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3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


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34/65

第34話 1億の亀と、99%の赤信号

 埼玉拠点、5階。

 空になったポーションの瓶が散乱するコタツの中で、俺は2つのモニターを同時に睨みつけていた。


 右のモニター。

 映っているのは、先日アクセス権を得たばかりのSランクダンジョン『水晶の渓谷』。

 高橋率いるファントム・ロジスティクスの主力部隊だ。


「……強くなったな」


 俺はポテチを齧りながら、感心したように呟いた。

 画面の中、全長10メートルを超える『クリスタル・タートル』が、その巨体に見合わぬ速度で回転し、体当たりを仕掛けてきている。

 甲羅はダイヤモンド以上の硬度を持つSランク素材。

 まともに食らえば、戦車すらぺしゃんこになる質量攻撃だ。


 だが、今は違う。


「フンッ!!」


 ドガァァン!!


 レオンが、その回転する宝石の要塞を、盾すら使わず素手で受け止めた。

 地面が陥没し、衝撃波で周囲の水晶が砕け散るが、彼は一歩も退かない。

 Aランク昇格までの地獄のレベリングで、彼の基礎ステータスはSランクモンスターの攻撃すら耐えうる領域まで達している。


「硬い! 素晴らしい硬度だ! だが私の愛の方が勝っている!」

「眩しいですわ! 曇らせてあげます!」


 ロザリーが杖を振るう。

 無駄な爆発ではない。超高温の熱線一点集中。

 熱に弱い宝石の特性を突き、甲羅の継ぎ目を溶断する。

 体勢を崩した亀の首に、高橋のワイヤーが巻き付いた。


「終わりよ」


 ヒュンッ。


 硬い甲羅の隙間、柔らかい首が切断される。

 鮮やかな連携。俺の遠隔狙撃など、もう必要ない。


 戦闘終了後。

 1号が動いた。

 忍者装束に身を包んだ彼は、亀の死体に歩み寄る。

 手にはナイフも解体道具も持っていない。

 彼は死体の甲羅の隙間に手をかざし、集中した。

 狙うは、体内に生成されている高純度の魔石と、甲羅の内側にある希少部位の座標。

 送り先は、自身が腰に下げたマジックバッグの中。


「……【配送】」


 シュッ。


 音もなく、1号のバッグの中に、ゴロリと何かが転がり込んだ。

 『Sランク魔石』だ。

 死体には、解体痕ひとつついていない。

 硬い外殻を無視し、内部の魔石だけを座標指定して、直接袋の中へと空間転移させたのだ。


「……はぁ、はぁ」


 1号が膝をつく。

 燃費の悪いFランクスキルで、Sランクという高密度の物質内部へ干渉した代償だ。

 激しい消耗。

 だが、硬すぎて解体に数時間はかかるSランクモンスターから、一瞬で素材を抜き取るこの技術は、探索効率を劇的に向上させる。


「はい、回復」


 ソフィアが背後からヒールをかける。

 1号は苦悶の表情を浮かべながら立ち上がり、次は1億2千万の価値がある『金剛宝石の甲羅』を、部位ごとに【配送】で解体・収納していく。


***


「……よし。亀狩り班は順調だ」


 俺は視線を、左のモニターへと移した。

 こっちは、俺一人の戦場だ。

 映っているのは、同じSランクダンジョンだが、エリアが違う。

 灼熱のマグマが流れる『炎獄の河』。

 高橋たちが安全な陸地で亀を狩っている間、俺は余ったリソースをすべて、この危険地帯でのソロ狩りに投入していた。


「座標、固定」


 マグマの中から鎌首をもたげる巨大な蛇。

 Sランクモンスター『ヴォルカニック・コブラ』。

 全長20メートル。その鱗は溶岩すら弾き、吐き出すブレスは鉄を蒸発させる。

 だが、こいつには弱点がある。

 鱗の隙間。脳へと通じる、針の穴ほどの神経孔だ。


「【配送】」


 思考するより速く、指が動く。

 視界に捉えた瞬間、座標が固定され、鉄杭が射出される。

 ラグゼロ。

 思考と現象が直結する感覚。


 ズドンッ!


 マグマの飛沫を上げ、大蛇がのたうち回って沈む。

 ここまでは、いつもの作業だ。

 だが、ここからが違う。

 高橋たちがいない今、素材を回収するのは俺自身だ。

 俺は沈んでいく大蛇の死体、その体内にある『Sランク魔石』に照準を合わせる。


「【受取】」


 ズグンッ!!!


「ぐっ……ぅぅぅ!!」


 俺は頭を抱えて呻いた。

 脳血管が膨張し、ミシミシと音を立てるような激痛。

 距離や方向は関係ない。

 だが、Sランクの魔石は、その身に宿す魔力の密度がAランクの比ではない。

 物理的な重量以上の魔力の質量が、転送時の負荷となって俺の精神力をゴリゴリと削り取っていく。


 ボトッ。


 手元に、灼熱の魔石が転がり落ちる。

 コタツ布団が焦げる匂いがした。


「……はぁ、はぁ……」


 鼻血が止まらない。

 視界がチカチカと明滅している。

 だが、休むわけにはいかない。

 亀ほどではないが、この蛇の魔石も一つ3000万は下らない。

 数を狩れば、亀を超える稼ぎになる。


「……次だ」


 俺は震える手で、Sランクポーションの瓶を掴み、一気に流し込んだ。

 強制冷却。

 痛みを麻痺させ、無理やり思考をクリアにする。


 右の画面では亀。1体1億。

 左の画面では蛇。1体3000万。

 これを何百回、何千回と繰り返す。


「配送……受取……配送……受取……ッ!」


 機械のように。

 自らの命を削り出し、金という形に変えていく作業。


 その時だった。

 ガレージのシャッターが開く音と、階下からの足音が聞こえた。

 高橋たちがSランクダンジョンから帰還したのだ。


 数分後。

 ガチャリ、とリビングの扉が開く。


「……マスター」


 ソフィアの声。

 いつもなら軽口を叩く彼女の声色が、氷のように冷たい。

 彼女はダンジョンでの汚れを落とす間もなく、俺の元へ歩み寄ってきた。


「いい加減にしなさい。死にますよ」


 彼女は俺の横に来て、散乱するポーションの空き瓶と、血まみれのティッシュの山を見下ろした。


「澪様の魂も限界ですが……それより先に、あなたが壊れます」


 ソフィアは俺の顔を覗き込む。

 回復のスペシャリストとしての、冷徹な診断。


「そのペースで脳を酷使し続ければ、脳血管が破裂して死ぬか、あるいは思考能力を焼き切られ、廃人になります。

 そうなれば、誰が彼女を救うのですか?」


 ドクターストップ。

 俺の体は、すでに限界を超えている。


 だが。


「……知ったことか」


 俺はモニターから目を離さず、次のコブラに照準を合わせた。


「俺が死のうが、廃人になろうが、関係ない。

 1000億だ。

 1000億貯めて、あの薬さえ手に入れば……あとはお前たちが澪に使えばいい」


 俺はシステムの一部でいい。

 金を稼ぐための歯車だ。

 歯車が摩耗して砕け散っても、最後に結果さえ出れば、俺の勝ちだ。


「……狂っていますね」


 ソフィアは呆れたように、けれどどこか悲しげに呟いた。


「止めはしません。それがあなたのROIだと言うなら。

 ……ですが、せめて死なない程度に回復はさせておきます」


 彼女の手が光り、俺の背中に触れる。

 温かい魔力が流れ込み、悲鳴を上げていた脳細胞を強引に繋ぎ止める。


「……感謝する」


 俺は口元を歪め、再びトリガーを引いた。


「配送」


 ズドンッ。


 また一匹、Sランクの怪物が金に変わる。


 神マケの画面の端。

 【国家探知危険度】の数値が、俺の命と連動するように上昇を続けていた。


 72%……73%……。


 警告灯は、もう消えることはない。

 破滅か、達成か。

 どちらが先に来るかのチキンレースは、最終コーナーを回ろうとしていた。


***


 それから、数ヶ月。

 俺たちの時間は、狂気的な速度で過ぎ去った。

 昼はタイタン商事からの上納金30億を管理し、夜はSランクダンジョン『水晶の渓谷』で、宝の山を切り崩す日々。


「……本日、亀10体、蛇20体。処理完了」


 モニターの中。

 Sランクダンジョンの深層で、高橋たちが『クリスタル・タートル』の巨体を沈める。

 Aランクに昇格した彼らにとって、動きの遅い亀など、ただの硬い金庫でしかない。

 レオンが足止めし、ロザリーが装甲を脆くし、1号が中身の魔石と宝石甲羅を【配送】で抜き取る。


 一方で、俺もコタツから一歩も出ず、別エリアの『ヴォルカニック・コブラ』をソロで狩り続けた。

 1体3000万。それを毎日数十体。

 ポーションの空き瓶は部屋の隅に山となり、俺の鼻血はティッシュ一箱では止まらなくなった。

 脳が焼ける匂いがする。


 だが、その代償として、資産は爆発的な速度で膨れ上がっていった。

 100億。

 300億。

 500億。


 止まるわけにはいかない。

 ソフィアの警告通り、澪の魂の猶予は限界に近い。

 俺が休めば、彼女が死ぬ。

 俺が稼げば、彼女は助かる。

 シンプルな数式だ。


 そして――運命の日。


「……届いた」


 埼玉拠点、5階リビング。

 換金完了の通知音と共に、神マケの残高表示が更新される。


《現在残高:702,450,000,000クレジット》


「700億……ッ!」


 俺は震える手で、画面に触れた。

 あと300億。

 今のハイペースなら、あと1ヶ月もしないうちに届く。

 間に合う。

 澪を助けられる。


 俺はふらつく足で立ち上がり、隣室のガラスに手を突いた。

 そこには、静かに眠る彼女がいる。


「……待ってろ、澪。

 あと少しだ。もうすぐ、お前を――」


 だが。

 光が強くなればなるほど、落ちる影もまた濃くなることを、俺は忘れていた。


 リビングの空気が、一変した。


 ブブブブブブッ!!


 不快な振動音。

 スマホではない。

 俺の視界、神マケのウィンドウ全体が、真っ赤に染まって明滅している。


《警告》

《警告》

《警告》


「……なんだ?」


 俺は眉をひそめ、画面の隅を見た。

 そこにあった数値を見て、心臓が止まりかけた。


【国家探知危険度:99.8%】


「99……?」


 70%台だった数値が、一気にカンスト寸前まで跳ね上がっている。

 Sランクダンジョンでの乱獲。

 数千億規模の高密度魔力質量の移動。

 そして何より、この数ヶ月間、休むことなく空間に穴を開け続けた負荷が、ついに国家の監視網を完全に焼き切ったのだ。


「……マスター」


 ソフィアが青ざめた顔で窓の外を指差した。


「外を」


 俺はふらつく足で窓辺に寄り、カーテンを開けた。

 そこにあったのは、絶望だった。


 ババババババババ……!!


 腹に響くローター音。

 夕暮れの埼玉の空を、無数の黒い点が埋め尽くしていた。

 武装ヘリだ。

 1機や2機ではない。

 10機以上の編隊が、この廃ビルを完全に包囲している。


 そして、地上。

 廃工場の敷地を、黒塗りの装甲車が何重にも取り囲み、蟻の這い出る隙間もないほどに封鎖していた。


「……サードアイ」


 拡声器の声が、ビリビリと空気を震わせた。


『通告する!!

 建物内の未登録ユニークスキル能力者、およびテロ組織ファントム・ロジスティクスの構成員へ!!

 貴様らは完全に包囲されている!!』


 その声には聞き覚えがあった。

 あの時、1号の腕を切り落とした男。

 特務捜査官、鬼道。


『無駄な抵抗はやめろ!! この包囲網には、国家認定Sランク探索者が5名、動員されている!! 貴様らの隠れ家の座標は、物流の痕跡と魔力反応から逆算して特定した!!』


 虚数座標の隠れ家。4億5千万の絶対防御。魔法的な探知は防げても、物理的な包囲と、Sランク5人による力技の空間固定には耐えられないのか。


「……詰んだか」


 俺はへたり込みそうになった。

 1000億への道が見えた、その瞬間に。

 積み上げてきた全てが、崩れ落ちようとしている。


 逃げるか?

 ……いや、不可能だ。

 俺だけなら、隠蔽アイテムを使って包囲網を抜けることはできるかもしれない。700億を持って海外へ高飛びし、生き延びることもできるだろう。


 だが、それは「敗北」ですらない。目的の放棄だ。


 隣室を見る。そこには、装置と結界に繋がれ、動かすことのできない澪がいる。

 ここを放棄して逃げるということは、彼女を見殺しにするということだ。

 サードアイに確保されれば、彼女は実験体に戻されるか、処分される。


 俺にとって、それは「死」と同義だ。

 逃走という選択肢は、ハナから存在しない。


(戦うしか、ない)


 相手は国家権力と、Sランク探索者5人。

 勝てる保証はない。

 そして何より、戦えば――


 俺は神マケの「残高」を見た。

 約700億クレジット。

 タイタンからの搾取と、ここまでの乱獲で積み上げた、澪を救うための血と汗の結晶。


 これを、「弾薬」として使わなければならないのか?


「……ふざけるな」


 俺は奥歯を噛みしめた。

 どっちを選んでも地獄だ。

 だが、俺の中で答えは決まっていた。


「……1号、高橋、全員配置につけ」


 俺はインカムに向かって、低く唸るように告げた。


「迎撃だ。

 サードアイだろうがSランクだろうが関係ない。

 降りかかる火の粉は、すべて払い落とす」

『了解。……やってやるわよ』


 高橋の声にも、覚悟が滲む。

 今の俺たちには力がある。

 Aランクダンジョンを散歩コースに変え、Sランクの怪物を狩り尽くすだけの実力が。

 国家権力相手でも、遅れは取らないはずだ。


 俺は神マケの「残高」を睨みつけた。

 これは、澪を救うための金だ。

 こんなところで、自分の保身のために浪費するわけにはいかない。


「この金は、あいつの命だ。

 1円たりとも減らさせない」


 俺はモニターを睨みつけ、アバターたちに攻撃許可を出した。


「総員、戦闘開始ッ!! 俺たちの城を、奴らに踏み荒らさせるな!!」


 決断の時。

 俺は最強の矛と盾を信じて、国家との戦争を始めた。


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