第13話:検証という武器(前)
モンスター討伐の依頼を受けた。
初めての戦闘任務だ。
対象はゴブリン。森の外れに巣を作り、近隣の村を襲っているらしい。討伐報酬は金貨四枚。今までの依頼とは桁が違う。
「ゴブリンの巣穴討伐……大丈夫ですか?」
フェイが心配そうに聞いてきた。
「正直、自信はない。でも、いつまでも調査依頼だけじゃ成長できないだろ」
「それはそうですが……一人で行くんですか?」
「いや、仲間と一緒に行く。先日、組もうって話になったんだ」
一緒に行くのは、三人の冒険者だ。
ギルドの片隅で、俺たちは初めて顔を合わせた——というわけではない。
剣士のアラン。前衛担当。人懐っこい性格で、ギルドで声をかけてきたのがきっかけだった。昨日の酒場で、正式にパーティを組むことになった。
「よろしくな、マナブ。やっと一緒に組めるぜ」
魔法使いのエイダ。後衛担当。赤い髪の女性で、火属性の魔法が得意。図書館で呼吸法を教えた仲だ。魔法学院の試験に合格したばかりで、実戦に意欲的だ。
「よろしくね。ちゃんと役に立ってみせるわ」
そして、回復役のジェフリー。初老の男性で、元神官。路地裏で助けて以来、図書館で何度も顔を合わせてきた。
「若い衆の初陣を見届けるのも、老いぼれの役目というものじゃ」
昨日、四人で飲みながら決めた。このパーティで初めての依頼。だからこそ、お互いを信頼し、協力しなければならない。
◇ ◇ ◇
森に向かう道中、俺は作戦を練っていた。
「ゴブリン討伐の作戦を立てたい。まず、俺たちのパーティ構成を整理する。前衛一人、後衛一人、回復一人、そして情報担当の俺。ゴブリンは群れで行動し、リーダー格のホブゴブリンがいる可能性がある。巣の規模は不明。この条件で、どう戦うべきだと思う?」
心の中でAIに質問した。
『いただいた情報を元に分析します。
パーティ構成の強み:前衛・後衛・回復のバランスが取れています。
パーティ構成の弱み:情報担当は直接戦闘力が低く、前衛が一人のみです。
戦術の提案:
一、奇襲を狙う。ゴブリンは警戒心が低いため、先制攻撃が有効です。
二、リーダー(ホブゴブリン)を優先的に排除する。統率が乱れれば、残りは散り散りになりやすいです。
三、後衛と回復役は前衛の後ろに位置し、魔法攻撃と支援に専念する。
四、あなたは戦況を俯瞰し、敵の動きや危険を仲間に伝える役割が適しています。
ただし、これらは一般的なゴブリンの情報に基づく推測です。実際のゴブリンが異なる特性を持つ可能性があります』
推測。
AIはちゃんと警告してくれている。でも、この警告を無視して痛い目を見たのがレイヤ草の失敗だ。
「検証が必要だな」
◇ ◇ ◇
俺はパーティメンバーに声をかけた。
「少し相談がある。ゴブリンについて、みんなが知ってることを教えてくれないか」
アランが首をかしげた。
「俺が知ってるのは、群れで行動すること、個体は弱いけど数が多いと厄介ってことくらいだな」
「私は火魔法が効くって聞いたことがあるわ。でも、実際に戦ったことはないから……」
エイダが言う。
「わしは神官時代に、ゴブリン被害の報告を何度か受けたことがある」
ジェフリーが口を開いた。
「村を襲う時は、夜に来ることが多い。昼間は巣に籠もっていることが多いが、追い詰められると凶暴になる。それと、ホブゴブリンがいる群れは統率が取れているから、普通のゴブリンより危険じゃ」
これだ。
俺のAIが持っている情報と、実際にこの世界で経験を積んできた人の情報。両方を突き合わせることで、より正確な判断ができる。
「AIの情報と一致してる部分と、新しい情報がある。昼間に攻めるのが有利ってことだな」
「お前のスキル、本当に便利だな」
アランが感心したように言った。
「でも、うそをつくこともあるんでしょう? それは少し心配ね」
エイダが不安そうに言った。
「そうなんだ。だから、みんなの知識と突き合わせて確認したかった。複数の情報源で確認すれば、精度が上がる」
◇ ◇ ◇
巣の近くまで来た。
俺たちは物陰から様子を窺った。心臓が早鐘を打っている。落ち着け。今は情報を集めることに集中しろ。
洞窟の入り口に、数匹のゴブリンがうろついている。
「見張りか」
「数は……五匹くらいか?」
「中にはもっといるだろうな」
アランが小声で言う。
俺はAIに確認した。
「見張りが五匹。中に何匹いるか推測できるか?」
『見張りの数から巣の規模を推測することは可能ですが、精度は低いです。一般的に、見張りは群れ全体の一割から二割程度です。見張りが五匹の場合、群れ全体は二十五匹から五十匹の可能性があります。ただし、これは推測であり、実際の数は異なる可能性があります』
二十五から五十。
幅が広すぎる。
「推測だけじゃ判断できないな。偵察が必要だ」
◇ ◇ ◇
俺は一人で洞窟の周囲を探った。戦闘力はないから、見つかったら終わりだ。足音を殺し、物陰に隠れながら進む。
洞窟の裏手に回ると、換気口らしき小さな穴があった。中から声が聞こえる。
耳を澄ませると、ゴブリンのような鳴き声がいくつも聞こえた。数を数えようとしたが、反響で正確には分からない。
ただ、一つ分かったことがある。
低い、別の声が混じっている。普通のゴブリンより落ち着いた、命令するような口調。
「ホブゴブリンがいる」
俺は仲間の元に戻り、報告した。
「偵察した。ホブゴブリンがいることは確認できた。数は正確には分からないが、かなり多そうだ」
「どうする?」
「正面突破は厳しい。奇襲を仕掛けるなら、ホブゴブリンを最初に狙うべきだ」
ジェフリーが頷いた。
「リーダーを倒せば、残りは逃げるか、統率を失って烏合の衆になる。理に適っておる」
「でも、どうやってホブゴブリンだけを狙う?」
エイダが聞く。
俺はAIに質問した。
「ホブゴブリンを奇襲で狙う方法を考えたい。状況は、洞窟の入り口に見張り五匹、中にホブゴブリン一匹と多数のゴブリン。こちらは四人。火魔法が使える。この条件で、ホブゴブリンを優先的に倒す作戦を提案してくれ」
『いくつかの作戦を提案します。
作戦A:陽動——見張りを倒して騒ぎを起こし、ホブゴブリンが出てきたところを狙い撃つ。リスク:出てこない可能性、数に押される可能性。
作戦B:火攻め——換気口から煙を送り込み、出口で待ち伏せ。リスク:火災の制御が難しい。
作戦C:潜入——あなたが潜入してホブゴブリンの位置を特定し、仲間が急襲。リスク:発見された場合の対処が困難。
どの作戦にもリスクがあります』
三つの作戦。
どれも一長一短だ。でも、AIが提示してくれたことで、選択肢が明確になった。
◇ ◇ ◇
「三つの作戦がある」
俺は仲間に説明した。
「陽動、火攻め、潜入。どれを選ぶか、意見を聞きたい」
「火攻めは危険じゃないか? 火が広がったら、俺たちも巻き込まれる」
アランが言う。
「私の魔法なら、火の範囲は制御できるわ。でも、煙は制御できない」
エイダが考え込む。
「潜入は、マナブ一人でやるの?」
「俺は戦えないからな。発見されたら終わりだ」
「では、陽動が現実的か」
ジェフリーが結論を出した。
俺もそう思った。陽動なら、リスクを分散できる。
「ただ、陽動でホブゴブリンが出てくる保証はない。AIの推測だと、リーダーは後方に控えている可能性もある」
「じゃあ、陽動しながら様子を見て、出てこなければ突入する。臨機応変にやるしかないな」
アランの提案に、全員が頷いた。
作戦が決まった。
AIの推測、仲間の知識、そして自分の偵察。全てを組み合わせて、最善の選択を導き出す。
これが——「検証」という武器だ。
この考え方が、いつか俺を救うことになる。
そう確信したのは、もう少し先のことだった。
第13話「検証という武器(前)」 完
次回:第14話「検証という武器(後)」




