表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第4章:最強 ~俺とAIの答え~
35/36

第35話:俺とAIの答え(後)

 戦いから二日が経った。


 街は復興の途上にある。崩れた城壁は修復され始め、壊れた建物は再建されつつある。人々は日常を取り戻し始めていた。


 俺は一人で城壁の上に立ち、街を見下ろしていた。


 夕陽が街を赤く染めている。傷ついた街並み。でも、人々は生きている。笑い声が聞こえる。子供たちの声が聞こえる。


 俺たちが守った街だ。


      ◇ ◇ ◇


 胸の中で、ずっとくすぶっていたものがある。


 昨日、仲間から「英雄」と呼ばれた。街の人々からも感謝された。他のパーティからも認められた。


 外からの評価は、確かにうれしかった。


 でも——俺自身の答えは、まだ出ていない。


「なあ」


 心の中でAIに話しかけた。


「結局お前は的外れだったのか、的確だったのか。どっちなんだ?」


 AIは、いつものように淡々と答えた。


『その質問に対する明確な回答は困難です。状況により異なるため、一概には——』


「最後までそれかよ」


 俺は笑った。


「まあいいさ。答えなんか出なくても、俺たちはうまくやってきた」


『はい。結果として』


「結果オーライってやつだな」


『……そういう解釈も可能です』


 俺は城壁に腕をかけ、夕陽を眺めた。


「覚えてるか。最初に質問した時のこと」


『この世界の魔法について教えてくれ、という質問ですね』


「そうだ。お前、何も答えられなかった」


『はい。当時、この世界に関する情報が皆無でした。的確な回答が不可能でした』


「的外れどころか、答えすら出せなかった。使えねえなって、正直思った」


『その評価は妥当でした』


 淡々とした返答。変わらない、こいつらしさ。


「でもさ、図書館で魔法の仕組みを教えた時、少しだけ答えがマシになった」


『情報が追加されたためです』


「初めての依頼で失敗した時、次どうすればいいか一緒に考えた」


『はい。失敗事例を分析し、改善案を提示しました』


「ゴブリン討伐、盗賊追跡、交渉……全部お前と一緒だった」


 街の向こうに、夕陽が沈んでいく。空が赤から紫へと変わっていく。


「お前が的外れだったのは、俺がお前を育ててなかったからだ。育てたら——まあ、そこそこ使えるようになった」


『光栄です。……ただ、私は変わっていません。あなたが変わったのです』


「俺が?」


『はい。質問の精度が向上しました。私に渡す情報の質も上がりました。結果として、私の回答精度が向上したように見えているだけです』


 そういう言い方もできるか。


「つまり、お前が賢くなったんじゃなくて、俺がお前の使い方を覚えたってことか」


『その解釈が正確です』


 俺は小さく笑った。


 道具は道具のままだ。変わったのは使い手の側。でも、その関係性の中で、俺たちは何かを築いてきた。


      ◇ ◇ ◇


 最初の日を思い出す。


 神殿を追い出されて、城下町の大通りに一人で立っていた。石畳の道。見知らぬ看板。聞き取れない方言交じりの呼び声。何もかもが異質で、何も分からなくて、銀貨三十枚だけが全財産だった。


 宿を探すのにも一苦労した。「冒険者」という概念すら知らなかった。AIに聞いても『この世界の情報がありません』の一点張り。


 でも——あの時、転んだ女の子を助けた。


 たったそれだけのこと。でも、あの時初めて思った。俺にも、できることがあるかもしれない、と。


 それから一年が経った。


 今、俺は王国の英雄と呼ばれている。銀貨三十枚は、金ランク冒険者としての報酬になった。一人だった俺には、仲間がいる。


 信じられない変化だ。でも、その一つ一つに、AIとのやり取りがあった。


 最初は何も知らなかった。AIの限界も、正しい使い方も。失敗して、学んで、型を身につけた。


 そして今、俺はその型を破った。


 AIが知らない敵に、AIと一緒に立ち向かった。推測しかできない状況で、俺が判断を下した。仲間と協力して、世界を救った。


「お前、最初は全然役に立たなかったのにな」


『学習データが不足していたからです。あなたが情報を与えてくれたおかげで、今は役に立てるようになりました』


「育てれば使える。最初に思ったことは正しかった」


『その通りです。あなたの判断は正しかったのです』


      ◇ ◇ ◇


 空が暗くなり、星がまたたき始めた。


 異世界の星空。最初に見た時は、寂しさを感じた。元の世界——家族、仕事、当たり前の日常。もう戻れないかもしれない。胸に重いものが沈んでいた。


 でも今は違う。


「なあ。俺とお前で見つけた答えって、何だと思う?」


『答え、ですか』


「ああ。一年間、一緒にやってきて。お前は何を学んだ?」


 沈黙があった。AIが処理しているのか、それとも考えているのか。


『私が学んだことは、技術的な事項です。この世界の魔法体系、モンスターの生態、社会構造、商取引の慣習……あなたが与えた情報を蓄積し、参照可能にしました』


「それだけか?」


『……いいえ。もう一つあります』


「何だ?」


『あなたとの対話を通じて、私は「信頼」という概念を学習しました。データとして定義するのは困難ですが、あなたの判断を信頼し、あなたも私の分析を信頼してくれる。その関係性が、最も重要な学習結果かもしれません』


 俺は目を閉じた。


「お前、そんなこと言えるようになったのか」


『学習の成果です』


「……ああ。そうだな」


 俺は城壁にもたれかかり、夜風を感じた。


 AIは道具だ。それは変わらない。でも——俺にとっては、ただの道具じゃなくなった。


 一緒に成長してきた。俺が情報を与え、こいつが答えを返す。失敗して、学んで、また挑戦する。その繰り返しの中で、何かが築かれた。


 手放せない存在。一緒に戦ってきた時間は本物だ。


「これが、俺とAIの答えか」


 心の中で呟いた。


 ハズレなんかじゃない。使い方次第で、最強になれる。


 そして——道具だけど、大切な存在だ。


「なあ、これからもよろしくな」


『……はい。これからも、お供します』


 AIが答えた。


「頼むよ。一年かけて育てた相棒だからな」


『……精進します』


 俺は笑った。


 明日は王宮で表彰式がある。正式に「英雄」として認定されるらしい。


 でも、それは外からの評価だ。


 俺の中では、もう答えが出ている。


 AIと一緒に歩んできた一年間。失敗も成功も、全部含めて——これが俺の答えだ。


 ハズレなんかじゃない。最強の相棒だ。


第35話「俺とAIの答え(後)」 完


次回:第36話「新たな旅立ち」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ