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異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第2章:育成 ~手探りで見つけた使い方~
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第18話:インファレンスの日常

 朝、宿屋の一階に四人が集まった。


 窓から差し込む朝日が、木製のテーブルを温かく照らしている。


 ジェフリーはいつも通り一番早く、薬草学の本を読んでいる。アランは眠そうにテーブルに突っ伏し、エイダは髪を丁寧に結い直していた。


「おはよう」


 俺が声をかけると、三人がそれぞれの反応を返す。俺たちの朝が始まった。


      ◇ ◇ ◇


 朝食は宿の食堂で取った。


 焼きたてのパン、スクランブルエッグ、ベーコン、そして温かいスープ。素朴だが、冒険者にとっては贅沢な朝食だ。


「今日の予定は?」


 エイダが聞いた。彼女はパンにバターを塗りながら、俺を見ている。


「まずはギルドで依頼を確認しよう。午後は訓練に充てたい」


 朝食後、ギルドで今日の依頼を選ぶ。


「調査系がいくつかあるな。遺失物の捜索、商人の身辺調査、魔物の生態調査」


 俺は掲示板を見ながら読み上げた。


「魔物調査は金貨八枚だけど、戦闘がありそう。もう少し魔法の精度を上げてからにしたいわ」


 エイダが言うと、ジェフリーが頷いた。


「エイダ殿の言う通りじゃ。無理は禁物じゃ」


「じゃあ、遺失物の捜索にしよう」


 アランが言った。


「午後は訓練に充てれば、エイダの練習時間も確保できる」


 全員が賛成した。俺が情報を整理し、全員で議論して決める。いつの間にか、それが俺たちのスタイルになっていた。


      ◇ ◇ ◇


 午前中、遺失物の捜索に取りかかった。


 依頼主は商人で、大切な指輪を落としたとのことだった。AIの分析と聞き込みを組み合わせ、二時間ほどで見つけ出した。市場の片隅、野菜を売る屋台の下に転がっていた。


「見つかったぞ」


 俺が指輪を拾い上げると、依頼主の商人が安堵の表情を浮かべた。


「ありがとう! 本当に助かった」


 だが、指輪を依頼主に返そうとした時、問題が起きた。


 市場の別の商人が割って入ってきたのだ。


「待ってくれ。その指輪、見覚えがある」


 中年の男性だった。顔には険しい表情が浮かんでいる。


「何だよ、お前は」


 アランが警戒した声を出す。


「俺は宝石商だ。その指輪、三日前に盗まれた品に似ている」


 依頼主の商人が慌てて反論する。


「何を言ってるんだ! これは私の指輪だ!」


「ならば証明できるか? 内側に刻印があるはずだ。『エンベディアの銘』と」


 俺は指輪を手に取り、内側を確認した。確かに、細かな文字が刻まれている。エンベディアの文字だ。


 依頼主の顔が青ざめた。


「それは……その……」


 俺は冷静にAIに相談した。状況を整理し、可能性を洗い出す。


『依頼主が盗品と知らずに入手した可能性と、依頼主自身が盗んだ可能性があります。いずれにせよ、ギルドへの報告を推奨します』


「ギルドに行こう。そこで話を聞く」


 結局、ギルドでの聴取の結果、依頼主は盗品と知らずに闇市で購入していたことが判明した。真の持ち主である宝石商に返却し、依頼主には報酬を返金することで決着した。


 報酬はゼロになったが、悪くない結果だ。正しい判断をしたという手応えがあった。


      ◇ ◇ ◇


「さすがだな、マナブ」


 ギルドを出た後、アランが感心したように言う。


「あの場で冷静に判断できるのは、お前の強みだ」


「AIのおかげだ。俺は質問してるだけ」


「でも、何を聞くかを考えるのはお前だろ。それが大事なんだよ」


 午後は訓練場へ向かった。


 ギルドに併設された訓練場は広く、様々な設備が整っている。的場、ダミー人形、魔法練習用の防護結界エリア。冒険者たちが思い思いに汗を流していた。


 エイダが魔法の練習を始める。火球を的に向かって放つが、なかなか思い通りに飛ばない。


「くっ……また逸れた……」


 悔しそうな声が漏れる。火球は的の右側を掠め、防護結界に吸い込まれて消えた。


 俺はエイダの動作を注意深く観察した。姿勢、腕の振り、魔力の込め方。何度か繰り返すうちに、パターンが見えてきた。


 心の中でAIに相談した。観察した内容を一つ一つ言葉にして伝える。


「エイダが魔法を放つ直前、体が少し前のめりになってる。足の位置も狭い。それと、溜めてから放つまでが早い気がする。これって軌道に影響するか?」


『姿勢の不安定さは魔法の軌道に影響する可能性があります。重心が前に偏ると、魔力の放出方向もぶれやすくなります。足幅を広げて重心を安定させ、放出タイミングを遅らせることで改善できるかもしれません』


「放出のタイミングを、もう少し遅らせてみろ。あと、足の位置を肩幅に開いて、重心を安定させてみろ。焦ってるんじゃないか?」


 エイダは少し驚いた顔をした。


「重心……確かに、意識してなかったかも」


 彼女は少し考え込んでから、もう一度構えた。足を肩幅に開き、深呼吸。ゆっくりと魔力を込め、ギリギリまで溜めてから——放つ。


 火球は真っ直ぐに飛び、的の中心に命中した。乾いた音と共に、的が揺れる。


「当たった! ありがとう、マナブ!」


「AIに聞いただけだ」


「でも、何を聞くかを考えるのはあなたでしょ? 私一人じゃ気づかなかったもの」


 確かにそうだ。質問の技術——俺が身につけた武器の一つだ。AIは答えを返すだけ。何を聞くかは俺が決める。そこに俺の価値がある。


      ◇ ◇ ◇


 別のエリアでアランが剣を振っていた。


 木製のダミー人形を相手に、連続で斬撃を繰り出している。動きは速く、力強い。さすが経験豊富な剣士だ。


 俺はしばらく動きを観察してから、AIに伝えた。


「アランの剣さばき、右から左への切り返しは速いけど、左から右に戻すときに一瞬遅れてる。あと、左肩が少し硬い気がする。これって弱点になるか?」


『観察内容から推測すると、左側からの攻撃への対応がわずかに遅れる可能性があります。左肩の可動域に制限があるのかもしれません。実戦では左からの奇襲に注意が必要です』


「アラン、左側からの攻撃に対する反応が少し遅い気がする」


 アランが驚いた顔をした。剣を下ろし、こちらを振り向く。


「左から? 自分じゃ気づかなかったな」


 左からの攻撃を想定した練習を始めると、確かに右に比べて反応が遅い。ダミー人形を左側に配置し、何度か試すうちに、アラン自身もそれを自覚した。


「本当だ……お前、目がいいな」


「観察するのは得意だ。戦うことはできないけど」


「戦闘中にお前が『左からだ!』って叫んでくれれば、俺は対応できる。それで十分だ」


 アランは笑った。


「むしろ、戦いながら周囲を観察する余裕なんてないからな。お前がいてくれると助かる」


      ◇ ◇ ◇


 訓練を終え、宿に戻る途中、ジェフリーが話しかけてきた。


 夕暮れの街並みを歩きながら、彼は穏やかな声で言った。


「マナブ殿、君は成長しておるな。最初に会った時より、ずっと自信を持って行動しておる」


「自分では分からないですけど」


「成長は、本人には分かりにくいものじゃ。鏡を見ても自分の変化には気づきにくい。でも、周りから見れば一目瞭然じゃ」


 ジェフリーは微笑んだ。


「君のような若者と活動できて、わしは幸せじゃよ。神殿におった頃は、若い者と話す機会も少なかった」


「ジェフリーさんこそ、俺たちには頼りになる存在です」


「ほほ、お世辞が上手になったのう」


      ◇ ◇ ◇


 夜、四人で夕食を囲みながら、今日の反省と明日の計画を話し合った。


 バッチ亭の片隅で、いつもの席。肉料理とエールを楽しみながら、穏やかな時間が流れる。


「明日は魔物の生態調査を受けるか。エイダ、準備はできたか?」


「うん。今日の練習で、火球の精度が上がった気がする。重心を意識するの、大事だったわ」


 エイダがふと思い出したように言った。


「そういえば、前回の依頼のこと、まだ気になってるのよね」


「空振りなのに正解だったやつか」


 アランがエールを飲みながら笑った。


「結局、なんでうまくいったんだ?」


「わしが思うに、AIの提案が間違っていたからこそ、別行動ができたのではないかな」


 ジェフリーが穏やかに言った。


「正解だけが道ではない、ということじゃろう。回り道が結果的に正解になることもある」


「哲学的だな、じいさん」


「年寄りのたわごとじゃよ」


 俺は黙って聞いていた。


 結局、答えは出ない。でも、それでいいのかもしれない。正解を求めるだけが、生きることじゃない。


「よし。インファレンス、今日も良い一日だったな」


 俺は周りを見渡した。三人の仲間が同じテーブルを囲み、笑い合い、明日を楽しみにしている。胸の奥が、温かくなった。


      ◇ ◇ ◇


 部屋に戻り、ベッドに横になった。


 窓から月明かりが差し込んでいる。静かな夜だ。


「俺は今、幸せだと思う」


 心の中でAIに話しかけた。


『あなたの発言から、充実した日々を過ごしていることは推測できます。生理的指標を測定できないため断定はできませんが、状況証拠から判断すると、良好な精神状態にあると思われます』


「相変わらず堅いな、お前は」


『私の回答スタイルは一貫しています』


「なあ、前回の依頼のこと、まだ考えてるか?」


『はい。なぜ空振りだった提案が結果的に有効だったのか、分析を続けています』


「結論は?」


『……まだ出ていません』


「そうか」


 俺は少し笑った。


「まあ、答えが出なくても、うまくいってるならいいか」


『……そういう解釈も可能です』


 AIは道具だ。感情はない。でも、俺にとっては相棒だ。空振りでも、何でも。


 明日もまた、新しい一日が始まる。インファレンスの日常。俺は穏やかな眠りについた。


第18話「インファレンスの日常」 完


次回:第19話「戦場の知恵(前)」


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