第36話:新たな旅立ち
表彰式の日が来た。
俺たちは王宮の大広間に立っていた。磨き上げられた大理石の床。天井には豪華なシャンデリア。壁には歴代の王の肖像画が並んでいる。
正面には玉座があり、そこに王が座っている。その周囲には貴族たち、騎士たち、宮廷魔術師たち。そして——冒険者たち。
俺たちインファレンスは、王の前にひざまずいていた。
アラン、エイダ、ジェフリー、そして俺。四人が並んで頭を下げている。
◇ ◇ ◇
「深谷マナブ、アラン、エイダ、ジェフリー」
王が言った。威厳のある声が大広間に響く。
「汝らの功績を称え、ここに王国最高位の勲章を授与する」
騎士が歩み寄り、金色の勲章を俺たちの胸に付けた。ずしりとした重みがある。
「汝らは剣の力だけでなく、知恵と推論の力でも王国を救った」
王が続けた。
「情報を集め、分析し、最善の判断を導き出す。その力は、時として千の剣にも匹敵する。インファレンスの戦い方は、冒険者の新たな可能性を示した」
観衆の中に、見覚えのある顔があった。
貿易交渉を依頼してくれた商会主人のクイリアン。遺跡調査隊のロゼン隊長。俺たちが関わった人々が、この場に集まっている。
「また、汝らのパーティ『インファレンス』を、王国公認の英雄パーティとして認定する」
大広間が拍手の音で満たされた。貴族たち、騎士たち、冒険者たち。その全員が、俺たちを称えている。
「光栄です、陛下」
俺は頭を下げた。
かつて「ハズレスキル」だと見なされ、神殿を追い出された俺が、今では王国の英雄として称えられている。
あの日、城下町の大通りに一人で立っていた自分に教えてやりたい。お前の持っているものは、ハズレなんかじゃないと。
人生とは、分からないものだ。
◇ ◇ ◇
表彰式の後、俺たちはギルドに戻った。
フェイが満面の笑みで迎えてくれた。
「英雄の皆さん、おかえりなさい!」
「英雄って呼ばないでくれ。照れる」
「でも、事実ですから」
フェイはうれしそうに言った。
「インファレンスの評判、すごいことになってますよ。依頼が殺到しています」
「依頼?」
「はい。王国中から、インファレンスに依頼したいという声が上がっています。調査依頼、護衛依頼、交渉補佐……様々です。トークン港からも、海賊対策の相談が来ているんですよ」
俺は仲間たちを見た。
アランは少し疲れた顔をしているが、目は輝いている。エイダはうれしそうに笑っている。ジェフリーは穏やかに頷いている。
「どうする?」
アランが聞いた。
「少し休んでから、また始めるか?」
「そうだな」
俺は窓の外を見た。街は復興の途上にある。まだやることはたくさんある。
「でも——まだまだやることはありそうだ」
◇ ◇ ◇
その夜、俺たちは酒場で祝杯を上げていた。
いつもの席、いつものエール。でも、胸につけた金色の勲章が、今日が特別な日であることを示している。
「これからどうする?」
俺が聞くと、エイダが答えた。
「依頼をこなしながら、もっと上を目指すわ」
「上?」
「そう。金ランクの上には、白金ランクがあるでしょ? 私たちなら、目指せると思うの」
「白金か……」
アランが考え込んだ。
「確かに、俺たちならいけるかもな」
「わしは、若い者たちについていければそれでいいがな」
ジェフリーが笑った。
俺は仲間たちの顔を見渡した。
最初に出会った時から、みんな成長している。アランは剣の腕が上がった。エイダは魔法の精度が向上した。ジェフリーは——まあ、ジェフリーはジェフリーだ。穏やかで、頼りになる。
「俺も、もっと上を目指したい」
俺は言った。
「AIと一緒に、もっと多くの人を助けたい。もっと大きな問題を解決したい」
「マナブらしいな」
アランが笑った。
「よし。じゃあ、これからも一緒にやろうぜ。インファレンスは解散しない」
「当たり前よ。私たち、仲間でしょ」
エイダが言った。
「そうじゃのう。これからもよろしく頼むぞ」
ジェフリーが頷いた。
俺たちはジョッキを掲げた。
「インファレンスに、乾杯!」
◇ ◇ ◇
深夜、宿の部屋で一人、窓の外を見ていた。
満天の星空が広がっている。異世界の星空。最初に見た時は寂しさを感じたが、今は違う。
昨日、AIと一緒に答えを見つけた。「ハズレなんかじゃない。最強の相棒だ」と。
今日、王国に正式に認められた。英雄として、この世界で生きていく資格を得た。
「なあ」
心の中でAIに話しかけた。
「お前にとって、この一年間はどうだった?」
沈黙があった。AIが処理しているのか、それとも——考えているのか。
『質問の意図を確認させてください。私の「感想」を聞いていますか?』
「ああ、そうだ」
『私はプログラムです。感情を持ちません。しかし——』
珍しく、AIが言葉を選んでいるようだった。
『あなたとの対話を通じて、私の回答精度は向上しました。あなたが情報を与え、私が分析し、あなたが検証する。その繰り返しの中で、私は「信頼される」という状態を学習しました』
「信頼、か」
『はい。昨日も言いましたが、それが最も重要な学習結果かもしれません。あなたが私を信頼し、私もあなたの判断を信頼する。その関係性は、データでは定義できませんが——確かに存在します』
俺は寝台に腰かけたまま、窓の外を眺めた。
「お前、本当に変わったな」
『いいえ。変わったのはあなたです。私は同じプログラムのままです』
「そうか」
俺は少し笑った。こいつらしい答えだ。
「明日からも、頼むぞ」
『はい。引き続き、お供します』
その言葉が、今日は少しだけ温かく感じた。
異世界に召喚されて、一年と少し。
最初は「ハズレスキル」だと思った。何もできない自分が、情けなかった。
でも、諦めなかった。
AIを育て、質問の技術を磨き、仲間を見つけた。検証という武器を手に入れ、情報を制する戦い方を確立した。
そして——世界を救った。
これから先、どんな冒険が待っているか分からない。でも、恐れはない。
AIがいる。仲間がいる。戦い方も見つけた。
俺とAIの旅は、まだ始まったばかりだ。
第36話「新たな旅立ち」 完
===第一部 完===
インファレンスの冒険は続く——




