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3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


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第59話 白い城壁の検問と、静かな確保戦

 白い城壁は、夜でも眩しかった。

 松明の火が壁面に反射し、巡礼路の石畳まで淡く照らしている。祈りの声。香の匂い。金属の鐘。行列は静かに進み、誰も大声を出さない。ここでは声量そのものが罪に見える。

 ――だからこそ、動く影が目立つ。


 俺の視界に、斥候蜘蛛の映像が浮かんでいた。

 検問の裏、城壁の影、列の脇、そして検問の向こう側――「出口」に当たる地点。

 1号の声が耳に届く。


「列は止まっていません。ですが、受け取りは……この静けさの中でやります」


 高橋が、移送票の薄い紙を握ったまま、小さく息を吐いた。


「時刻、合ってます。澪さん……あと数分で、この検問を通ります」


 レオンが荷車の陰で肩を落とし、収納ボックスへ指を添えた。吐き出すでも、しまうでもない。いつでも動ける、という姿勢だけで空気が変わる。ロザリーが白い壁を見上げ、楽しそうに笑う。


「白いって、汚したくなるね」

「汚しません」


 1号が即答した。


「今日は「静かに取る」日です」


 ソフィアが淡々と付け足す。


「ここ、治療費が高そう。無駄な怪我は禁止。請求も高くなる」

「最高です」


 レオンが小声で言う。


「黙って」


 1号は一切ぶれない。


 検問は2重だった。外側に巡礼の整理役、内側に聖印を付けた兵。武器は見せないが、動きが訓練されている。1号は列の端で、ただ待っていた。焦って前へ出ない。焦るのは高橋の役目だ。

 斥候蜘蛛の映像が、列の中の1人を捉えた。巡礼のふりをしている。布は汚れている。足取りは自然。だが、指先だけが不自然に忙しい。布の内側、胸元。何かを確かめている。番号を読む癖だ。


 高橋が喉を鳴らし、声を殺した。


「……受取人コード、近い。あの男、合ってます」


 俺は司令室で湯飲みを置き、短く落とす。


「出口を押さえろ。澪優先。上は2の次だ」

「了解」


 1号が返した。


 列は、ゆっくり動く。祈りの声が途切れない中で、検問の内側――白い城壁の影の、さらに奥で、荷車が1台、静かに入っていった。布が掛けられている。中は見えない。だが、斥候蜘蛛の映像の端に、1瞬だけ揺れたものがあった。

 細い髪の束。布の隙間から零れた、夜の光を吸う黒。


 高橋の声が震えた。


「……澪さん」


 1号の呼吸が1拍だけ深くなる。それでも足は動かさない。動けば目立つ。目立てば、澪さんが遠ざかる。

 荷車は検問を抜けた。内側で、誰かが合図をする気配。受け取りは、ここからだ。


 ――静かに、戦いが始まる。

 受取人コードの男が列から外れた。祈りの声に紛れ、足音を消し、城壁の影へ滑る。検問裏の通路だ。そこは「出口」だった。検問の向こう側、一般の巡礼が入れない狭い通路。物の受け渡しができる死角。


 レオンが動いた。走らない。跳ばない。荷車を押すふりをして影へ入り、男の背後へ立つ。

 次の瞬間、男の口が開きかけたところへ、ソフィアが袋を被せた。声を殺すのが一番早い。ここは聖都、騒ぎは即座に刃になる。

 男が暴れる。だが暴れるほど、レオンの手が関節を「壊さない角度」で決める。痛みだけを積む。


 1号が男の耳元へ、淡々と言った。


「澪さんの移送を止めたい。あなたは邪魔です。協力してください」


 男は袋の中で息を荒くし、首を振った。拒否ではない。喋れない仕込みの恐怖だ。ソフィアが冷たく言う。


「喋れないなら、落とす。持ってるものを全部出す。時間を買え」


 1号が頷く。


「荷を」


 レオンが収納ボックスの口を、男の胸元へ寄せた。次の瞬間、男の懐にあった小物が吸い込まれるように消える。財布、札、薄い紙、硬い筒――触れたものから順に。

 男の抵抗が1段弱まった。奪われると、人間は1瞬止まる。その1瞬が、十分だ。ロザリーが影の外で、静かに笑う。逃げ道の空気が変わる。通れない、と本能が理解する圧。


「逃げたら、ずっと追いかけるよ。ずっと」


 男が震えた。死より、時間を奪われるのが怖い反応だ。


 その時だった。検問の内側――白い城壁の影の、さらに奥で、斥候蜘蛛の映像が、ほんの僅かに揺れた。そこだけ空気が冷える。祈りの声が、遠くに感じる。

 影が立ち上がった。上だ。姿は1瞬だけ。顔は闇に溶け、輪郭が曖昧なのに、目だけがはっきりこちらを見た。数を数える目。こちらの手順を、値踏みする目。


 1号が、視線だけで追う。足は動かさない。動けば、澪さんの荷車が遠ざかる。上は、ただ見て――消えた。城壁の内側へ、吸い込まれるように。


 高橋が息を呑む。


「……今の、間違いない。上が聖都の中にいる」


 同時に、俺の視界がざらりと削れた。短いノイズ。押さえつける嫌悪。本部の干渉だ。白が引いた時、聖都の影は何事もなかったように静かだった。


 1号は迷わない。今、取るべきものを取る。


「高橋。澪さんの荷車はどこへ向かう」

「検問の内側で右に折れた。……神殿方面です。巡礼路じゃない、関係者用の通路」


 1号が男の懐から奪ったものを、高橋へ渡す。その中に、小さな封筒があった。白い紙に、金の聖印。だが印刷の癖が、妙に均一で冷たい。高橋が封切り、目を走らせる。そして、顔色が変わった。


「……通行票。聖印付き。しかも、裏に番号。これ、束の先頭札と同じ系列です」

「次の出口は」


 1号が低く問う。高橋は唇を噛み、言った。


「澪さんは検問を抜けた先で「中継」されます。場所は……神殿に近い。白い城壁の内側、関係者用の通路の終点」


 ソフィアが男の袋越しに、短く囁いた。


「もう用はない。次は速さ」


 レオンが頷く。


「マスター。走れます」


 ロザリーが白い壁を見上げ、目を細める。


「聖都の中、面白そう」

「面白がらない」


 1号が言い、男を影へ寝かせた。殺さない。壊さない。だが、もう追って来られない形にだけする。ROIの鬼のやり口だ。


 俺は司令室で、神マケの窓を1度だけ見下ろした。王都の数字は回っている。止まっていない。支配は維持される。なら、次は――聖都も回す。


「聖都を止めるな」


 俺は声だけ落とす。


「澪さんを追いながら、聖都の流れを掴め。出口を押さえる発想は同じだ」

「了解」


 1号の返事は短い。高橋が、移送票と通行票を握りしめる。呼吸を整え、言った。


「まだ間に合います。澪さんは……近い」


 白い城壁の影の奥へ。祈りの声が届かない通路へ。足音を殺しながら、それでも速度だけは落とさずに。1号たちは、聖都の内側へ滑り込んだ。


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