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異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第4章:最強 ~俺とAIの答え~
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第30話:迫る脅威

 王国の記録庫で調査を始めて一週間。


 俺たちは膨大な資料を読み漁り、封印された魔物についての情報を集めていた。


「……これか?」


 俺は埃まみれの棚から、古い羊皮紙の束を引き出した。


 紐が腐りかけている。開こうとすると、端がボロボロと崩れた。


「気をつけろ。千年前の資料だぞ」


 ジェフリーが手を伸ばし、慎重に羊皮紙を広げていく。俺は隣から覗き込んだ。


「読めるか?」


「かろうじて……字が薄くなっておる。インクが経年で劣化しておるな」


 ジェフリーが目を細め、一文字ずつ読み取っていく。


「『災厄の……ベイモス』。これじゃ」


 聞き慣れない名前だ。俺は首を傾げた。


「ベイモス?」


「千年前に封印されたとされる魔物の名じゃ」


 仲間たちが俺の周りに集まった。


「続きは?」


「待ってくれ。この部分は虫食いで……」


 ジェフリーが紙を光にかざし、読める部分を拾っていく。


「『ベイモスは大地を揺るがし、全てを破壊する力を持つ。その体は岩よりも硬く、そのほうこうは山を砕く。賢者たちは力を合わせ、三つの遺跡にその力を分散して封印した』」


「三つの遺跡……俺たちが調べたやつか」


 アランが呟いた。


「北部、西部、東部。封印を分散させたってことは、一つの遺跡だけじゃ封じ込められなかったってことだ」


 俺は記述を分析しながら続けた。


「千年前、か……」


 アランが眉を寄せた。俺も頷いた。


「記録には『千年を持つよう設計された』とある。今がちょうどその頃だとすれば——」


「待って」


 エイダが羊皮紙を指さした。


「ここ、見て。『封印は星の巡りと共に弱まる』って書いてある」


 ジェフリーが顎髭を撫でた。


「占星術の概念じゃな。千年周期の天体配置のことじゃろう。封印は時間だけでなく、天体の動きとも連動しておる」


「天体って……それ、俺たちにはどうしようもないだろ」


 アランの声にいらだちが混じる。


 俺は心の中でAIに情報を整理させた。


「この記録から、封印崩壊のリスク要因を抽出してくれ」


『ベイモス封印のリスク要因を整理します。


一、時間経過:設計上の耐用年数(千年)が経過

二、天体配置:星の巡りによる封印力の低下

三、分散封印の構造的脆弱性:一箇所が崩壊すると連鎖する可能性


補足:一つが崩壊した場合、残りの封印にかかる負荷が増大し、崩壊が加速する恐れがあります』


「連鎖崩壊か」


 俺は仲間たちを見回した。


「最悪の場合、一つ崩れたら全部崩れる。時間がないかもしれない」


 重い沈黙が落ちた。


 俺は続きを読んだ。


「『封印は千年を持つよう設計された。しかし、いずれ力は弱まる。その時に備え、我らは対抗手段を残す』」


「対抗手段?」


 エイダが身を乗り出した。


「残念ながら、具体的な内容は書かれていない」


 俺は首を振った。


      ◇ ◇ ◇


 さらに調査を進めると、ベイモスの弱点に関する記述が見つかった。


「『ベイモスは強大だが、無敵ではない。その体は岩の如く硬いが、心臓部には封印の刻印がある。そこを攻撃すれば、再び封印することが可能』」


「心臓部に封印の刻印……」


 俺は記述を読み返した。


「でも、そんな巨大な魔物に近づいて、心臓を狙うなんてできるの?」


 エイダが首を傾げた。


「簡単じゃないだろうな」


 俺は答えた。


「でも、方法があるのは確かだ」


 俺はAIに情報を渡した。


「ベイモスに関する情報を整理してくれ。弱点と対処法について」


『ベイモスに関する情報を整理します。


特徴:

・大地を揺るがす巨大な魔物

・岩より硬い体

・ほうこうで山を砕く力


弱点:

・心臓部に封印の刻印がある

・この刻印を攻撃すれば再封印が可能


対処法の推測:

・直接攻撃は困難。陽動や足止めが必要

・心臓部への接近方法を確保する必要がある

・封印の術を使える者が必要


不足情報:

・具体的な封印術の内容

・心臓部の正確な位置

・ベイモスの行動パターン』


「まだ情報が足りないな」


 俺は資料を探し続けた。


      ◇ ◇ ◇


 調査を続けていたある夜。


 緊急の知らせが届いた。


「インファレンスの皆さん! 大変です!」


 使者が息を切らせて駆け込んできた。


「北部の封印遺跡が……崩壊しました!」


 俺たちは顔を見合わせた。


「崩壊?」


「はい! 地震と共に遺跡が崩れ落ち、中から巨大な何かが……」


 使者の声が震えていた。


 俺は立ち上がった。


「すぐに王宮へ行こう」


      ◇ ◇ ◇


 王宮は騒然としていた。


 兵士たちが慌ただしく動き回り、魔術師たちは緊急の対策を練っている。


 王は俺たちを見るなり、険しい顔で言った。


「来てくれたか」


「陛下、記録庫の調査で分かったことがあります」


 俺は手短にベイモスについて説明した。千年前に封印された災厄の魔物。三つの遺跡に分散して封印されていること。そして、封印が千年を限度に設計されていたこと。


 王の顔がさらに険しくなった。


「……なるほど。それで状況が繋がった」


 王は重々しく続けた。


「北部の封印が完全に崩壊した。同時に、西部と東部の封印も急速に弱まっている。おそらく、一つが崩れたことで連鎖的に……」


「ベイモスは?」


「北部で目撃された。だが、今は地中に潜っているらしい。次にどこに現れるか分からない」


 俺は心臓が早鳴りするのを感じた。


 最悪の事態が起きた。封印が解け、ベイモスが復活した。


「対策は?」


「今、宮廷魔術師たちが封印術の準備を進めている。だが、完成には時間がかかる」


「どれくらい?」


「少なくとも三日」


 三日。その間、ベイモスが暴れ回れば、どれだけの被害が出るか分からない。


「時間を稼ぐ必要があるな」


 俺は言った。


「俺たちにできることは?」


      ◇ ◇ ◇


 緊急の対策会議が開かれた。


 金ランク以上の冒険者たち、宮廷魔術師、軍の将軍たちが一堂に会している。


「ベイモスの動きを予測し、被害を最小限に抑える」


 将軍が言った。


「できれば、封印術が完成するまで足止めしたい」


「足止めって言っても、相手は山を砕く魔物だぞ?」


 別の冒険者が言った。


「正面から戦っても、返り討ちにあうだけだ」


 俺は手を挙げた。


「一つ、提案があります」


 全員の視線が俺に集まった。将軍の目は懐疑的だ。冒険者風情が何を言う、という目。


「ベイモスの行動を予測することは可能です。地中を移動するなら——」


「待て」


 将軍が遮った。


「予測だと? 千年前の魔物の動きを、どうやって予測するというのだ」


「地震です。あれだけ巨大な存在が地中を移動すれば、必ず振動が発生します。魔力感知の網を張れば——」


「机上の空論だ」


 別の将軍が鼻を鳴らした。


「魔術師たちは封印術の準備で手一杯だ。観測網などに人員を割く余裕はない」


 俺は歯を食いしばった。


「では、ベイモスが次にどこに現れるか、どうやって知るつもりですか?」


 沈黙が落ちた。


「このまま何もしなければ、街を一つ潰されてから気づくことになる。それでいいんですか?」


 将軍が眉を寄せた。だが、反論はなかった。


 宮廷魔術師の長が口を開いた。


「……理論上は可能だ」


 場の空気が変わった。


「準備に半日ほどかかるが、封印術とは別系統の術だ。人員を分ければ、並行して進められる」


 将軍が渋い顔をしたが、王が頷いた。


「やってみろ」


「ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。


      ◇ ◇ ◇


 会議が終わり、俺たちは宿に戻った。


「いよいよだな」


 アランが言った。


「最大の敵が動き出した」


「怖いわね」


 エイダが正直に言った。


「でも、逃げるわけにはいかないでしょ?」


「逃げない」


 俺は仲間たちを見た。


「俺たちにできることをやる。情報を集め、分析し、最適な行動を導き出す。それがインファレンスだ」


「その通りじゃ」


 ジェフリーが穏やかに言った。


「大きな敵に対しても、やることは変わらん。知恵と情報で戦う。それがわしらの武器じゃ」


 窓の外では、緊急を告げる鐘が鳴り響いていた。


 街全体に、緊張感が漂っている。


 脅威は、確実に迫っていた。


第30話「迫る脅威」 完


次回:第31話「最大の試練(前)」


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