラックウェル様が来ているようだ。クラレンス様はローレンスお兄様の昔からの男友達。戦争で出兵した際に若くして優秀であったために、クラレンス様自体が伯爵の称号を授かっている。
馬車を横目に屋敷に入り、食堂へと向かった。
廊下でクラレンス様と出くわした。
「クラレンス様、こんにちは」
「こんにちは。レディーメアリー」
金髪で端正な顔つきのクラレンス様がニコリと微笑む。そのきらりと光るような笑顔に、どれだけの女性がやられたものか。
他人事のように言うが、私もたまにドキリとさせられる時がある。前世行き遅れの記憶が蘇った今の私は特に。
あたふたとしながら話題を振る。ちょうどクラレンス様の手元には花の入った花瓶があった。
「クラレンス様。そのお花は?」
「ん? ああ、前にローレンスの部屋に花が飾られていたのを見かけてね。確かに殺風景だったから、花を飾るのもいいかなって思って持ってきたんだ。今、水を貰いに行っていたんだよ」
「そうなんですね! ローレンスお兄様も喜ぶと思います!」
私の考えていることが広がったような気がして、私の顔にもパァ~っと笑顔が広がった。それが伝染したのかクラレンス様も笑顔になる。
「私にはメアリー嬢の笑顔が嬉しいよ」
「えっ?」
クラレンス様が持つピンクのバラのように、私の頬もピンク色に染まった。
照れ臭い。話題を変えよう。
「ク、クラレンス様はまだ来たばかりですか?」
「ん? ああ、そうだが?」
「それでしたら、今から親子丼を作りますから、ローレンスお兄様と一緒に食べて頂けませんか?」
「食べるのは構わないけど、親子丼とは?」
「東方の国の食べ物です!」
うっかり言い切った。東方に本当にあるのだろうか? いや、ないであろう。前世の記憶の食べ物なのだから。まあいいわ。
「メアリー嬢の手料理か……それは楽しみだな」
眩い笑顔が余計に眩しくなったわ。
「部屋にお持ちしますから、ローレンスお兄様と楽しみにお待ちください」
「ああ、楽しみにしているよ」
私の頭を優しく撫でて、ローレンスお兄様の部屋へと戻って行った。撫でられた頭に両手を置き呟く。
「そんなに子供ではありませんわ」
ここは私の腕の見せ所ですわね。ガツンとしながら優し気な味の親子丼で、クラレンス様の胃袋を掴んで女らしさを見せて差し上げますわ。
厨房に向かい、早速親子丼を作る。家の料理人やメイドと一緒に。
「できましたわ!」
メイドが「メアリーお嬢様、私たちが運びますよ」と言っていたけど、ローレンスお兄様と水入らずで食事をしたかったので、両親とマークお兄様に運ぶのを任せた。
私は鼻歌交じりに親子丼を運んだ。
「お待たせしました」
扉を開けるとローレンスお兄様は上体を起こしてクラレンス様と話をしていた。
「あ、あれ? お話のお邪魔でしたか?」
二人がニコリと笑みを返す。
「いや、メアリー嬢が親子丼という美味しいものを作ってくれるから楽しみだねって話をしていただけだよ」
「もうっ! ローレンスお兄様を驚かせたかったのに、先にネタバレしちゃったのですか?」
「君の手料理が食べられると喜んでいたよ」
恥ずかしそうにクラレンス様の口を閉じようとするローレンスお兄様。私も戦争前の頃に戻ったように心が温まる。こんな風に過ごしていたっけ。
昔に想いを馳せながら、親子丼を二人に手渡す。うん、なんかいいムードの何もかもを親子丼が台無しにしているわね。なんか合わないわ!
食べるタイミングの悪さを感じながらも私も親子丼を手に取り椅子に座る。
「それじゃあ、頂こうか」
「どうぞ召し上がれ」
三人で親子丼を食べる。ローレンスお兄様は少しずつ食べているが箸は止まらない。クラレンス様においてはがつがつと食べて箸が進む。
「この甘じょっぱいソースが美味しいね。今までに食べたことのない味だ」
「……そうだな……私もメアリーと今まで過ごしていて、初めて口にする味だ」
おおおおお! ローレンスお兄様が喜んで下さっているのがわかる! 私も安心して箸を進めた。
食後の二人の食レポ。
「あの甘じょっぱいソースのおかげで、いくらでも食べれそうだ。甘い香りだけでご飯が食べれる」
ジョークを交えながら親子丼を語るクラレンス様。
「美味しいし食べやすいから、また食べたいな。肉が入っているから元気が出そうな気がするし」
ローレンスお兄様の言葉に、私も元気を貰う。元気出ますか!? そうですか!? いつでも作りますわ!
食器を下げながらローレンスお兄様の変化を思う。確かに元気が出ているような気がする。神経張り詰めるような食事の場で食べるよりも、丼みたいな手軽なものを食べる方が、心が休まるのかもしれない。
「腹ごなしに少し庭園を散歩しないか?」
「……ああ、そうだな……久しぶりに外を歩きたい気分だ」
クラレンス様、ナイスなお誘い! そして、ローレンスお兄様が外に出たいと思うようになったことは大きな進歩だわ。
読んで頂きありがとうございます。
サブタイトルの「甘い香りで男の人を虜にしちゃう!?」とありますが、決して親子丼の甘い香りではありません(汗)。
アロマの甘い香りとかをイメージしたサブタイトルですが、意図せず親子丼が出てきてしまい、先に甘い香りを奪ってしまったという(笑)。
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