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3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


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20/65

第20話 埼玉の城塞と、深夜の往診

 アバターを作成してから、2週間が過ぎた。

 俺は1号を会社に出勤させている間、他の3体をダンジョンに送り込み、徹底的な育成を行っていた。


 魔石を食わせる必要はない。

 こいつらは、ただひたすらに敵を倒し、実戦経験を積むだけで勝手に強くなる。

 俺が支払ったのは時間だけ。

 それだけで、俺の資産であるアバターは、驚くべき速度で最適化されていった。


 特に優先したのは、回復役のソフィアだ。

 彼女を過酷な連戦に投入し、何度も魔力枯渇ギリギリまで追い込むことで、回復スキルの熟練度を強制的に引き上げた。


 そして今夜。

 ついに、その成果が形になった。

 自宅のモニターに、システム通知がポップアップする。


《ソフィアがスキルを習得しました》

《習得スキル:【Bランク・聖域結界】》

《習得スキル:【Bランク・生命維持】》


「……よし」


 俺は小さく拳を握りしめた。

 待っていた。

 この二つさえあれば、現代医療の機械に頼らずとも、魔法的な加護で人間の生命活動を維持できる。


 俺は一度たりとも、忘れたことなどない。

 2億を稼いだことも、ブラックなギルドを作ったことも、すべては手段だ。

 目的はただ一つ。

 澪を取り戻すこと。


 俺はスマホを取り出し、現在の時刻を確認する。

 深夜2時。

 病院は寝静まっている時間だ。


 本来なら、俺自身が足を運び、彼女の手を握ってやりたい。

 だが、それは許されなかった。


『いいか3000万。お前が逃げないように、あの女への面会は制限させてもらう』


 先日、1号を通して小杉から通達があった。

 会社は澪を、俺を縛り付けるための人質として完全に管理下に置いている。

 もし俺が頻繁に見舞いに行けば、彼らは警戒を強め、最悪の場合、さらに遠くの施設へ移送されるかもしれない。


 だから、俺は行けない。

 だが、俺が行く必要はない。


 俺はテーブルの上にある、30センチほどの精巧なフィギュア――人形モードのソフィアを手に取った。


「……頼んだぞ」


 人形は無言だが、その奥には忠実なAIが待機している。

 俺は脳内に、かつて通った澪の病室の座標を思い描く。

 物理的な訪問履歴はある。配送条件は満たしている。

 人形サイズなら、MP消費は誤差レベルだ。


「【配送】」


 手の中から人形が消える。

 空間を飛び越え、座標の彼方へ。


……


 視界が切り替わる。

 モニターに映し出されたのは、薄暗い個室の床だ。

 そこに転がった人形へ、俺は脳内で命令を送る。


(展開しろ)


 人形が淡い光を放ち、膨張する。

 一瞬の後、ベッドサイドには白衣を纏った聖女、ソフィアが立っていた。

 彼女は音もなく澪の顔を覗き込み、かざした手から診断の光を放つ。

 スキャン開始。


 数秒後、脳内にソフィアの冷静な声が響いた。


『報告します。……状態は芳しくありません』

(どういうことだ)

『生命力の低下が見られます。この旧式な維持装置では、肉体の劣化を防ぎきれていません。魂を繋ぎ止める器としては、限界が近いです』


 俺は奥歯を噛み締めた。

 会社は月80万もの維持費を俺に請求しておきながら、実際には最低限の延命措置しかしていない。

 生かさず殺さず。

 ただ俺から金を搾り取るための、道具として扱っている。


『マスター、急ぎましょう。これ以上ここに置いておくのは、ROIが悪すぎます』


 彼女なりの、最大限の警告だ。

 つまり、死ぬと言っている。


『それと……』


 ソフィアが視線をドアの方へ向けた。

 モノクルの解析画面に、赤い反応が表示される。


『廊下にネズミがいます。魔力反応あり。……見張られていますね』


 やはりか。

 会社か、あるいはサードアイか。

 どちらにせよ、ここは病院ではない。

 ただの檻だ。


(……回収だ。戻れ)


 俺が念じると、ソフィアの身体が再び光に包まれ、収縮していく。

 カラン、と床に小さな人形が落ちる。


「【受取】」


 人形が病室から消え、俺の手元に戻る。

 俺は自宅のベッドで、天井を睨みつけた。


 猶予はない。

 すぐにでも奪還作戦を実行しなければならない。

 だが、連れ出した後、彼女をどこに匿う?

 このボロアパートでは、医療設備もなければ、追手から守る防壁もない。


 城がいる。

 誰も手出しできない、鉄壁の要塞が。


……


 翌日。

 俺は高橋を呼び出した。


「拠点が必要だ」


 開口一番、俺は告げた。


「条件は3つ。広さがあること。人目につかないこと。そして、即入居可能であることだ」


 高橋は呆れたようにため息をついたが、すぐにタブレットを取り出して検索を始めた。


「予算は?」

「いくらでも出せる。金ならある」


 この2週間で稼いだ額は、2億の支払いを差し引いても、既に数千万まで回復している。

 Bランクの乱獲と、Aランク素材の裏売買。

 今の俺に、金銭的なブレーキはない。


「……分かったわ。いくつか心当たりがある」


 彼女が案内したのは、都心から離れた埼玉県某所。

 かつて工業団地だったという、寂れたエリアだ。


「ここよ」


 彼女が指差したのは、赤茶けた5階建てのビルだった。

 元々は物流倉庫兼事務所だったらしい。

 外壁は薄汚れているが、鉄筋コンクリート造りの躯体は頑丈そうだ。

 周囲には廃工場が多く、夜になれば人の気配は完全になくなる。


「中古の自社ビル物件。土地付きで5000万。どう?」

「悪くない」


 俺はビルを見上げた。

 華やかさはない。

 だが、今の俺たちに必要なのは、見栄えのいいオフィスではない。

 誰にも邪魔されず、怪しい実験ができ、いざとなれば籠城できる頑強な箱だ。


「買った」

「は?」

「5000万だろ。今すぐ払う」


 俺はその場で神マケを操作し、高橋の口座に即金で送金した。

 高橋がスマホの通知を見て、目を剥く。


「あ、あなたねぇ……少しは内見とか、値引き交渉とか……」

「時間が惜しい。鍵は?」

「……持ってるわよ。不動産屋とは話をつけてあるから」


 彼女から鍵を受け取り、俺は錆びついたシャッターを開けた。

 カビと埃の匂い。

 だが、広さは十分だ。

 俺はがらんとした1階フロアを見渡した。


「ここを、株式会社ファントム・ロジスティクスの本社とする」


 俺は高橋に振り返り、次々と指示を飛ばした。


「余った予算は好きに使っていい。業者を入れて、最短で内装を仕上げろ」

「外装はそのままでいい。カモフラージュだ。だが、セキュリティと設備は最新鋭のものを入れろ」

「……本気なのね」

「ああ。ここに、俺たちの城を作る」


 俺は5階を見上げた。

 最上階。

 朝日が一番よく入る部屋。

 そこを、澪のための聖域にする。


 購入から三日後。

 埼玉の拠点、通称要塞の改装は、驚異的なスピードで完了した。

 金に糸目をつけず、高橋が手配した裏社会御用達の工務店を24時間体制で叩き込ませた結果だ。


 外見は赤茶けた廃ビルのままだが、内部は別世界だ。

 壁には対魔力コーティングが施され、窓は防弾ガラスと遮光シャッターで覆われている。

 電源は独立した魔力ジェネレーターを引き込み、外部からの遮断も完璧だ。


 1階、ガレージ。

 ここには搬入用の大型トラックも入れるスペースがある。

 警備員として、フルプレートアーマーを着込んだレオンを配置した。

 彼は直立不動で入り口を睨んでいる。

 この威圧感なら、地元の不良どころか、プロの空き巣でも回れ右して逃げ出すだろう。

 ここを通る者は、私が全て受け止めましょう、とでも言いたげな佇まいだ。


「準備完了です、マスター」


 5階、最上階の部屋。

 ナース服に身を包んだソフィアが、満足げに頷いた。

 そこは、俺の居住スペースの奥にある、南向きの一室だ。

 医療機器は一切ない。

 あるのは、部屋の中央に置かれた清潔なベッドと、床に描かれた複雑な魔法陣だけ。


「聖域結界の充填、完了しました。ここなら、外部からの干渉を完全に遮断し、彼女の生体時間を限りなく停止に近い状態で保存できます」


 ソフィアの説明に、俺は頷く。

 病院の無機質な機械よりも、このブラック産業医の魔法の方がよほど信用できる。


「よし。……迎えに行くぞ」


 作戦開始だ。


 深夜1時。

 都内の病院の裏口に、一台の黒塗りのワンボックスカーが滑り込んだ。

 救急車ではない。

 だが、車体には民間患者搬送サービスのロゴが入っている。

 もちろん、高橋が用意したダミー会社だ。


 運転席には、私服に着替えたレオン。

 助手席には、スーツ姿の高橋。

 そして後部座席には、俺とソフィアが乗っている。


「……手はず通りに」


 俺の合図で、高橋とソフィアが車を降りた。

 俺は車内で待機する。

 顔が割れている俺が出ていくわけにはいかない。


 今回の作戦は、強行突破ではない。

 書類上の転院だ。

 高橋が事前に病院のシステムに侵入し、澪の転院手続きをデータ上で完了させている。

 行き先は、地方にある長期療養型のサナトリウム。

 もちろん実在しない施設だが、書類上は完璧だ。

 担当医やナースステーションには、偽造された転院許可証が送られている。


 数分後。

 裏口からストレッチャーが運ばれてきた。

 押しているのはソフィアと、病院の看護師だ。


「では、確かにお預かりします」


 ソフィアがプロの看護師らしい所作で一礼する。

 病院側の看護師は、疑う様子もなく書類にサインをした。

 深夜の急な転院だが、書類が完璧なら現場は動く。

 それが組織というものの脆さだ。


 ストレッチャーが車に積み込まれる。

 そこに眠る、痩せ細った女性。

 月島澪。

 1年ぶりに、ガラス越しではない彼女を見た。


 肌は青白く、呼吸は浅い。

 だが、生きている。


「……出すぞ」


 俺が短く告げると、レオンが無言でアクセルを踏んだ。

 車が走り出す。

 バックミラーの中で、病院の灯りが遠ざかっていく。

 監視していたネズミたちは、気づいただろうか。

 気づいたとしても、もう遅い。

 彼女はもう、彼らの手の届かない場所にいる。


 1時間後。

 埼玉の要塞、5階の特別室。

 ベッドに横たえられた澪の身体から、点滴や呼吸器のチューブが外されていく。

 普通なら、その瞬間に生命維持が止まり、死に至る。

 だが、ソフィアが両手をかざすと、淡い金色の光が部屋全体を満たした。


 【聖域結界】


 空気が変わる。

 清浄で、濃密な魔力が満ちる。

 澪の顔色が、ほんのりと赤みを帯びたように見えた。

 呼吸が安定し、苦しげだった眉間の皺が消える。


「……リンク、接続しました」


 ソフィアが汗を拭いながら微笑んだ。


「彼女の生命力は、この部屋の結界と直結しました。私が魔力を供給し続ける限り、彼女が朽ちることはありません」

「……そうか」


 俺はベッドの脇に立ち、澪の手に触れた。

 温かい。

 機械に生かされていた時とは違う、生命の温もりだ。


(待たせたな、澪)


 俺は心の中で語りかける。


(ここは俺の城だ。誰にも邪魔はさせない。お前が目覚めるまで、俺が絶対に守り抜く)


 デレている暇はない。

 感傷に浸っている時間もない。

 彼女をここに置くということは、俺が稼ぎ続けなければならないということだ。

 維持費はかからないが、守るためのコストはかかる。

 そして何より、彼女を目覚めさせるための1000億が必要だ。


 翌朝。

 俺はいつものように自宅、5階のリビングで目を覚ました。

 隣の部屋には澪がいる。

 それだけで、世界の色が違って見えた。


 コーヒーを淹れ、スマホを確認する。

 会社からの通知が届いていた。

 給与明細。

 いや、借金残高の通知だ。

 俺は画面を見て、凍りついた。


《当月返済額:なし》

《福利厚生費、医療支援代行:800,000円》

《借金残高:33,800,000円》


「……は?」


 80万。

 医療支援代行費。

 澪の入院費として、会社が俺に請求し続けていた金だ。

 だが、澪はもう病院にはいない。

 転院手続きは完了し、病院への支払いは止まっているはずだ。

 高橋の工作で、昨日の時点で精算は終わっている。


 なのに、請求が来ている。


 俺はスマホを握りしめた。

 ミシミシと音が鳴る。


 そういうことか。

 会社は、実際に治療費がかかっているかどうかなんて、確認すらしていない。

 実験体の維持費という名目で、自動的に俺から80万を搾取するプログラムが動いているだけだ。

 俺が借金を返し終わらないように。

 永遠に奴隷として飼い殺すために。


「……いい度胸だ」


 怒りを通り越して、冷たい笑いが込み上げてきた。

 俺が必死に働いて返そうとしていた金は、架空の請求だったわけだ。

 病院にいようがいまいが、生きていようが死んでいようが、奴らは俺から毟り取るつもりだったのだ。


 俺の中に残っていた、会社に対する僅かな義理や遠慮が、音を立てて粉砕された。


「いいだろう、クロノス」


 俺は窓の外、遠く霞む都心の空を睨みつけた。


「その80万の代わりに、お前の会社から毎月8億抜いてやる」


 宣戦布告だ。

 もう容赦はしない。

 俺は小杉の小銭を盗むコソ泥ではない。

 会社という巨大な敵を、骨の髄までしゃぶり尽くす寄生獣になる。


 俺はアバターたちに命令を送った。

 1号、出社しろ。完璧な社畜を演じろ。

 レオン、ロザリー、ソフィア。準備をしろ。

 俺たちの本当の戦いは、ここからだ。

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