04 妹のお手柄
04 妹のお手柄
出発を目前にした朝、食卓の新聞を見て、手が止まった。
【王太子の婚約者のお手柄! 古文書から新種の植物を発見】
記事には、ルーシーの名前があった。
古代語に造詣の深い公爵令嬢が、家の書庫に眠っていた箱から種と古文書を見つけて解読した。
発見された向陽草は、国に富をもたらす可能性がある。
殿下は婚約者の知性を称賛し、王家の農園で栽培試験を始める意向を示した。
読み終えた私は、新聞を置いた。
「ルーシー。これはどういうこと?」
妹はジャムを塗っていた手を止めた。
「あら。もう新聞に載ったのね」
「私の訳文を使ったの?」
「何をおっしゃっているの、お姉様。私が頑張って訳したのよ」
妹は母を見た。
「ねえ、お母様」
「朝から言い争いはやめてちょうだい」
母は私の前の皿を見た。
「食べないなら、下げさせるわよ」
私はナタリーを振り返った。
彼女は壁際に立ったまま、目を伏せていた。
その顔を見て、最後の気持ちが消えた。
ルーシーが得意顔で言った。
「先日の領地宛ての便で、試験用の畑へ送ったわ。まだ少ないけれど、増やせばよいのでしょう?」
「お父様も、ご存じなのですね」
父は新聞を畳んだ。
「王家もすでに動いている。今さら騒ぎを起こすな」
「私が解読したものです」
「家の中の手柄を、誰のものだと争ってどうする。ルーシーはいずれ王太子妃になる。国のためになるのだ」
私は父を見た。
婚約も、公務も、私の時間もルーシーのものにするのにためらいがない人だ。
「全文を、お読みになったのですか」
「十分に読んだわ」
ルーシーがすぐに答えた。
「お父様もお読みになったのですね」
「あれの有用性に気がついたのはルーシーだ」
父は新聞を畳んだまま答えた。
「わかりました。私は無関係ということですね」
「お姉様が教えてくださらなくても、私たちでできます」
私は机の上に残した訳文を思い浮かべた。
あれには栽培方法も、採油方法も書かれている。
けれど、その先はない。
私はゆっくり息を吸った。
「……わかりました。公爵家は、そういうお考えなのですね」
父が眉を寄せた。
「どういう意味だ」
「家を出ます。以前お話ししたとおり、家名も返します」
「勝手にしなさい」
母が答えた。
「ただし、公爵家とは今後いっさいかかわりを持つな。家の名を出して何かを求めることも、許しません」
父が低い声で続けた。
「出ていく以上、お前はもう公爵家の人間ではない。二度とかかわるな」
「あとで困っても、泣きついてこないでちょうだい」
母がそう言い足した。
私は立ち上がった。
「ええ。そのようにいたします」
そちらこそだわ。
誰の顔も、もう一度見たいとは思わなかった。




