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3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


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第25話 1億の通行料と、胃袋の中の水風船

 クロノス・ロジスティクス、物流管理課。

 朝のオフィスに、小杉の怒号が響き渡っていた。


「ふざけんなッ!! なんで『Bランク採掘坑道』のメインルートが塞がってんだよ!」


 小杉が受話器をデスクに叩きつける。

 顔色は土気色で、脂汗が滝のように流れている。

 無理もない。

 彼が現場責任者を務めるBランクダンジョンからの希少鉱石運搬ルート。

 そこに今朝、突如として強力なネームドモンスターが居座り、物流が完全にストップしてしまったのだ。


「納期は今日の夕方だぞ!? 遅れたら違約金だけで数億……俺の首が飛ぶどころじゃ済まねえ!」


 小杉が髪を搔きむしる。

 彼に会社の内部留保などという巨額の資産を動かす権限はない。

 このミスが発覚すれば、彼自身の査定に響くどころか、過去の横領まで芋づる式にバレて破滅する。

 完全に詰みだ。


 その阿鼻叫喚を、俺の分身である1号は、デスクで伝票整理をするフリをしながら冷静に観察していた。


 かかったな。

 すべては計画通りだ。


 数日前、高橋たちに命じて、そのルートの要所に魔物が好む香草を設置させた。

 それが偶然、いや必然として近隣のエリアボスをおびき寄せ、狭い坑道に蓋をしてしまったというわけだ。


 1号はおずおずと、パニック状態の小杉に歩み寄った。


「あ、あの……課長」

「あァ!? 今忙しいんだよゴミが! 失せろ!」

「いえ、その……納期遅れを防ぐ方法があるかもしれないと思って」


 1号がタブレットを差し出す。

 表示されているのは、『探索者協会』の公式ランキングページだ。

 そこには、最近急上昇中のクラン『ファントム・ロジスティクス』の名前があった。


「こいつら、最近Cランク試験を歴代最速で突破したって話題の連中ですよ。

 噂じゃ、金さえ積めばどんな汚れ仕事でも即日で片付けるとか」

「……あ?」


 小杉の動きが止まる。

 ファントム。

 最近業界を騒がせている、謎の実力派集団。

 その噂は、当然小杉の耳にも入っている。


「……あそこか。確か実力は本物だって話だが……」


 小杉の目に、藁にもすがる色が浮かぶ。

 Sランクパーティは数ヶ月待ちだ。

 今すぐ動けるのは、勢いのある新興クランしかない。


「おい3000万! てめぇが連絡しろ!

 協会に電話して、『ファントム』への緊急指名依頼を出せ! 今すぐだ!」

「はい、ただちに」


 1号は内心で舌を出しながら、デスクの電話で探索者協会へダイヤルした。

 もちろん、俺はコタツでその様子を全て聞いている。

 そして高橋にも、協会から連絡が来るぞとインカムで伝えてある。


 数分後。

 協会との通話を終えた1号が、困ったような顔で小杉に向き直った。


「課長……繋がりましたが、渋られています」

「あぁ!? なんでだよ!」

「ファントム側は現在、他案件で手一杯だそうです。

 スケジュールの都合上、通常の報酬額では動けないと」

「ふざけんな! いくらなら動くんだ!」

「それが……」


 1号は、協会から伝えられた金額を、さも恐ろしげに口にした。


「『特急料金込みで、1億円』だそうです」

「……は?」


 小杉の声が裏返った。

 オフィスの空気が凍る。

 1億。

 通常のBランク討伐報酬の、約10倍だ。


「い、一億!? ふざけんな! ボッタクリだろ!

 ぽっと出の新興クランが、調子に乗るんじゃねえぞ!」


 小杉が喚き散らす。

 だが、1号は冷ややかに、協会のオペレーターからの伝言を続けた。


「1円でも下がるならお断りします。他を当たってくださいとのことです。

 ちなみに、協会のデータベースによると、現在即応可能なAランク以上のパーティは皆無です」


 つまり、選択肢はない。

 1億払って地位を守るか。

 数億の違約金を背負って破滅するか。


「く、くそっ……!」


 小杉がデスクを蹴り飛ばす。

 部署の予算では足りない。

 足りない分は、彼が長年かけて会社から横領し、溜め込んでいた個人の隠し資産から出すしかない。

 自分の金が消える。

 その事実に、小杉の顔が苦渋に歪む。


「……分かったよ! 払えばいいんだろ、払えば!」


 小杉は震える手で、支払い手続きの書類にサインをした。

 協会を通している以上、未払いは許されない。

 確実に毟り取れる。


「おい3000万! 協会に伝えろ!

 金は払う。その代わり、失敗したらタダじゃおかねえぞってな!」

「承知いたしました」


 1号は恭しく頭を下げ、受話器に向かって契約成立を告げた。

 その背中を見ながら、俺はコタツの中で冷たいコーラを煽った。


 商談成立だ。

 小杉の裏金が、俺の口座へと移動する確定フラグが立った。

 あとは、ショータイムを始めるだけだ。


 数時間後。

 Bランクダンジョン『大地の腸』。

 その深部にある一本道の坑道を、巨大な肉壁が塞いでいた。


 Bランク変異種『アダマンタイト・ワーム』。

 全長20メートルを超える巨大ミミズだが、その皮膚は希少金属アダマンタイトを含んだ鉱石で覆われている。

 生半可な物理攻撃は弾き返し、魔法も鱗の表面で拡散させてしまう、難攻不落の生きた要塞だ。


「……来たわね」


 現場に到着した高橋が、目の前の怪物を見上げる。

 彼女は、協会からの正式な依頼書を端末で確認し、小さく息を吐いた。


「1億円の仕事よ。きっちり終わらせるわ」

『安心しろ。あいつの裏金をごっそり削り取った上での仕事だ』


 インカムから俺の声が響く。


『さあ、始めようか。1億円分の解体ショーだ』

「燃やしますわ! ……と言いたいところですけれど、ここは狭すぎますわね」


 ロザリーが不満げに杖を下ろす。

 坑道は狭く、爆裂魔法を使えば崩落して生き埋めになるリスクがある。

 物理攻撃も、あの硬い皮膚には通じない。


「さて、どうしますかオーナー。詰んでませんか?」


 ソフィアがインカム越しに問いかけてくる。

 俺は埼玉のコタツで、送られてくる映像を見ながら指示を出した。


『外が硬いなら、中からやればいい』


 俺の指示はシンプルだ。

 以前、3億で購入したレオンのスキル【無限収納庫】。

 あれの使い道は、荷物運びだけじゃない。


『レオン、食われろ』

「御意!! 究極の密室、愛の体内へ!」


 レオンが歓喜の声を上げ、盾を捨ててワームに突進した。

 ワームが巨大な口を開ける。

 無数の牙が回転する地獄への入り口だ。


「ガアアアアッ!」


 ワームがレオンを丸呑みにする。

 ゴクリ、という音と共に、金髪の騎士が消えた。


「……大丈夫なの?」


 高橋が不安げに見守る。

 ワームの胃液は強力な酸だ。

 だが、レオンの耐久力なら数分は耐えられる。


『……今だ、レオン。解放しろ』


 ワームの腹の中で、俺の指示が飛ぶ。

 レオンが口を――いや、亜空間へのゲートを開いた。


「うおおおおッ! 私の腹の中にある、あの夏の思い出をくらえぇぇぇッ!」


 レオンが【無限収納庫】から解放したのは、前回の試験会場である孤島周辺で、遊び半分に収納しておいた「海水」だ。

 その量、およそ50トン。

 逃げ場のないワームの胃袋の中に、突如として高圧の海水が奔流となって出現した。


 風船に水を入れ続ければどうなるか。

 子供でも分かる理屈だ。


 ゴボッ……ゴボボボボッ!!


 ワームの巨体が、異常な形に膨れ上がる。

 硬すぎる皮膚が災いした。

 外には膨らめず、内圧だけが急激に高まっていく。


「ギ、ギギギ……ッ!?」


 ワームが苦悶の声を上げた直後。


 パンッ!!!


 乾いた破裂音と共に、ワームの腹が内側から裂けた。

 大量の海水と内臓、そして鉱石の破片が坑道にぶちまけられる。

 鉄砲水となって押し寄せる濁流。

 高橋たちは慌てて高台に避難した。


 水が引いた後には、ズタボロになったワームの死骸と――

 全身ドロドロになりながら、満足げに仁王立ちするレオンの姿があった。


「……温かかったです」

「近寄らないでください、汚い」


 ソフィアが冷たく言い放ちながら、洗浄魔法をかける。


『……回収しろ。その皮は高く売れる』


 俺の指示で、レオンがワームの死骸を収納していく。

 外側から傷つけていないため、鉱石素材としての価値は最高ランクだ。

 1億の報酬に加え、素材の売却益。

 コストは海水のみ。

 費用対効果は測定不能だ。


 翌日。

 クロノス社の物流は再開された。

 小杉は首の皮一枚で繋がったが、支払った1億の穴埋めに追われ、顔色は以前より悪くなっていた。


「……助かった。だが、あのファントムとかいうクラン……足元見やがって」


 小杉が憎々しげに呟くのを、1号は無表情で聞き流していた。

 その裏で、俺の口座残高は5億の大台に迫ろうとしていた。


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