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異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第3章:開花 ~街を駆け巡る噂~
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第19話:戦場の知恵(前)

 インファレンスとして活動を続けて数週間。その日、オーク討伐の依頼が舞い込んだ。


 報酬は金貨十二枚。今までで最も高額な依頼だ。


「オークか……手強いな」


 アランが腕を組んだ。


「ゴブリンとは訳が違う。一体一体が成人男性より大きく、力も強い」


「私の魔法で、何体まで対応できるかしら」


 エイダが不安そうに言った。


「無理をする必要はない。情報を集めて、万全の準備をしてから挑もう」


 俺が言うと、全員が頷いた。


 これがインファレンスのやり方だ。まず情報を集め、分析し、最適な戦略を立てる。


      ◇ ◇ ◇


 依頼主は近隣の村の代表者だった。


「森の奥にオークの群れが住み着きまして。最近、村の周辺にまで現れるようになったのです」


「群れの規模は?」


「正確には分かりませんが、目撃されたのは十体ほど」


「十体か……」


 俺は心の中でAIに確認した。


「オークの群れに関する情報はあるか?」


『オークに関する直接的な情報はありませんが、類似する生物の生態から推測できます。群れで行動する知的な人型生物の場合、リーダー格の個体が存在することが多いです。また、群れのサイズは目撃数の1.5〜2倍程度であることが一般的です』


「目撃が十体なら、実際は十五から二十体くらいか」


 俺は仲間たちに共有した。


「AIの推測だと、群れの規模は十五から二十体の可能性がある」


「倍近く増えるのか。厳しいな」


 アランが渋い顔をした。


「ゴブリンの時と同じだ。まず偵察して、正確な情報を集めよう」


      ◇ ◇ ◇


 森に向かう前に、俺たちは村で情報収集を行った。


 オークを目撃した村人たちに話を聞き、出没場所、時間帯、行動パターンを把握していく。


「朝方に畑を荒らしに来ることが多いですね」


「大きな個体が一匹、他の奴らに指示を出していたように見えました」


「武器は棍棒みたいなものを持ってました」


 情報が集まっていく。俺はそれをAIに伝え、整理してもらった。


「集まった情報を整理してくれ。オークの群れ、朝方に活動、リーダー格の存在、武器は棍棒。他に何か推測できることはあるか?」


『情報を整理します。


確定事項:

・群れで行動(十体以上)

・朝方に活動(夜行性ではない)

・リーダー格の大型個体が存在

・武器は棍棒(簡易武器)


推測:

・巣は森の奥にある可能性が高い

・朝方に活動することから、夜間は巣で休息している可能性

・棍棒を使用することから、ある程度の知性がある

・リーダーを倒すことで群れの統率が乱れる可能性(ゴブリンと同様)


注意点:

・オークはゴブリンより強力であり、同じ戦術が通用するとは限りません

・情報が限られているため、現地での確認が重要です』


「なるほど。基本的な方向性はゴブリンと同じだが、油断は禁物ってことだな」


      ◇ ◇ ◇


 森に入り、俺たちは慎重に進んだ。


 オークの痕跡を探す。足跡、排泄物、折れた枝。追跡の技術はアランが一番上手い。「親父に教わったこともあるんだけどな」と本人は謙遜するが、その技術の確かさは今までの冒険で何度も実証されている。


「こっちだ。足跡がある」


 アランが指差した先には、人間よりも大きな足跡が残されていた。


「デカいな……」


「オークは成人男性の1.5倍くらいの体格じゃ。この足跡から見ると、相当な大きさじゃな」


 ジェフリーが言った。


 俺たちは足跡を辿り、森の奥へと進んでいった。


      ◇ ◇ ◇


 しばらく進むと、開けた場所に出た。


 そこには——オークたちの巣があった。


 洞窟の入り口を中心に、簡易な柵が作られている。中には複数のオークがうろついているのが見える。


「数えるぞ」


 俺たちは物陰から観察を続けた。


 心臓が早鐘を打っている。隣のエイダも、息を殺しているのが分かった。彼女の手が、無意識に俺の袖をつかんでいる。


 風向きが変わった。獣臭い匂いが鼻を突く。オーク特有の体臭だろうか。吐き気を催すような、生々しい臭気だった。


 一匹、二匹……数えていくと、見える範囲だけで十二匹。さらに洞窟の中にもいるだろう。


 オークたちは思った以上に大きかった。成人男性より頭二つ分は高い。腕は丸太のように太く、手にした棍棒は人間の胴体ほどもある。あれで殴られたら、一撃で終わりだ。


「……十二」


 俺の声が震えていることに気づいた。


「AIの推測通りだな。十五から二十ってところか」


「リーダーらしい奴はいるか?」


 アランが聞いた。彼の声は落ち着いていたが、額には汗が滲んでいる。


 俺は巣を観察した。一匹だけ、他よりも明らかに大きい個体がいる。頭一つ分高く、体格も一回り大きい。


 ふと、思った。


 この光景を、そのままAIに見せられたら——もっと正確な分析ができるんじゃないか。


 言葉で説明するには限界がある。オークの配置、動線、リーダーの立ち位置。目で見たものを、そのまま伝えられたら。


 でも、今のスキルではそれは不可能だ。俺の目に映るものを、AIに直接見せる手段はない。


 いつか、そういうことができるようになるんだろうか。


 俺が指差した。


「あれだな。他の奴に指示を出してる」


 アランが頷いた。


「リーダーを倒せば、混乱させられるかもしれない」


 アランが言った。


「ゴブリンの時と同じ作戦でいくの?」


 エイダが聞いた。


「基本は同じだ。でも、オークはゴブリンより強い。正面からやり合うのは危険だ」


      ◇ ◇ ◇


 俺たちは一旦引き返し、作戦を練った。


「どう攻める?」


 アランが聞いた。


 俺はAIに相談した。


「オーク十五から二十体、リーダー格一体。こちらは四人。ゴブリン討伐と同じ陽動作戦は有効か?」


『陽動作戦は一定の効果が期待できますが、リスクも高まります。


ゴブリンとの違い:

・オークはより知性が高く、陽動に引っかかりにくい可能性

・個体の戦闘力が高く、数で押し切られるリスク

・リーダーが後方に控えず、先陣を切る可能性


代替案の提案:

一、夜間奇襲:オークが休息中に攻撃

二、分断作戦:群れを分断してから各個撃破

三、火攻め:洞窟に煙を送り込み、混乱させる

四、罠の設置:事前に罠を仕掛け、数を減らす


どの作戦を選ぶかは、現場の状況と仲間の意見を踏まえて判断してください』


「いくつか選択肢がある」


 俺は仲間たちに説明した。


「夜間奇襲、分断作戦、火攻め、罠の設置。どれがいいと思う?」


「火攻めは危険じゃな。森の中では火災の恐れがある」


 ジェフリーが言った。


「罠を設置する時間はあるか?」


 俺が聞くと、アランが答えた。


「今日中には無理だろうな」


 アランが腕を組んだ。


「夜間奇襲と分断作戦か。どっちにする?」


 俺に問いかける。


「両方組み合わせるのはどうだ?」


 俺は提案した。


「夜間に奇襲をかけ、混乱している隙に群れを分断する。各個撃破すれば、数の不利を補える」


「……本当にやれるの?」


 エイダが不安げに言った。さっき見たオークの姿が、まだ頭から離れないのだろう。俺だって同じだ。


 アランが静かに言った。


「あの村の連中、俺たちを頼りにしてる。子供もいた。あいつらを見捨てられるか?」


 誰も答えなかった。答える必要がなかった。


「わしは大丈夫じゃ」


 ジェフリーが穏やかに言った。


「三十年前、疫病の村で学んだことがある。恐怖に負けて動けなくなるより、できることをした方がいい。結果がどうあれ、後悔は少ない」


 エイダが顔を上げた。


「……そうね。私、また逃げるところだった」


「逃げたいと思うのは普通だ」


 俺は言った。


「でも、俺たちには情報がある。準備ができる。闘気も魔法もある。何も持たずに立ち向かうわけじゃない」


 エイダが小さく頷いた。


「夜なら私の火魔法も目立つわね。暗闇の中で敵を照らし出せる」


「よし。今夜、決行しよう」


 作戦が決まった。


 俺たちは日没まで待機し、夜を待った。誰も口を開かなかったが、不思議と心は落ち着いていた。


第19話「戦場の知恵(前)」 完


次回:第20話「戦場の知恵(後)」


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