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異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第1章:ハズレ ~使えないと言われた日~
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第4話:初めての冒険

 翌朝、俺は冒険者ギルドへ向かった。


      ◇ ◇ ◇


 冒険者ギルド。


 石造りの大きな建物の前で、俺は深呼吸をした。ここに来るまでに、いくつかのことが分かった。この世界では、冒険者として働くのが手っ取り早い生計手段らしい。モンスター退治、護衛、採取、調査——仕事は多岐にわたる。


 重い扉を押し開けると、酒と汗の匂いが鼻を突いた。昼間だというのに、あちこちで冒険者たちの笑い声が響いている。壁には依頼書が所狭しと貼られ、カウンターでは受付嬢が忙しそうに対応していた。


 周囲を見回すと、冒険者たちの様々な姿が目に入った。筋骨隆々の戦士、杖を持った魔法使い、身軽そうな盗賊風の男。どいつも歴戦の雰囲気を漂わせている。


 俺は場違いな気分になりながらも、カウンターに向かった。


「新規登録ですか?」


 カウンターに近づくと、受付嬢が笑顔を向けてきた。茶色い髪を後ろで束ねた、親しみやすい顔立ちの女性だ。二十代半ば、柔らかな雰囲気とは裏腹に、その対応には無駄がない。胸元にはギルドのエンブレムが刺繍されている。


「ああ、冒険者になりたいんだが」


「では、こちらの用紙にご記入を。名前、年齢、スキルがあればそれも」


 渡された羊皮紙に、俺は必要事項を書き込んだ。スキル欄で手が止まる。


 『学習知能ラーニング・インテリジェンス


 書くべきか、書かざるべきか。


「……情報系スキル、って書いていいか?」


「はい、詳細を書きたくない場合は大まかな分類で構いません」


 助かった。「ハズレスキル」と広まるのは避けたい。


 登録手続きは思ったより簡単だった。身分証代わりのプレートを受け取り、俺は正式に冒険者となった。鉄のプレート。最低ランクらしいが、スタートラインに立てただけで十分だ。


 プレートを首にかけると、少しだけ気持ちが引き締まった。これで俺も、この世界の住人として認められたことになる。


 心の中でAIに話しかけた。


「俺、冒険者になったぞ」


『登録完了、おめでとうございます。これで生計を立てる手段が確保できました』


「もうちょっと喜んでくれてもいいだろ」


『私は道具です。感情はありません。ただ、状況が改善したことは事実です』


 相変わらず素っ気ない返事だ。でも、不思議と安心する。少なくとも、俺は一人じゃない。頭の中にいる相棒がいる。たとえ、こいつが「的外れ」な答えしか出せなくても。


 ——育てれば使える。きっと使える。そう思っていた。そう信じることにした。


 だから、ここから始めるんだ。


      ◇ ◇ ◇


「初めての依頼ですね。おすすめはこちらです」


 受付嬢が指差したのは、「薬草採取」の依頼書だった。


「レイヤ草を十本。森の入り口付近に自生しています。初心者向けで、報酬は銀貨一枚」


 銀貨一枚。宿代が銀貨一枚だから、一日分の宿代になる。悪くない。


「モンスターは出るのか?」


「森の入り口付近であれば、スライム程度です。逃げれば追ってきませんので、戦闘は避けられます」


 薬草を採るだけ。戦闘なし。これなら俺でもできそうだ。


「これにする」


 俺は依頼書を手に取った。羊皮紙に書かれた文字は、この世界の共通語だ。なぜか読めるのは、召喚された時に何らかの補正がかかったのだろう。言葉も通じるし、文字も読める。そこだけは助かっている。


「かしこまりました。レイヤ草の特徴はご存知ですか?」


「いや、知らない。この世界のことは何も知らないんだ」


「でしたら、こちらの説明書をお持ちください。葉の形と、生育場所の目安が書いてあります」


 受け取った紙には、簡単なスケッチと説明が書かれていた。


 『レイヤ草:緑色の細長い葉、先端が少し丸みを帯びる。湿った日陰に多く自生。根元に小さな淡い花が咲くこともある』


 なるほど。これなら見つけられそうだ。


 ただ、せっかくAIスキルがあるんだから、もう少し詳しい情報が欲しい。


 俺は心の中でAIに話しかけた。


      ◇ ◇ ◇


「レイヤ草について、何か知っているか?」


『「レイヤ草」という名称は私の学習データに存在しません。しかし、薬草一般についての情報はお伝えできます。この世界のレイヤ草について、何か情報をお持ちですか?』


 そうだった。こいつは異世界の固有名詞を知らない。


「さっきもらった説明書によると、緑色の細長い葉で、湿った日陰に生えるらしい。根元に淡い花……白っぽい花が咲くこともあるって」


 説明書には「淡い花」と書いてあった。淡いってことは、白っぽいってことだろう。たぶん。


『情報をありがとうございます。白っぽい花が咲くのであれば、それを目印に探すと効率的です。また、湿った環境を好む植物は、沢や小川の近く、大きな木の根元などに群生することが多いです』


「なるほど、白い花を目印に、沢の近くを探せばいいんだな」


『はい。ただし、これは一般的な薬草の傾向であり、レイヤ草に確実に当てはまるかは不明です』


「分かった。参考にする」


 AIが「不明です」と言った部分を、俺は聞き流した。


 白い花を探せばいい。シンプルだ。


 まだ昼前だ。今から行けば夕方前には戻れるだろう。


      ◇ ◇ ◇


 昼過ぎ、俺は森に向かった。


 街を出て、麦畑の間を抜け、丘を越えると森が見えてきた。陽の光が木々の間から差し込み、明るい雰囲気だ。


 森の入り口を過ぎ、沢の音が聞こえる方向に足を進めた。湿った落ち葉を踏みしめると、土と緑の匂いが鼻腔を満たした。


 ところどころで鳥の鳴き声が響き、木漏れ日が地面に斑模様を描いている。前世ではこんな自然に囲まれることはなかった。オフィスと自宅を往復するだけの日々。画面越しでない「本物の森」に、俺は少し感動していた。


 大きな木の根元、湿った地面。条件に合う場所を探す。


「あった」


 目に入ったのは、緑色の細長い葉。先端は少し丸みを帯びている。そして根元には——白い花。


 AIが言っていた通りだ。白っぽい花を目印に探せばいい。


 間違いない。レイヤ草だ。


 俺は慎重に根元から抜き取り、持参した袋に入れた。


 そこからは順調だった。沢沿いを歩くと、同じ特徴の草が次々と見つかる。AIの言う通り、群生しているようだ。


「七本、八本……よし、十本」


 目標達成。思ったより早く終わった。


 袋の中には、青々とした葉が詰まっている。根元には可愛らしい花。完璧だ。初めての依頼にしては上出来だろう。


 帰り道、俺は心の中で鼻歌を歌っていた。異世界生活、意外といけるかもしれない。スキルもちゃんと役に立っている。


 浮かれていた。完全に油断していた。


 俺は意気揚々とギルドに戻った。


第4話「初めての冒険」 完


次回:第5話「初めての失敗」


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