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異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第4章:最強 ~俺とAIの答え~
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第33話:最大の試練(後)

 ベイモスが一時撤退してから、数時間が経った。


 俺たちは城壁の陰で態勢を立て直していた。負傷者の治療、武器の修復、魔力の回復。誰もが疲労困憊だが、休んでいる暇はない。


 ベイモスは王都の北で蹲っている。傷を癒しているのか、次の攻撃に備えているのか。いずれにせよ、また来る。


「次が最後のチャンスだ」


 俺は仲間たちに言った。


「心臓部の傷はまだ開いている。あそこに封印術を叩き込めば、終わる」


「でも、どうやって?」


 エイダが聞いた。魔力を使い果たし、顔色が悪い。


「さっきと同じ作戦じゃ、またほうこうで吹き飛ばされるだけよ」


 俺は頷いた。その通りだ。同じ手は通用しない。


「だから、タイミングを見極める必要がある」


      ◇ ◇ ◇


 俺はAIに話しかけた。


「戦闘中に撮った静止画、全部見せてくれ」


 Lv.2で撮り続けたベイモスの画像。戦闘中、隙を見つけるたびに「保存」と叫んで記録していた。何枚あるか分からない。でも、そこに何かヒントがあるはずだ。


『了解しました。戦闘開始から現在までに保存された静止画は14枚です』


 14枚。俺の記憶では、もっと撮ったつもりだった。でも、戦闘中は余裕がなかった。


『画像を時系列順に並べます。分析を開始しますか?』


「頼む。何でもいい。パターンを探してくれ」


 沈黙。AIが処理している。俺はまぶたを閉じて待った。


『分析完了しました。興味深いパターンを発見しました』


「何だ?」


『ベイモスの心臓部には、発光パターンがあります。14枚の画像を比較したところ、ほうこう後に発光が弱まる瞬間があります。その間隔は約7秒。誤差は±0.5秒です』


「7秒……」


 俺は目を開けた。


『ただし、これは推測です。異世界の魔物に関する学習データはありません。あくまで、あなたが渡した観察結果に基づく推測です』


 推測か。外れるかもしれない。


 でも——


「他に手がないなら、賭けるしかない」


 俺は立ち上がった。


      ◇ ◇ ◇


 作戦会議を開いた。


 他のパーティのリーダーたちも集まっている。金髪の女冒険者——『グラディエント』のリーダー。銀髪の剣士——『オプティマ』のリーダー。宮廷魔術師の長。


 まず、宮廷魔術師の長が報告した。


「封印術の準備が整いました。本来なら三日は必要でしたが、皆さんの攻撃で心臓部の防御が弱まり、必要な術式を簡略化できました」


 連携攻撃の成果だ。時間を稼ぐだけでなく、封印の条件も整えていたことになる。


「ベイモスには弱点のタイミングがある」


 俺は説明した。


「ほうこうの後、約7秒間だけ心臓部の防御が弱まる——と分析した。確証はない。だが、その瞬間に封印術を叩き込めば、成功する可能性は高い」


「7秒? どうやって分かった?」


 銀髪の剣士が眉を上げた。


「戦闘中に観察したデータを分析した。俺のスキルでな」


 詳しくは説明しなかった。AIのことを話しても、理解されないだろう。


「確証がないと言ったな。それで俺たちに命を賭けろと?」


「ああ。他に手がないなら、賭けるしかない」


 俺は真っ直ぐに彼を見た。


「7秒か……」


 金髪の女冒険者が腕を組んだ。


「封印術を発動するには十分な時間だ。でも、そのタイミングをどうやって合わせる?」


「俺がカウントダウンする。ほうこうが来たら、俺が『4秒後に心臓を狙え』と叫ぶ。その合図で全員が動く」


 沈黙が落ちた。


 リスクが高いのは分かっている。俺の分析が間違っていたら、全員死ぬかもしれない。


「……信じよう」


 銀髪の剣士が言った。


「さっきの戦いで、お前の判断力は見た。悪くなかった」


「私も乗るわ」


 金髪の女冒険者が頷いた。


「勝機があるなら、賭ける価値がある」


 宮廷魔術師の長も同意した。


「タイミングさえ合えば、必ず成功させます」


 俺は深呼吸した。


「よし。最後の戦いだ」


      ◇ ◇ ◇


 ベイモスが動き出した。


 再び王都に向かって進軍している。傷は完全には癒えていない。心臓部からは、まだ淡い光が漏れている。


 俺たちは迎撃に向かった。


 今度は全員が連携している。冒険者、兵士、魔術師。全員が俺の合図を待っている。


「来るぞ……」


 ベイモスがほうこうを上げた。大地が震える。


 俺はLv.2で静止画を保存しながら、ベイモスを観察した。心臓部の発光。呼吸のリズム。腕の動き。全てを見逃さない。


「グオオオオオ!!」


 ほうこうが来た。衝撃波が俺たちを襲う。


 俺は体を低くして耐えた。目はベイモスから離さない。


『ほうこう確認。カウント開始——7、6、5……』


 AIの声が頭の中で響く。


「アラン! 4秒後に心臓を狙え!」


 俺は叫んだ。


「4秒だな!?」


 アランが叫び返し、走り出した。ベイモスの心臓部に向かって。


「エイダ! 援護を!」


「ファイアボール!」


 エイダの火球がベイモスの目を狙い、注意を逸らす。


『3……2……』


 アランが跳躍した。ベイモスの腕が振り下ろされる。間に合うか——


『1……』


 ベイモスの心臓部の発光が弱まった。


 アランの剣が、傷口に突き刺さる。


「グアアアアア!!」


 ベイモスが絶叫した。心臓部から光が溢れ出し、封印の刻印が完全に露出する。


「今だ! 封印術を!」


 宮廷魔術師たちが一斉に詠唱した。何十人もの魔術師が同時に魔法陣を展開する。


 光が収束し、ベイモスの心臓部に向かって伸びていく。無数の光の糸が、傷口に入り込み、封印の刻印を活性化させる。


      ◇ ◇ ◇


 まばゆい光が世界を包んだ。


 目を開けられないほどの輝き。熱くもなく、冷たくもない。ただ純粋な光。


 そして——静寂が訪れた。


「……終わった……?」


 誰かが呟いた。


 俺は目を開けた。


 ベイモスの姿は消えていた。代わりに、大地に巨大な魔法陣が刻まれている。千年前と同じ封印。今度こそ、本当の封印だ。


「封印……成功した……!」


 俺は膝から崩れ落ちた。


 全身から力が抜けていく。緊張と疲労が一気に押し寄せてきた。手が震えている。足が震えている。


 でも——勝った。


「やった……! やったぞ……!」


 周囲から歓声が上がった。抱き合う冒険者たち。泣き崩れる兵士たち。魔術師たちの安堵の溜息。


「マナブ!」


 アランが駆け寄ってきた。泥と血にまみれた顔で、満面の笑みを浮かべている。


「お前の作戦、当たったな! 4秒カウント、ぴったりだったぜ!」


「……ああ」


 俺は笑った。


「AIのおかげだ。あいつが、パターンを見つけてくれた」


 エイダとジェフリーも駆け寄ってきた。全員、ボロボロだ。でも、全員生きている。


「勝ったのよ……私たち、勝ったのよ……!」


 エイダの目から涙がこぼれた。


「ああ。勝った」


 俺は仲間たちの顔を見渡した。


 インファレンス。推論する者たち。


 剣も魔法も使えない俺が、情報を武器に、AIと一緒に戦ってきた。失敗して、学んで、成長してきた。


 そして今日——世界を救った。


第33話「最大の試練(後)」 完


次回:第34話「俺とAIの答え(前)」


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