表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/65

第38話 魔境の害虫駆除と、カップ麺の実効支配

 転移の光が収まる。

 視界が開けると、そこは鬱蒼とした森の中にある、古びた石造りの廃墟だった。


「……到着か」


 俺は周囲を見渡した。

 崩れかけた石壁。苔むした床。天井はなく、異世界の2つの月が丸見えだ。

 1号が確保していた拠点、元魔術師の工房跡だ。


「ちょっとオーナー! ここ、屋根がないじゃない!」


 隣で、高橋がヒールの踵を鳴らして叫んだ。

 彼女はSランク装備のドレスアーマーに身を包んでいるが、その表情は最悪だ。


「シャワーは? トイレは? ベッドは?

 まさか、この瓦礫の上で雑魚寝しろって言うんじゃないでしょうね?」

「文句を言うな。土地は確保した。上物はこれから作るんだよ」


 俺は冷静に返しながら、気配を探った。

 森の奥から、無数の殺気。

 血に飢えた魔獣たちが、異界からの来訪者を嗅ぎつけて集まってきている。


「それに、まずは掃除が先だ」


 ガサガサッ!!

 茂みが割れ、巨大な影が飛び出した。

 鷲の上半身とライオンの下半身を持つ魔獣、グリフォンだ。

 それも1体ではない。10体、20体。

 空からはワイバーンの群れも降下してくる。


「……最悪。歓迎会にしては激しすぎるわね」


 高橋が眼鏡の位置を直し、腰のワイヤー射出機に手をかけた。

 だが、俺は制した。


「消耗するな。お前は指揮官だ。

 露払いは、うちの暴力装置に任せろ」


 俺は指を鳴らした。


「レオン、ロザリー。仕事だ。

 半径1キロ以内の害虫を、1匹残らず駆除しろ」

「御意!! 異世界の痛み……どんな味がするのか楽しみだ!」


 レオンが歓喜の声を上げ、大盾を構えて突進した。

 グリフォンの鋭い爪が、彼の鎧を切り裂く。

 だが、レオンは笑っていた。

 Sランクに昇格し、さらに頑強になった彼の肉体は、異世界の魔獣の攻撃さえも心地よい刺激として受け流す。


「燃やしますわよ! このジメジメした森ごと!」


 ロザリーが杖を振るう。

 紅蓮の炎が渦を巻き、空を覆うワイバーンの群れを焼き尽くす。

 一方的な蹂躙。

 地球のSランクダンジョンを庭のように攻略してきた彼らにとって、この程度の魔獣はただの有象無象だ。


 数分後。

 廃墟の周囲には、魔獣の死体が山のように積み上げられていた。


「……ふぅ。片付いたな」


 俺は手当たり次第に死体に触れ、魔石を回収していく。

 Sランク魔石がゴロゴロ手に入る。

 これだけで数億クレジットの稼ぎだ。


「で? 安全にはなったけど、家はどうするのよ」


 高橋が瓦礫の山を指差して詰め寄ってくる。

「日本から資材を送るって言ってたけど、こんな大量の建材、あんたの脳みそが耐えられるわけないでしょ?」

「安心しろ。輸送なら、もう終わっている」


 俺はレオンを手招きした。

 全身返り血で真っ赤に染まった金髪の騎士が、爽やかな笑顔で近づいてくる。


「レオン。出せ」

「はっ! 我が胃袋は宇宙! マスターの愛を解放します!」


 レオンが口を大きく開けた。

 その奥にある亜空間――Sランクスキル【無限収納庫】が発動する。


 ボボボボッ!!


 彼の口から、次々と巨大な物体が吐き出されていく。

 業務用の大型発電機。

 システムキッチン。

 高級羽毛布団付きのキングサイズベッド。

 簡易シャワーユニットに、仮設トイレ。

 そして、大量の建材と工具。


 日本を出発する前、俺が買い込み、レオンに飲み込ませておいた引っ越し荷物だ。

 俺の【配送】では脳への負担が大きすぎる重量物も、彼の中に入れて運べばコストはゼロ。

 最強のタンクは、最強の輸送トラックでもあった。


「……便利すぎて引くわね」


 高橋が呆れたように呟く。

 あっという間に、廃墟の中庭が資材置き場へと変貌した。


「よし。これで資材は揃った。

 だが、組み立てる人手が足りない」


 俺たちは戦闘のプロだが、建築のプロではない。

 これだけの資材を使って屋敷を修繕し、要塞化するには、現地の労働力が必要だ。


「1号、ソフィア。出番だ」


 俺は2人に声をかけた。


「お前たちは近くの村へ行け。

 目的は労働力の確保だ。

 屋敷を直せる大工や、雑用係を雇ってこい」

「了解しました。

 ……また忍者姿で行くんですか?」


 1号が自分の格好を見て溜め息をつく。


「いや、今回は交渉だ。怪しまれない格好がいい」


 俺は1号の首元にある【欺きのチョーカー】を操作した。

 忍者の姿から、こざっぱりとした旅の商人風の青年に偽装する。


「ソフィア、お前はそのままでいい。

 この世界において、聖職者の格好は信用を得やすい。

 それに、怪我人や病人を治療してやれば、村人の心は1発で掴める」

「お任せください、マスター。

 迷える子羊たちに、慈悲という名の恩を売りつけてきます」


 ソフィアが聖母のような、しかし目が笑っていない笑顔で一礼する。

 彼女の回復魔法は、医療レベルの低いこの世界では奇跡そのものだ。

 交渉の切り札になる。


「行ってこい。

 金貨はすべて入金済みで無い。報酬は現物を使え」

「現物、ですね。承知しました」


 1号とソフィアが森へと消えていく。

 俺は残ったメンバーに向き直った。


「さて、俺たちはこっちの設営だ。

 高橋、レオン、ロザリー。

 村人たちが来る前に、まずは寝床の確保だ。

 ……今夜はカップ麺パーティだぞ」

「……はぁ。異世界に来てまで現場仕事とはね」


 高橋がやれやれと肩をすくめ、電動ドライバーを手に取った。

 異世界侵略の第一歩。

 まずは、衣食住の確保からだ。


---


 森を抜けた先。

 古びた木の柵で囲まれた、小さな寒村があった。

 1号とソフィアは、村の入り口に立っていた。


 村の様子は、1号が以前偵察した時よりも酷かった。

 畑は荒れ、歩いている村人たちは骨と皮のように痩せ細っている。

 活気など微塵もない。死を待つだけの集落。


「……酷いですね」


 ソフィアが眉をひそめる。

「衛生状態も最悪です。あちこちから腐敗臭と、病魔の気配がします」

「交渉するには好都合ですよ」


 1号は冷静に村の中へと進んだ。

 村人たちが、警戒と恐怖の入り混じった目で2人を見る。

 だが、ソフィアの純白の修道服を見ると、少しだけ安堵の表情を浮かべる者もいた。


「村長はいるか!

 旅の商人だ。商談に来た!」


 1号が声を張り上げる。

 しばらくして、奥の小屋から、杖をついた老人が出てきた。


「……商人?

 こんな何もない村に、何の用だね」


 村長は力のない声で言った。


「仕事の依頼です。

 森の奥にある廃墟を修繕したい。

 人手を貸していただきたい」

「……森の廃墟だと?

 あそこは化け物の巣窟だぞ。近寄るだけで食い殺される」

「化け物なら、我々がすべて駆除しました。

 今は安全です」


 1号の言葉に、村人たちがざわめく。

 あの森の魔獣を駆除した?

 信じられない、という顔だ。


「嘘をつけ。あそこの魔獣は……」

「信じないならそれでもいい。

 ですが、我々は対価を払いますよ」


 1号は懐に手を入れるフリをした。

 だが、そこには何もない。金貨は前回、すべて神マケに入金してしまったからだ。

 しかし、今のこの村に必要なのは、金ではない。


「報酬は何だ? 金貨か?」


 村長が尋ねる。だが、その目に期待の色はない。


「金をもらったところで、この辺りには買う食い物がねえんだ。

 商人も来なくなった。

 腹が減って、力が出ねえ……仕事どころじゃねえんだよ」


 拒絶。

 当然だ。飢えた人間に札束を見せても意味がない。

 必要なのは、明日の命を繋ぐ糧だ。


『マスター。交渉フェーズです。

 現物をお願いします』


 一号が思考通信で要請を送る。

 廃墟で待機していた俺は、即座に応えた。


『承認。送るぞ』


 俺は手元の段ボール箱に座標を合わせた。

 日本を出る前に買い込んだ、安価だが最強の戦略物資。


「【配送】」


 シュンッ。

 1号の目の前の空間が歪み、ドサリと段ボール箱が出現した。

 さらに、湯気が立つ大型の魔法瓶も一緒に転送される。


「な、なんだ!?」


 村人たちが驚いて後ずさる。

 1号は無言で段ボールを開封し、中身を取り出した。

 白い発泡スチロールの容器。青いロゴマーク。

 カップ麺、シーフード味だ。


「……なんだ、それは?」


 村長が怪訝な顔をする前で、1号は手際よく蓋を開け、魔法瓶から熱湯を注いだ。

 3分待つ必要はない。この匂いだけで十分だ。


 ボワッ。


 蓋を少し開けた瞬間、小屋の周囲に爆発的な香りが広がった。

 魚介のエキス。炒めた野菜の香ばしさ。

 そして、異世界には存在しない化学調味料とスパイスの、脳髄を直接刺激するような強烈な誘惑。


「な……ッ!?」


 村長の鼻がヒクヒクと動く。

 遠巻きに見ていた村人たちが、ふらふらと吸い寄せられるように集まってきた。

 痩せこけた子供が、母親の袖を引いて指をくわえている。


「こ、これは……なんという香りだ……!

 肉か? 魚か? いや、もっと濃い……」

「食べてみてください」


 1号は割り箸を割り、完成したカップ麺を村長に差し出した。


「我々の故郷の料理です。

 毒見は必要ですか?」

「い、いらん! よこせ!」


 村長はひったくるように受け取り、震える手で麺を啜った。

 ズズッ。


 その瞬間。

 村長の動きが止まった。

 見開かれた目から、ボロボロと涙が溢れ出した。


「う……うまい……ッ!!」


 絶叫だった。


「なんだこれは!? 味が……味がする!!

 塩だけじゃない、海の味が! エビだ、イカだ!

 それに、この白いスープ……なんて濃厚なコクなんだ!」


 彼は獣のように貪り食った。

 ズルズルと音を立て、汁の1滴まで飲み干し、呆然と空の容器を見つめた。


「……王都の貴族様でも、こんな美味いものは食ってねえ……

 夢のような味だ……」


 完全に落ちた。

 周囲の村人たちが、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえる。

 彼らの目は、もはや1号を怪しい商人としては見ていない。

 奇跡をもたらす救世主を見る目だ。


「仕事を引受けてくれるなら、毎日これを支給しましょう」


 1号は段ボールの中身――残りのカップ麺を見せつけた。


「朝、昼、晩。

 働き手には一人3個。家族の分も保証します。

 もちろん、それとは別に金貨も払いましょう」

「やります!!」


 村長が即答した。地面に額をこすりつけて土下座する。


「村の衆、総出だ!!

 大工道具を持て! 石を運べ!

 この方々のために、最高の屋敷を建てるんだ!!」

「おおおおおっ!!」


 歓声が上がる。

 食への渇望が、労働意欲へと変換された瞬間だった。


「交渉成立ですね」


 1号は満足げに頷き、ソフィアを見た。


「では、仕上げをお願いします。

 働ける身体に治してやってください」

「ええ、お任せを」


 ソフィアが立ち上がり、慈悲深い笑みを浮かべた。

 彼女の背後に、後光のような魔力が輝く。

 食と、癒やし。

 この2つを与えられた彼らは、もはやファントム・ロジスティクスの忠実な労働力となる。


---


 1時間後。

 廃墟と化していた古城に、活気が戻っていた。


「もっと右だ! 石材を運べ!」

「おい、そこの壁を補強しろ!」


 1号に連れられてきた数十人の村人たちが、カップ麺のエネルギーで驚異的な働きを見せていた。

 レオンが持ち込んだ現代の工具と建材、そして現地の石工技術が融合し、ボロボロだった廃墟が、見る見るうちに要塞へと姿を変えていく。


「……早いわね」


 高橋が、仮設の椅子に座ってコーヒーを飲みながら感心したように言った。

「現金なものね。カップラーメン一つでここまで働くなんて」

「彼らにとっては、金よりも価値があるからな」


 俺はモニター越しに、建設現場を眺めて頷いた。

 現地の労働力と、地球の物資。

 この2つを組み合わせれば、不可能なことはない。


「よし。

 拠点は確保した。労働力も手に入れた。

 これで、この世界に俺たちの足場ができた」


 俺は視線を、森のさらに奥へと向けた。

 その先にあるのは、人間の住む街。

 そして、この世界の支配者たちがいる場所。


「始めるぞ、高橋。

 ここを始点にして、この世界の経済と武力を食い尽くす。

 そして――必ず澪を見つけ出す」

「ええ。

 付き合うわよ、オーナー。

 地獄の底まで、稼ぎに行きましょう」


 異世界転移初日。

 俺たちは、未知の世界に確かな楔を打ち込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ