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3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


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35/65

第35話 700億の弾薬と、捏造された反逆罪

 埼玉拠点、5階。

 夕暮れの空を埋め尽くす武装ヘリの轟音が、窓ガラスをビリビリと震わせていた。


「……サードアイ」


 俺は窓から離れ、振り返った。

 戦うしかない。

 俺には最強の矛と盾がある。

 Aランクダンジョンを散歩コースに変え、Sランクモンスターすら狩り尽くすアバターたちがいれば、たとえ国家権力相手でも――


 そう思った、瞬間だった。


 キィィィィィィィン!!


 耳をつんざくような高周波音が、廃ビル全体を包み込んだ。

 音ではない。魔力の波だ。

 それも、特定の波長を強制的に遮断する、強力なジャミング。


「ガ……ッ!?」


 レオンが、膝をついた。

 ロザリーが杖を取り落とす。

 ソフィアが胸を押さえてうずくまる。

 そして、忍者装束の1号までもが、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。


「……おい、どうした!?」


 俺が叫ぶ間もなく、彼らの身体が淡い光に包まれた。

 輪郭がぼやけ、質量が急速に失われていく。


 シュゥゥゥ……。


 光が収まった後、床に残されていたのは――

 30センチほどの、4体の人形だけだった。


 ピクリとも動かない。

 ただのプラスチックと魔力回路の塊。

 俺が2億かけて作り上げ、数億かけて育て上げた最強の軍団が、一瞬で「オモチャ」に戻された。


『無駄だ』


 拡声器の声が、無慈悲に告げた。

 特務捜査官、鬼道の声だ。


『このエリア一帯に【対魔導人形・阻害結界アンチ・パペット】を展開した。

 外部からの魔力供給と遠隔操作を遮断する、対・人形使い専用の結界だ。

 貴様の自慢の兵隊は、もう指一本動かせんよ』


「……クソッ!」


 俺は床に転がる1号(人形)を握りしめた。

 完全に研究されていた。

 俺の正体が「人形使い」であると特定された時点で、この結界を用意されていたのだ。


『さらに、【空間固定結界】も展開済みだ。転移による逃走も不可能と思え』


 詰んだ。

 戦力はない。

 逃げ場もない。

 あるのは、動かない人形と、隣室の結界内で眠る澪だけ。


『通告する!!』


 鬼道の声が、死刑判決のように響く。


『九条真也。およびテロ組織ファントム・ロジスティクスの構成員へ!!

 貴様らを、国家の秩序を乱す特級危険因子と認定する!!』


 俺は窓を開け、怒鳴り返した。

 拡声器などないが、今の俺には腹の底からの怒りがあった。


「ふざけるな!!

 俺たちが何の法を犯した!?

 ユニークスキルを持つことは違法じゃないはずだ!!

 ダンジョンで稼ぐことが、いつから罪になった!?」


『法ではない。“秩序”の問題だ』


 鬼道は冷ややかに答えた。


『貴様はやりすぎた。

 戦略物資である魔石を独占し、市場価格を操作した。

 未登録のSランク戦力を組織化し、国家の管理外で武力を拡大した。

 それらは全て、国家転覆の準備行為と見なされる』


『よって、これより貴様らを“国家内乱予備罪”で処断する!!』


「言いがかりだ……!!」


 内乱予備罪。

 そんなものが適用されれば、裁判すらない。

 即時処分。つまり、処刑だ。


『投降は認めない。

 貴様のような規格外の能力者は、生かしておけば必ず禍根となる。

 ここで、灰になってもらう』


 空が、光った。

 武装ヘリの編隊が左右に散開し、その中央。

 雲が渦を巻き、巨大な魔法陣が展開される。

 直径数百メートル。

 街一つを消し飛ばすほどの、極大のエネルギー反応。


『戦略級魔法・“天槌ケラウノス”。

 発動まであと30秒』


「……本気かよ」


 俺は絶句した。

 個人の犯罪者を捕まえるために、戦争で使うような兵器を持ち出してきたのか。

 この廃工場地帯ごと、俺たちを蒸発させる気だ。


 30、29、28……。


 カウントダウンが始まる。

 逃げられない。

 防げない。

 俺のFランク【配送】など、この質量の前では無意味だ。


 終わるのか?

 ここで。

 700億も稼いで、あと少しで手が届くところまできて。

 全部、無駄になるのか?


「……ふざけるな」


 俺は奥歯を噛み砕くほど強く噛み締めた。

 認めない。

 こんな理不尽な暴力で、俺の人生も、澪の命も、終わらせてたまるか。


「理屈が通じないなら……さらに上の“ルール”を金で買うまでだ」


 俺は震える手でスマホを取り出し、神マケを開いた。

 残高、702,450,000,000クレジット。

 俺が命を削って積み上げた、血と汗の結晶。


 俺はカテゴリを切り替えた。

 【業務用品】ではない。

 【建築】でもない。

 今まで、高すぎて見向きもしなかった、禁断のページ。


 【神具・概念兵器】カテゴリ。


 そこにあるのは、人の理を超えた、神々の遊び道具だ。

 価格の桁がおかしい。

 だが、今の俺なら買える。

 俺は迷わず、2つの商品をカートに放り込んだ。


 一つ目。

 上空の「天槌」を防ぐための、絶対防御。


《SSランク消費具:神の加護アイギス

《価格:500,000,000,000クレジット》

《説明:指定座標に対し、一度だけあらゆる物理・魔法・概念干渉を“無効化”する絶対防御障壁を展開する。神の一撃すら防ぐ、使い捨ての聖域》


 500億。

 ボタン一つで、国家規模のプロジェクト予算が消える。


 二つ目。

 動かない人形の代わりに、敵を殲滅するための軍隊。


《SSランク傭兵召喚:戦乙女ヴァルキリー部隊》

《価格:200,000,000,000クレジット》

《説明:神界の精鋭部隊と“単発”の召喚契約を結ぶ。術者の魔力に依存せず自律行動するため、下界の魔力阻害の影響を受けない》


 200億。

 たった一度の戦闘のためだけに支払う、狂気の傭兵費。


 合計、700億。


「……10、9、8……」


 外ではカウントダウンが続いている。

 空が白く輝き、滅びの光が落ちてこようとしている。

 俺は、購入ボタンに指をかけた。


 指先が震える。

 これを押せば、俺は無一文だ。

 1000億への道は、またゼロからになる。


 だが。

 俺は隣室を見た。

 床に転がり、ピクリとも動かないソフィア(人形)。

 その向こう。

 結界の中で、何も知らずに眠る澪の顔。


「……安いもんだ」


 俺は笑った。

 金は、また稼げばいい。

 タイタンでも、Sランクダンジョンでも、俺の体力が続く限り何度でも稼いでやる。

 だが、澪の代わりはいない。


「700億で、あいつを守れるならな!!」


 0秒。

 上空から、極光の柱が突き刺さるのと同時に。

 俺はボタンを押し込んだ。


《決済完了》

《残高:2,450,000,000クレジット》


 一瞬で、数字が消えた。

 その代わり。

 俺の手の中には、虹色に輝く小さな結晶と、黄金の笛が現れた。


「使い方は分かってる」


 俺は結晶を握り潰し、天に向かって吠えた。


「展開ッ!! アイギス!!」


 俺たちの要塞の上空に、世界の色が変わるほどの光が爆発した。


 ズガアアアアアアン!!!


 上空から降り注いだ戦略級魔法『天槌ケラウノス』の極大の閃光が、俺たちの頭上で「見えない壁」に衝突した。

 500億の使い捨て絶対防御障壁、『神の加護アイギス』だ。


 物理法則を超越したエネルギーの奔流が、虹色のドームに弾かれ、四散していく。

 衝撃波だけで雲が吹き飛び、埼玉の空が裂ける。

 だが、要塞は揺れもしない。

 神話級の盾は、国をも滅ぼす一撃を、文字通り「無効化」してみせた。


『な……っ!? 防いだだと!?

 馬鹿な、あれは戦略級だぞ!? 個人の魔導具で防げる出力ではない!!』


 拡声器越しに、鬼道の驚愕の声が響く。

 当然だ。これは下界の理で作られた魔導具じゃない。

 神々の遊び道具だ。


「まだだ……! これだけじゃ終わらせない!」


 俺はもう一つのアイテム、黄金の笛を口に当て、思い切り吹き鳴らした。

 音はしない。

 代わりに、空間そのものが震えた。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン……!


 要塞の周囲、虚空から無数の光の裂け目が走る。

 そこから現れたのは、白銀の鎧に身を包み、光の翼を広げた美しい戦乙女たち。

 『SSランク傭兵・戦乙女ヴァルキリー部隊』。


 契約金200億。

 彼女たちは、神界の住人だ。

 下界の魔力など必要としない。自らの神気だけで稼働する自律兵器。

 つまり――鬼道の展開した『対魔導人形・阻害結界』など、彼女たちには何の意味もない。


「殲滅しろ!!」


 俺の号令と共に、戦乙女たちが空へ駆け上がった。

 それは、一方的な蹂躙だった。


「な、なんだこいつらは!? 魔力反応が桁違いだ!」

「結界が効かない!? ぐあああっ!!」


 Sランク探索者たちが、光の槍で貫かれ、空から叩き落とされる。

 武装ヘリが、翼の一振りで紙細工のように両断され、爆発四散する。

 国家最高峰の戦力が、赤子のようにひねり潰されていく。


『総員、撤退ッ!! 撤退だ!!

 この戦力は想定外だ!! 一度体勢を立て直す!!』


 鬼道の悲鳴のような指示が飛ぶ。

 黒塗りの車列と残ったヘリが、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。


 ものの数分。

 嵐のような戦闘が終わった。

 戦乙女たちは、敵影が消滅したことを確認すると、光の粒子となって消滅した。

 1回使い切りの契約。

 200億が、5分で消えた。


「……ははっ。勝った、のか?」


 俺はへたり込んだ。

 残高はゼロに近い。

 700億を失った。

 だが、守り切った。

 要塞は無傷だ。俺も、高橋も生きている。

 そして何より――澪を守れた。


「……澪!」


 俺は立ち上がり、隣室へと走った。

 結界の中のベッド。

 そこで眠る彼女の顔を見て、安心したかった。

 「大丈夫だ、もう誰も来ない」と伝えたかった。


 ガチャリ。


 扉を開ける。

 そこには、淡い光を放つ絶対不可侵の結界と、その中心に置かれたベッドがあった。


 だが。


「…………え?」


 俺は、足を止めた。

 思考が、凍りついた。


 結界の奥。

 ベッドの上。

 真っ白なシーツ。

 さっきまでそこに沈み込んでいた、彼女の身体の重みを示す窪みだけが残っている。


 いない。

 澪が、いない。


「……おい、嘘だろ?」


 俺は結界に駆け寄り、中を覗き込んだ。

 隠れているわけがない。

 どこにもいない。

 痕跡すらない。

 まるで最初から、そこには誰もいなかったかのように。


「澪ッ!! どこだ!? おい!!」


 俺は叫んだ。

 だが、返事はない。

 床には、機能を停止したままのソフィア(人形)が転がっているだけだ。


 彼女が動いていれば、「魂の限界が来て消滅した」とか「空間の歪みに飲まれた」とか、何らかの説明をしてくれたかもしれない。

 だが、今はただの物言わぬ人形だ。

 誰も説明してくれない。

 何が起きたのか分からない。


 ただ、「700億を使って守ったはずの結界の中身が、空っぽだった」という事実だけがそこにあった。


「……あ、あぁ……」


 膝から崩れ落ちる。

 金も失った。

 守るべき対象も失った。

 俺の手元には、もう何もない。

 完全な敗北。

 勝利したはずの戦場で、俺は全てを失っていた。


 その時。

 静まり返った部屋ではなく、俺の脳内に、無機質な電子音が響いた。


《ピロン》


 神マケの通知だ。

 こんな時に、何の用だ。

 嘲笑か? 追撃か?


 虚空に表示された文字を見て、俺の目が釘付けになった。


《累計消費額が規定値を突破しました》


 700億という巨額の散財。

 それが、あるトリガーを引いていた。


《会員ランクが【VIPロイヤル】に昇格します》


 視界に浮かぶインターフェースが、黒と金から、さらに禍々しくも神々しい『白金プラチナ』色へと変化していく。


 そして、新たなメニュー項目が追加された。


《新機能解放:【出品エクスポート】》

《説明:下界の物品を、神々の市場へ販売することが可能になります》


「……出品?」


 俺は震える手で、何もない虚空を掴もうとした。

 今までは「買う」だけだった。

 神々から与えられるものを、金で買うだけの一方通行。

 だが、これからは「売る」ことができる?

 俺たちが住むこの世界の物を、あっち側の世界へ?


 俺の脳裏に、一つの狂気的な仮説が浮かんだ。


 澪の魂は、死んだんじゃない。

 ソフィアは言っていた。「魂の定着率が限界だ」と。

 そして彼女の魂は、1年前のテロで「異界(あっち側)」に引きずり込まれかけた不安定な状態だった。


 もし。

 今回の戦略魔法と神具の衝突による衝撃で、彼女の魂が完全に肉体から剥がれ落ち、元々引っ張られていた「あっち側」――つまり、神マケの管理する領域へと飛んでいってしまったとしたら?


「……なら、買い戻せるか?」


 俺が神マケの「向こう側」に干渉できる商人になれば。

 あっちの世界で流通する通貨を稼ぎ、あっちの世界の理に触れることができれば。

 彼女の魂を、商品として買い戻すことができるんじゃないか?


「……は、ははっ」


 乾いた笑いが漏れた。

 1000億なんて、可愛い目標だったのかもしれない。

 相手は神だ。魂の値段なんて、いくらふっかけてくるか分からない。

 兆か? 京か?


 だが、道は繋がった。

 俺は空っぽのベッドを見つめ、涙を拭った。

 絶望している暇はない。

 俺はまだ、稼げる。


「待ってろ、澪」


 俺は強く拳を握りしめた。


「地獄の果てだろうが、神の国だろうが……俺が必ず、お前を買い戻しに行ってやる」


 ゼロからの再スタート。

 だが今度の俺は、ただの消費者じゃない。

 神々すらも顧客にする、最強の貿易商だ。


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