表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊王の愛し子は愛する王を奇跡の雨で祝福する  作者: 櫻井金貨
第2部 現世

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/19

第13話 一緒に、この国を守る

 フィオリーナが王宮に迎えられたその日の夜。

 国王イアンとフィオリーナは、初めて夕食を共にした。


 イアンが用意したのは、来客がない時に家族で使っていたという、小さなダイニングルームだった。


「もう両親はいないし、私はふだん、自分の部屋に食事を運ばせて食べてしまうのだけど。二人で食べるならここがいいのではと思ったのだ」


 イアンはそう言って、フィオリーナを席までエスコートした。


 小さなダイニングルームとはいえ、大きな長テーブルの両端に座れば、それでも二人きりの食事には広すぎるように感じられた。


 テーブルの中央には、大きく立派な銀の燭台が置かれ、燭台の向こうに座るフィオリーナはなんだか小さく見えた。


 落ち着かなげなフィオリーナの様子を目に留めると、イアンは突然立ち上がり、フィオリーナのそばにやって来た。


「私はここに座ろう」


 フィオリーナと、テーブルの角をはさんだ席にさっと座った。

 給仕の召使い達があわてて、イアンの席から食器を移し始めた。


 「料理は一度に運んできてくれないか。フィオリーナも王宮に移ってきたばかりだ。長々と給仕していたら、疲れてしまう」


「かしこまりました、陛下」


 給仕はうやうやしくお辞儀をして下がると、イアンの指示どおりにすべての料理を運び込み、そっと退出した。


 ダイニングルームには、フィオリーナとイアンの二人だけだ。


「これで少しは落ち着いて話せる」


 イアンが微笑んだ。


「お心遣い、感謝申し上げます」


 フィオリーナはほっとしてお礼を言った。

 そんなフィオリーナを、イアンは静かに見つめていた。


「あなたは、二年前と比べて、だいぶ大人っぽくなったね。あの時、精霊王の愛し子に選ばれて、妃となることが決まった。今さらではあるが、あなたはそれでいいのだろうか? もし、妃となることが本意でないなら、そう言ってくれて構わない」


 フィオリーナは驚いてイアンを見つめた。

 大きく見開かれたスミレ色の瞳には、戸惑いと、不安があった。


「すまない。逆にあなたを驚かせてしまったようだ」


 イアンは困ったように眉を下げた。


「誤解しないでくれ。あなたと結婚するのが嫌だというわけではない。二年も待たせてしまって、誤解させたかもしれない。しかし……ただ——国のためにあなたを利用したくはないのだ。あなたが精霊王の愛し子だからといって、あなたが自分の幸せを犠牲にすることはない、と思っている」


「わたくしの……幸せ?」


 フィオリーナが不思議そうに頭をかしげた。


「少し話していいだろうか? 退屈な話かもしれないが」


 そう断って、イアンは話し始めた。


「私は、国の命運をただ精霊王の加護に、そして精霊王の愛し子の力に任せることは正しくない、と思っている。我らの国なのだ。加護に期待して何もしないのは、間違っている。ここ何年か、ずっと学者達と研究を続けてきた。実は来週に、セイル川の水源調査に出かける予定なのだ」


 イアンは静かな声で、「うまくすれば、セイル川の問題を見つけ、新たな水源を見つけることもできるかもしれない」と続けた。


 フィオリーナはじっとイアンを見つめた。

 セイル川で初めて出会った時、イアンは二十代半ばだった。

 あれから二年。

 イアンは三十歳に近くなっているだろう。


 父王の病死により若く即位したイアンは、すでに国王として十年近い経験を持っているはずだ。


 自身の結婚問題は先送りにして、国のために働いてきた若き国王。

 精霊神殿でも、町中でも、人々はイアン王に期待し、とても好意的だ。

 それはフィオリーナも知っている。


 そんな彼が真剣に取り組んできたならば、フィオリーナがまったく気がつかなかった問題を見つけているのでは——。

 フィオリーナもまたイアンに期待して、じっと耳を傾けた。


「フィオリーナ、信じられないかもしれないが、たしかに、わが国は祝福されているのだ。その証拠が、セイル川だ。雨も降らず、水流も乏しいのに、我々の井戸にはまだ水がある」


 フィオリーナは深呼吸をした。


「それでも——雨は必要なのでしょう?」


 イアンはうなずいた。


「そうだ。だから、あなたには引き続き、祈ってほしい。しかし」


 イアンは真剣な表情になった。


「雨が降らなくても、それはあなたのせいではない。すべては自然の恵み。どうして一人の人間を責められようか。たしかに、精霊王の予言では、精霊王の愛し子を妃に迎えると、国が栄えると言われた。しかし」


 そこでイアンは少しためらって、言葉を継いだ。


「予言だからという理由だけで、あなたと結婚したくない。あなたが精霊王の加護を受けた存在であるなら、私はフローランド王国を守る責務を持つ人間だ。もし、二人が協力できるなら」


 イアンは静かにフィオリーナを見つめた。


「一緒に、この国を守っていけるのではないか。フィオリーナ、あなたのことは、私が守る。こんな私であるが、あなたは私との結婚を望んでくれるだろうか?」


 とくん、とフィオリーナの心臓が音を立てた。


 精霊王の愛し子だから、予言があるから、結婚したいと言われるのかと思っていた。

 あなたと恋に落ちたから——そんなロマンチックな理由でないことは、最初からわかりきっていたのだ。


(でも、ここまで率直にお心を打ち明けてくださるとは思わなかった。なんて誠実な方なのかしら)


 フィオリーナは改めてイアンを見つめる。

 イアンもフィオリーナを見た。

 イアンの視線が揺らぐことはなかった。


(この方は、わたくしを一人の人間として見てくださっているのだわ)


 フィオリーナの心が温かくなっていった。


 二人で協力して、一緒に、この国を守る。

 フィオリーナにとって、それはこれ以上なくまっすぐで、真実のある言葉に感じられた。


 フィオリーナはうなずいた。


「はい、陛下」


 まるで小さな花がゆっくりとほころぶように、フィオリーナの顔に満開の笑顔が広がった。


「喜んでお受けいたします」


 その瞬間、イアンはフィオリーナの笑顔に、心臓が止まるような衝撃を受けた。


「あ……」


 イアンの心臓がドキドキとおかしいほど鳴り始める。

 しかしフィオリーナはそんなイアンには気づかずに、嬉しそうに言葉を続けた。


「結婚があなたのために、人々のために——そして国のためになるのなら」


 こうしてイアンとフィオリーナは、二人だけで、改めて結婚の約束を交わした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ