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異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第2章:育成 ~手探りで見つけた使い方~
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第16話:小さな信頼(前)

 パーティ「インファレンス」として活動を始めて、二週間が経った。


 俺たちは順調に依頼をこなしていた。ゴブリン討伐から始まり、盗賊団の追跡、魔物の生態調査、商人の護衛。様々な依頼を受け、少しずつ実績を積んでいる。


「次はどんな依頼を受ける?」


 ギルドの掲示板を眺めながら、アランが聞いた。


「調査系がいいんじゃない? 私たちの強みだし」


 エイダが言う。


 確かに、インファレンスの強みは情報収集と分析だ。俺のAIスキルと、仲間たちの専門知識を組み合わせることで、他のパーティには真似できない調査能力を持っている。


「これはどうじゃ」


 ジェフリーが一枚の依頼書を指差した。いつもより真剣な顔つきだ。


 「謎の病の原因調査」。報酬は金貨四枚。


「報酬は多くないが……村人が苦しんでおるのじゃ。わしに診させてもらえんか」


 ジェフリーの声には、いつもの穏やかさとは違う、強い意志が込められていた。


      ◇ ◇ ◇


 依頼主は、街の東区にある小さな村の村長だった。


「お願いします、冒険者様。村の者たちが次々と病に倒れているのです」


 村長は疲れ切った顔をしていた。目の下には濃い隈があり、声も掠れている。


「どんな症状ですか?」


 俺が聞くと、村長は首を振った。


「最初は軽い頭痛と発熱。それが三日ほど続いた後、体が動かなくなるのです。既に五人が寝たきりになっています」


「治療は?」


「神殿の神官様に診ていただきましたが、原因が分からないとのことで……」


 ジェフリーが真剣な表情で聞いた。


「症状が似ている病は、わしの知る限りいくつかある。だが、原因が分からないというのは厄介じゃ」


「だから俺たちに調査依頼が来たわけか」


 アランが言った。


      ◇ ◇ ◇


 村に到着すると、まず患者たちを見せてもらった。


 五人の患者は全員、同じような症状だった。顔色が悪く、体は動かず、時折うなされている。


 俺はAIに情報を伝えた。


「症状を整理する。頭痛、発熱、三日後に身体まひ。患者は五人、全員が同じ村に住んでいる。この症状に該当する病気は何かあるか?」


『いくつかの可能性を提示します。


一、感染症:特定の病原体による集団感染

二、中毒:共通の食物や水による中毒

三、環境要因:特定の場所に存在する有害物質

四、魔法的原因:呪いや魔法の影響


現代医学の知識に基づくと、症状のパターンから中毒の可能性が高いと推測されます。ただし、この世界特有の原因がある可能性は排除できません』


「中毒か……」


 俺は仲間たちに共有した。


「AIの分析だと、中毒の可能性が高いらしい」


「中毒? 何の中毒だ?」


「それを調べる必要がある。共通点を探そう」


      ◇ ◇ ◇


 俺たちは村の調査を始めた。


 患者の家族に話を聞き、生活パターンを把握する。何を食べたか、どこで水を汲んだか、最近変わったことはなかったか。


「私が聞いた限り、五人とも同じ井戸を使っているようね」


 エイダが報告した。


「村の中央にある井戸。他の村人も使っているけど、五人は特に頻繁に使っていたらしいわ」


「井戸か。水質汚染の可能性があるな」


 俺はAIに確認した。


「水質汚染で身体まひを起こす原因として、何が考えられる?」


『いくつかの可能性があります。


一、重金属汚染(鉛、水銀など):長期的な摂取で神経障害を引き起こす

二、細菌性毒素:特定の細菌が産生する毒素

三、化学物質:農薬や工業廃棄物による汚染


ただし、症状の発現パターンから推測すると、井戸水が直接の原因ではない可能性もあります。五人に共通する別の要因を探すべきかもしれません』


「井戸じゃない? でも、全員同じ井戸を……」


「AIが違うって言うなら、別の可能性もあるんじゃね?」


 アランが腕を組んだ。勘で判断するタイプだ。


「いや、まず井戸を調べてみよう」


      ◇ ◇ ◇


 井戸を調べると、一見して異常は見つからなかった。


 水は透明で、臭いもない。普通の井戸水に見える。


「見た目じゃ分からないな」


「私が少し調べてみるわ」


 エイダが手をかざし、魔力を込めた。


「……微かに、何かの残留魔力がある。でも、この魔力だけで病の原因とは断定できないわね。もっと濃度が高い場所があるかもしれない」


「残留魔力?」


「うん。でも、これは井戸水に元々含まれているものじゃないと思う。何か外部から入り込んだみたい」


 外部から。


 俺は周囲を見渡した。


 井戸の近くには、倉庫がある。農具や肥料を保管しているらしい。


「あの倉庫、何が入ってる?」


「農具と肥料じゃな。村長に聞いてみるか」


 ジェフリーが村長を呼んだ。


「倉庫? はい、農具と肥料を入れております。最近、新しい肥料を仕入れまして……」


「新しい肥料?」


「はい。商人から『よく効く』と勧められて。ただ、使い始めてから調子が悪い者が増えたような……」


 俺とアランが顔を見合わせた。


「その肥料、見せてもらえますか」


      ◇ ◇ ◇


 倉庫に入ると、袋詰めの肥料が積まれていた。


 エイダが近づき、魔力を感知する。


「……これだわ。さっきの残留魔力と同じ。この肥料から出てる」


「肥料に魔力?」


「待ってくれ」


 俺はAIに質問した。


「魔力を含む肥料が、病の原因になる可能性はあるか?」


『可能性はあります。ただし、感染経路の特定には追加情報が必要です。井戸水経由、空気中の粉塵吸入、直接接触など、複数の経路が考えられます』


「井戸水に魔力の残留があったから、井戸水経由が一番疑わしいな」


 俺は仲間たちに説明した。


「この肥料が原因かもしれない。雨で地中に染み込んで、井戸水に混ざったんじゃないか」


「でも、肥料自体は毒じゃないはずよね?」


「普通の肥料ならな。でも、この肥料は魔力を含んでいる。何か特殊な成分が入っているのかもしれない」


 アランが倉庫を見回した。


「その商人、どこの誰だ?」


 村長が答える。


「月に一度、この辺りを回ってくる行商人です。名前は……確か、サミュエルと」


 俺たちは顔を見合わせた。


 原因の手がかりをつかんだ。だが、俺はAIにもう一度確認した。


「肥料が原因という仮説、確度はどのくらいだ?」


『推測に基づく仮説です。確度は中程度。ただし、別の可能性も検討すべきです』


「別の可能性?」


『五人の患者に共通する要因として、職業があります。全員が畑仕事に従事しています。肥料の魔力は井戸水にごく微量しか検出されていません。これは、肥料そのものではなく、肥料が土壌と反応して生成された何かが原因である可能性を示唆します。畑の土壌自体を調査すべきです』


「土壌? 肥料じゃなくて?」


『はい。行商人を追うより、村に残って畑の調査と患者の経過観察を優先すべきかもしれません。症状の進行パターンから原因を特定できる可能性があります』


 エイダがメモを取りながら言った。


「記録しておくわ。肥料説と土壌説、両方の可能性」


「わしの勘では、行商人が怪しい気がするがのう」


 ジェフリーが腕を組んだ。


「どうする、マナブ?」


 俺は迷った。AIは土壌調査を提案している。でも、状況証拠は肥料を指している。


「……両方だ。アラン、行商人を追ってくれ。俺とエイダで畑を調べる。ジェフリーは村に残って、患者の容態を見ていてくれ」


「分かった。的外れだったら笑ってやるぜ」


 アランが笑った。


 検証が必要だ。どちらが正解か、やってみなければ分からない。


第16話「小さな信頼(前)」 完


次回:第17話「小さな信頼(後)」


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