表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第2章:育成 ~手探りで見つけた使い方~
15/36

第15話:ゴブリン討伐の余韻

 翌日の昼下がり。


 俺たちは再び酒場にいた。昨日、正式にパーティを組むことが決まった。今日はギルドへの登録手続きについて話し合うためだ。


「パーティをギルドに登録するには、パーティ名が必要なんだよな」


 アランが切り出した。


「そうね。固定パーティとして登録すれば、報酬の分配も楽になるし、信用度も上がるって聞いたわ」


 エイダが言った。


「では、パーティ名を決めましょうか」


 ジェフリーがエールを傾けながら言った。


 パーティ名。考えていなかった。


「『剣と魔法と回復と情報』とか?」


 アランが言ったが、エイダが即座に却下した。


「長すぎるわよ。センスがない」


「じゃあ、エイダが考えろよ」


「そうね……『炎の牙』とか?」


 アランが呆れた顔をした。


「お前の魔法だけじゃねえか」


「じゃあ何がいいのよ」


 二人が言い合いを始めた。ジェフリーが苦笑している。


 俺は少し考えて、口を開いた。


「インファレンスはどうだ」


 三人が俺を見た。


「いんふぁ……なんだって?」


「インファレンス。俺の世界の言葉で、『推論』って意味だ」


      ◇ ◇ ◇


「推論?」


 エイダが首を傾げた。


「ああ。情報を集めて、仮説を立てて、結論を導き出す。俺たちがやったことは、まさにそれだ」


「なるほど……確かに、マナブらしいわね」


「響きも悪くないな。インファレンス。言いやすい」


 アランも気に入ったようだ。


「意味も良いですな。戦いにおいて最も重要なのは、正しい判断を下すこと。そのための推論——うむ、悪くない」


 ジェフリーも頷いた。


「じゃあ、決まりだな。パーティ名『インファレンス』」


 俺たちはジョッキを掲げた。


「インファレンスに、乾杯!」


 四つのジョッキがぶつかり合い、軽快な音を立てた。


      ◇ ◇ ◇


 しばらく雑談を続けた。


「そういえば、アランの実家も冒険者だって言ってたわよね」


 エイダが話題を振った。


「ああ。親父も、兄貴も、姉貴も、みんな冒険者だ。俺は末っ子でな」


 アランが少し照れくさそうに笑った。


「でも、うちの家系、誰も銀ランクを越えられないんだよ。親父も兄貴も、銀ランクで止まった」


「え、じゃあアランが金ランクになったら——」


「ああ。家で初めてってことになる」


 アランの目に、静かな決意が浮かんだ。


「親父は『それ以上は才能がいる』って言ってたけど、俺はそうは思わない。努力次第で、壁は越えられると思ってる。だから、金ランクを目指すことには、特別な意味がある。家族の誰もが越えられなかった壁を、俺が越える」


 俺はアランの横顔を見た。普段は軽口を叩いているが、その裏には強い意志があるのだと分かった。


      ◇ ◇ ◇


 話は今後の目標へと移った。


「私たち、これから何をするの?」


 エイダが聞いた。


「まあ、まずは依頼をこなして、ランクを上げていくことだろうな」


 アランが答える。


「俺たち全員、まだ銅ランクだ。次は全員で銀ランクを目指したい。そうすれば、受けられる依頼の幅がもっと広がる」


「銀ランク、か」


 俺は呟いた。


 銀ランクになるには、一定数の依頼をこなし、ギルドからの評価を得る必要がある。戦闘依頼だけでなく、調査や護衛など、様々な分野での実績が求められる。


「俺は戦闘スキルがないから、足を引っ張るかもしれないな」


「だから何度も言ってるだろ。お前には情報がある。それで十分だ」


 アランが俺の肩を叩いた。


「パーティは役割分担だ。全員が同じことをする必要はない。お前は情報を集めて、作戦を立てる。俺は前線で戦う。エイダは魔法で支援する。ジェフリーは回復で守る。それぞれの得意分野で力を発揮すればいい」


      ◇ ◇ ◇


「若者の成長を見届けるのは、老いぼれの喜びですな」


 ジェフリーが穏やかに言った。


「わしはもう戦場の最前線には立てん。しかし、後方から支えることはできる。お前さんたちが銀ランクになる頃には、わしはもう引退しているかもしれんがな」


「何言ってんですか。まだまだ現役でしょう」


 エイダが言うと、ジェフリーは笑った。


「いやいや、若い頃の無理がたたってな。膝が悪いのじゃ。あと数年が限界じゃろう」


 初めて聞く話だった。ジェフリーは穏やかな顔をしているが、その裏には長年の経験と、そして体への負担があるのだろう。


「だからこそ、お前さんたちと組めてうれしいのじゃ。わしの最後の仕事として、次の世代を育てる。悪くない終わり方じゃろう」


「ジェフリー……」


「湿っぽくなってしまったな。気にするな。これからが楽しみなのは本当じゃよ」


      ◇ ◇ ◇


 酒場を出ると、夕暮れの光が街を染めていた。


 アランとエイダは別の用事があると言って先に帰り、俺とジェフリーは並んで歩いていた。


「マナブ殿」


 ジェフリーが静かに言った。


「なんですか」


「お前さんのスキル、不思議なものじゃな。質問すると答えが返ってくる。それは、まるで賢者の知恵を借りているようじゃ」


「そうかもしれません。ただ、賢者といっても間違えることはありますけど」


「だから検証が必要だと」


「ええ。AIの回答を鵜呑みにして、失敗したことがあるので」


 ジェフリーは頷いた。


「その姿勢は正しい。わしも若い頃、自分の力を過信して失敗したことがある。どんなに確かだと思っても、慎重に確認する。それが大事じゃ」


「……経験者の言葉は重いですね」


「年寄りの繰り言じゃよ。気にするな」


 ジェフリーは笑って手を振り、自分の宿へと去っていった。


      ◇ ◇ ◇


 宿に戻り、ベッドに横になった。


 天井を見つめながら、今日のことを振り返る。


 パーティが正式に結成された。名前は「インファレンス」。AI用語を使ったのは、少し照れくさいが、意味は気に入っている。


 この世界に来て、もう二ヶ月近くになる。


 最初は何もできなかった。AIは役に立たず、戦闘スキルもなく、この世界のことを何も知らなかった。


 でも今は違う。


 図書館で知識を集め、AIを育て、質問の技術を磨いた。仲間と出会い、協力することを学んだ。検証という武器を手に入れた。


 そして今、正式なパーティができた。


 俺は一人じゃない。


「なあ」


 心の中でAIに話しかけた。


「俺たち、少しは前に進めたと思うか?」


『客観的な評価は難しいですが、いくつかの指標があります。冒険者ランクの上昇、依頼達成数の増加、パーティの結成。これらは進歩の証拠と言えます』


「そうか」


『ただし、これはまだ始まりに過ぎません。銀ランクへの道のりは長く、より困難な依頼が待っています。油断は禁物です』


「分かってる」


 俺は目を閉じた。


 明日からまた、新しい日々が始まる。


 インファレンスとして、最初の一歩を踏み出すのだ。


第15話「ゴブリン討伐の余韻」 完


次回:第16話「小さな信頼(前)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ