第二幕(8)
第八回アイリス異世界ファンタジー大賞に参加します。
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親子丼計画もとい、カイゼル子爵と会う日が来た。今後の命運がかかっているだけに緊張するわ。
庶民的な服でもなく、かといってドレスでもないが、何かあって汚れても問題なく尚且つおしゃれな服装にしておいた。庶民的な服だと失礼な気もするし、その反面、ドレスが汚れても何か思われそうで怖い。まあ、カイゼル子爵が優しいということは知っているけれども、その話をまた聞きした人は良い印象を持てないかもしれない。今後の事業の為、念には念の為ね。何しろ一番最初に私の事業を宣伝してくれそうなのは貴族となるでしょうから。
早速、カイゼル子爵の屋敷に馬車で向かう。
「本日はお時間を頂きありがとうございます」
スカートの裾をつまみ上げお辞儀をする。
「今日はよろしく頼むよ。何か料理を作るらしいね? 犬カフェ? とかいうのも開業するらしいじゃないか」
「ええ、そうですわ……」
肯定しておいて、大事なことを忘れていたことに気づいたわ。
『商業ギルドに犬カフェの開店申請をしていなかった件』
……まあ後回しにしても問題ないでしょう。開店するのはまだだし。
カイゼル子爵とその息子のスコットと一緒にカイゼル子爵の馬車に乗り、カイゼル子爵が営んでいるヘイルズ商会の倉庫へと向かった。ちなみに我が家の馬車も後からついて来ている。理由は購入したものを積み込むためである。お願いします! 私のお小遣い持ちこたえて!
身売りをされることはないだろうが、馬車が進む中でドナドナの鼻歌を歌った。
広い敷地に同じような建物が並んでいるのが見えてきた。これがヘイルズ商会の倉庫らしい。門に辿り着くと詰め所の中には門番がいた。門番は出てくるとカイゼル子爵に挨拶をする。
「これはこれはカイゼル子爵。今日はカイゼル子爵が自らお越しとは何かありましたか?」
カイゼル子爵は門番にニコリと笑顔を向ける。
「こちらのメアリー嬢が美味しい料理を作って見せてくれるそうだ」
うぇっ? 私が料理を作る流れになってる!?
まあ、色々と融通を利かせて貰う代償としてそれはそれでありかな?
馬車を馬房に停めて倉庫内の見物兼購入交渉が始まった。
倉庫の鍵を開けて貰い、中を物色する。どうやらここは食糧庫のようだ。
食糧庫内を見て回る。次々と瓶に入った蓋を開けると、少し紫色に帯びた黒と言える液体を見つけた。
「試醤棒ってあります?」
「試醤棒?」
カイゼル子爵は首を捻っている。そのままスコットとアイコンタクトをしているようだが、スコットも首を振っている。まさか私がおかしなことを言い出したというアイコンタクトじゃないでしょうね?
「すまないが試醤棒とはなんだい?」
どうやら残念な子認定されたわけではなく、ほっと胸をなでおろしながら説明をする。
「えっとですね。醤油の味を確認するための道具です」
そう答えるとカイゼル子爵は倉庫番と話をして、試醤棒を持ってきてくれた。
「あった! これが醤油だ!」
「これはムラサキだが、醤油とも言うのか」
ムラサキ。前世のお醤油の昔の呼び方ね。ややこしいことにならずにわかりやすくてよかったわ。
お醤油を見つけた後も、昆布や他の材料を探してそれらを少し分けて貰った。レシピと取引ということでただで譲ってもらえることになった。お財布にダメージがなくてよかったわ。
この倉庫内を見て気づいたことがある。
「この倉庫内って東方の国の食材ですか?」
カイゼル子爵は驚きの顔をする。
「ほう? メアリー嬢は東方の食料のことをご存じか」
「え、ええまあ」
余計なことを言ったか? まあ、間違ったことを言ったわけでもないしいいわよね。
だが、変な方向に飛び火した。
「メアリー嬢は犬カフェとかを経営するそうだね?」
「え、ええ、そうです」
流石、貴族社会の情報網。いや、大きな商会を築き上げたカイゼル子爵の情報網か?
次の言葉に驚きを隠せない。
「スコットをメアリー嬢の下で働かせてもらえないかな?」
「は、はい」
ここまでして貰って拒否権はないよね~。まあ、人手が手に入ることは嬉しい誤算だけどね。
気分的にだけ犬カフェが発展した。
ハーブ類も購入し、いや、親子丼のレシピとの取引の一環に入っているのでただで貰い、ヘイルズ商会を後にした。
そして、ヘイルズ子爵邸なう。
「それじゃあ、キッチンは好きに使っていいから」
「はい」
拒否権の無い親子丼づくりが始まりました。
鶏肉と玉ねぎを切り、昆布から取った出汁、お醤油、お酒、お砂糖、みりん……はなかった。それらを鍋に入れて煮込む。勿論ぬかりなくご飯は先にお鍋で炊き始めている。
久しぶりの料理でてんてこ舞い。前世も含めていつぶりかしら? 前世ではコンビニのお弁当やカップラーメンを食べていた記憶がある。
お醤油を甘くしたような香りが厨房内を漂う。レシピを教える為に一緒に料理を作っていたヘイルズ家の料理人もごくりと唾を飲み込む。
「できたわ!」
完成した。まとめて作ったので、まずは試食分を取り分けて、料理人、スコット、私の三人で食べてみる。
「美味しい!」
スコットが感激している。料理人もうんうんと頷きながら味わっている。私も久しぶりの和の味に涙を流しそうだわ。
スコットの両親にも振る舞うと、高評価であった。喜んでいただけたようで何よりですわ。レシピは料理人さんに教えておきましたから。
ヘイルズ邸を後にして、家に帰る。勿論、レシピと取引したものを馬車に積んで。
読んで頂きありがとうございます。
親子丼のシーン。
甘じょっぱい香りが作者の頭の中にも入り込んできて、食べたくなりました!
でも、最近食べたばかりだったりします(笑)。
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改:2026年3月13日
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