第11話 精霊王の愛し子選び
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さんは、精霊神殿に伝わる神聖な条件を満たした方々。この中に、精霊王の愛し子がいると、我々は信じております」
「まあ」
神殿に集められたのは、フローランド王国全土から集められた少女達。
その数は二十人ほどだろうか。
「案外、多いのね」
ロキシーがぼそりとつぶやいた。
彼女は、自分が選ばれると信じて疑っていない。
少女達は全員、神殿で用意された白のワンピースを着ていたが、ロキシーだけは生家の侯爵家が用意したという、豪華な白のドレスを着て立っていた。
侯爵家では、娘を王妃にすると決め、わざわざロキシーを大神官の養女に送り出したのだ。
その意志は固く、ロキシー本人も同様だ。
「皆さんにしていただくことは簡単です。大神官がこの水盤の前で精霊王に祈ります。この水は、精霊王の国に通じると言われているセイル川の水を汲んだもの。皆さんにはこれからお渡しする紙に、ご自身の名前を書いていただきます」
少女達は不思議そうな顔をして、じっと神官の説明を聞いていた。
「お一人ずつ名前をお呼びしますので、呼ばれた方は名前を書いた紙を水盤に入れてください。精霊の愛し子であるなら」
神官は神妙な表情でうなずいた。
「その方の名前は水底に沈むことなく、浮かび続けます」
ロキシーの顔色が変わった。
「まさか! ありえないわ。紙なのでしょう。濡れたら沈んだり、破れたりするはず」
大神官アンドレイが立ち上がった。
「そのとおり。だからこそ、精霊王が選ばれた愛し子の名前は、沈むことなく我々にその存在を教えてくれるのです。では名前を書いて。最初の方は——アメリア」
大神官アンドレイは淡々と少女達の名前を読み続け、いよいよ「フィオリーナ」と呼んだ。
「はい」
フィオリーナは水盤の前に進み出て、そっと紙を水盤に浮かべた。
それまでに入れられていた紙は、次々に沈み、水盤に浮かんでいる紙は一枚もなかった。
フィオリーナの名前を書いた紙が水面に浮かぶと、アンドレイは「ロキシー」と呼んだ。
「あなたで最後です。紙を入れてください」
アンドレイに促されて、水盤の前に進み出たロキシーは、そこにフィオリーナの紙がまだ沈むことなく水面に浮かんでいるのを見つめた。
「!!」
ロキシーは険しい目でフィオリーナをにらみつける。
しかし、とっさにフィオリーナの紙に重ねて自分の紙を入れようとしたロキシーを、神官がさえぎった。
「どの紙にも触れてはいけません。空いている場所に入れるように」
ロキシーは赤くなりながら、フィオリーナの紙とは反対側に自分の紙を落とし入れる。
それから数分間、誰も口を開く者はいなかった。
「決まりました」
沈黙を破ったのは、アンドレイの声だった。
「フィオリーナを『精霊王の愛し子』として、ここに認定する」
わっと歓声と拍手が神殿にこだました。
「嘘よ!!」
ロキシーは水盤に駆け寄り、中を覗き込む。
「嘘——」
しかし、水面に浮かんでいたのは、ただ一枚。
フィオリーナの名前を書いた紙だけだった。
ロキシーの名前を書いた紙は沈み、あまつさえ水に溶けて、すでにその名残りすらなかった。
神官達がロキシーを水盤から引き離す。
大神官が精霊王への祈りを唱え始めた。
フィオリーナもその場でひざまづき、心からの祈りを捧げていた。
(精霊王様、どうか、フローランド王国に恵みの雨を降らせてください)
フィオリーナの祈りは、過去も、今も、変わることがない。
精霊王の愛し子と認定されても、神官見習いであっても。
心から願うのは、母国を癒す、恵みの雨ただひとつだった。
***
「フィオリーナ様。こちらが、フィオリーナ様のために王宮にご用意したお部屋でございます。……いかがでございますか? お気に召さないところがあれば、すぐ変えさせますので、遠慮なく——」
「いいえ、マイロー夫人。何もかもよく整えてくださって、ありがとう。わたくしから望むことは何もありません」
フィオリーナが精霊王の愛し子に選ばれてから、二年。
十八歳になったフィオリーナは、イアン国王の正式な婚約者となった。
住居も、今までの神殿での住まいを離れ、王宮に用意された部屋へと移り住むことになった。
結婚式は来月。
国民も待ちに待ったその日は、まもなくやってくる。
「フィオリーナ様!」
「フィオリーナ様!!」
真新しい侍女服を着込んだ三人の少女達が、可愛らしいカーテシーを披露して、フィオリーナを迎えた。
「えっ!? ロザリー? エリカ? エレノア——!?」
フィオリーナに呼びかけられて、少女達は大喜びで飛び上がっている。
「まあ。あなた方、落ち着きなさい。フィオリーナ様、彼女達は身の回りのお世話をする侍女達でございます。フィオリーナ様がいよいよ王宮に来られるということで、全国からフィオリーナ様のために働きたいという者が殺到いたしまして。この子達は、そんな競争を勝ち抜いた、優秀な少女達なのでございますよ」
マイロー夫人が厳しさの中にも優しさを込めて、三人を見つめる。
「身分は選考基準から外されております。イアン陛下のご命令により、何よりも、フィオリーナ様のお力になれる、そんな人材を選びましたのでご安心ください」
「「「わたくし達、一生懸命にお仕えいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」」」
そう言って頭を下げた少女達を、フィオリーナは嬉しそうに見つめた。
「ありがとう、みんな。とても心強いわ。一緒に頑張りましょうね」
「「「はい!!」」」
「そうだわ。これからセイル川へお祈りに行くのだけど、あなた方も一緒に来る?」
「「「はい、お供いたします!!」」」
元気のあり余っている少女達に、マイロー夫人がたまらず叫んだ。
「まあまあ、フィオリーナ様、今日王宮に来られたばかりではありませんか! 少しは体をお休めくださいませ……!!」




