第20話:戦場の知恵(後)
# 第20話:戦場の知恵(後)
夜が来た。
月明かりが森を照らす中、俺たちはオークの巣に近づいた。
見張りのオークが二匹、入り口に立っている。他のオークたちは洞窟の中で眠っているようだ。
「見張りを処理してから、突入する」
アランが小声で言った。
「エイダ、合図をしたら火魔法を撃ち込んでくれ。俺が見張りを斬る」
「了解」
俺は全体を見渡し、仲間に指示を出した。
「見張りを倒した後、中から出てくるオークを待ち構える。一度に相手にするのは三体まで。それ以上来たら一旦引いて態勢を立て直す」
「分かった」
全員が頷いた。
◇ ◇ ◇
アランが闘気を纏い、見張りのオークに斬りかかった。
一撃目で一匹を倒し、二匹目が反応する前にエイダの火球が飛んだ。
「ギャアアア!」
オークが悲鳴を上げ、倒れる。
洞窟の中から、怒号が響いた。目を覚ましたオークたちが、次々と飛び出してくる。
「来るぞ!」
俺が叫んだ。
三体のオークが現れ、アランに向かってきた。棍棒を振り上げ、突進してくる。
「任せろ!」
アランが迎え撃つ。剣が閃き、一体目を斬り倒す。二体目の攻撃を受け流し、反撃。
エイダの火球が三体目に命中し、炎に包まれたオークが倒れる。
「次が来る!」
俺は洞窟の入り口を注視していた。さらに四体が出てくる。
「多い! 一旦引け!」
「分かった!」
アランが後退し、俺たちも下がる。オークたちは追ってくるが、足並みが揃っていない。
「今だ! 先頭を狙え!」
エイダの火球が先頭のオークを直撃。続くオークが仲間の体躯に躓き、動きが止まる。
アランが反転し、隙を突いて斬り込む。
◇ ◇ ◇
戦闘は激しさを増した。
オークたちは次々と現れ、俺たちに襲いかかる。だが、作戦通りに各個撃破を続けることで、数の不利を補っていた。
俺は戦況を見渡しながら、仲間に指示を出し続けた。
「左から二体! アラン、注意しろ!」
「分かった!」
「エイダ、あの大きいのを狙え!」
「了解!」
ジェフリーは後方から回復魔法を飛ばし、仲間の傷を癒していく。
そして——リーダー格のオークが姿を現した。
「でかい……!」
アランが息を呑んだ。
他のオークより頭二つ分大きく、手には巨大な棍棒を持っている。目は怒りに燃え、こちらを睨みつけていた。
「あれを倒せば終わりだ!」
俺が叫んだ。
リーダーのオークがほうこうを上げ、突進してきた。
◇ ◇ ◇
アランがリーダーと正面から激突した。
剣と棍棒がぶつかり合い、火花が散る。だが、力ではオークが上回っている。アランが押し返される。
「くっ……重い……!」
「エイダ、援護!」
俺が叫ぶと、エイダが火球を放った。だが、リーダーのオークは片手で火球を払いのける。
「効かない!?」
「皮膚が厚いんじゃ! 魔法耐性がある!」
ジェフリーが言った。
まずい。正攻法では勝てないかもしれない。
俺はAIに問いかけた。
「魔法耐性のある敵に対する攻撃法は?」
『魔法耐性を突破する方法としては、以下が考えられます。
一、物理攻撃に集中する
二、弱点部位(目、関節など)を狙う
三、複数の魔法を同時に叩き込み、防御を飽和させる
四、間接的な攻撃(足元の地面を燃やすなど)
現在の状況で最も有効なのは、弱点を狙った集中攻撃と思われます』
「弱点を狙う……目だ!」
俺は叫んだ。
「エイダ、目を狙え! 皮膚は厚くても、目は無防備だ!」
「分かった!」
エイダが火球を生成する。今度は小さく、速く。
リーダーのオークがアランに向かって棍棒を振り下ろした瞬間——
「今だ!」
火球がオークの目に命中した。
「ギャアアアア!!」
リーダーが悲鳴を上げ、棍棒を落として目を押さえた。
「アラン!」
「おおおお!」
アランが渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
オークの首に剣が食い込み——リーダーが倒れた。
◇ ◇ ◇
リーダーが倒れると、残りのオークたちは逃げ始めた。
統率を失い、散り散りになっていく。
「追うか?」
「いや、深追いは危険だ。村に戻って報告しよう」
俺が言うと、全員が頷いた。
戦いは終わった。
◇ ◇ ◇
村に戻り、オーク討伐の成功を報告した。
村人たちは歓声を上げ、俺たちに感謝の言葉を浴びせた。
「本当にありがとうございます! これで安心して暮らせます!」
報酬の金貨十二枚を受け取り、俺たちはギルドに帰還した。
フェイが報告を聞き、目を丸くした。
「オーク二十体近くを四人で討伐? それも重傷者なしで?」
「作戦がうまくいった」
「作戦って……すごいですね。普通のパーティなら、この規模のオーク討伐は銀ランク以上じゃないと受けられない依頼ですよ」
フェイは少し考え込んでから、笑顔を見せた。
「実は、皆さんの昇格審査が通りました」
「昇格?」
「はい。インファレンスの皆さん、銀ランクへの昇格おめでとうございます」
◇ ◇ ◇
銀ランク。
冒険者としての中堅に位置するランクだ。受けられる依頼の幅が広がり、ギルドからの信頼も上がる。
「銀ランクか……早いな」
アランが感慨深げに言った。
「結成して一ヶ月ちょっとなのにね」
エイダも驚いている。
「情報を制する者は戦を制す。昔からの言葉じゃが、まさにそれを体現しておるな」
ジェフリーが穏やかに笑った。
俺は新しい銀色のプレートを手に取った。
重さは銅のプレートと変わらない。でも、持っている感覚が違う。
少し前の俺を思い出す。
図書館で本を読み漁っていた頃。AIに異世界の情報を必死で覚えさせていた頃。何もできなくて、何も分からなくて、ただ情報を集めることしかできなかった。
「ハズレスキル」。誰に言われたわけでもない。でも、周囲の態度から感じ取った評価が、ずっと頭にこびりついていた。
「フェイさん」
俺は受付に声をかけた。
「質問なんですが、召喚されたとき、俺のスキルは周りから『戦力外』って扱いを受けました。そういう、戦闘向きでないスキルを『ハズレ』って呼ぶこと、ありますか?」
フェイは一瞬戸惑った顔をした。
「えっと……召喚者の間では、そういう呼び方をすることもあるみたいです。戦闘向きでないスキルを指す俗語として」
「やっぱりそうか。召喚されたとき、周りの態度から『ハズレ扱いされてるな』って感じ取った。俺自身も、正直そう思った時期があった」
フェイは黙って聞いている。
でも、今日、それが変わった。
「使い方次第で変わるんですね。ハズレかどうかは、最初から決まってるわけじゃない」
フェイは少し考えてから、微笑んだ。
「そうですね。冒険者の評価は、スキルではなく実績で決まります。マナブさんは、それを証明しました」
心の中で、AIに話しかけた。
「俺たち、やったな」
『はい。銀ランクへの昇格、おめでとうございます』
「ありがとうな。お前がいなきゃ、ここまで来れなかった」
『私は道具です。成果はあなたのものです』
「いいや、俺たちの成果だ」
『……そのような解釈も、受け入れます』
相変わらず素っ気ない。でも、ほんの少しだけ、AIの声が柔らかく聞こえた気がした。
周囲からハズレと見なされていた俺のAIが、ここまで来た。仲間と共に、銀ランクに到達した。
「これで終わりじゃないぞ」
アランが言った。
「次は金ランクだ。インファレンス、もっと上を目指そう」
全員が頷いた。
俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。
第20話「戦場の知恵(後)」 完
次回:第21話「仲間たちの想い」




