表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/65

第17話 2億の投資と、心なき理想の社員

 あの潜入ミッションから、2週間が過ぎた。

 俺の生活は、劇的に、そして静かに変貌していた。


 午前7時。

 安アパートの薄い布団の上で目を覚ます。

 以前のような、絶望的な倦怠感はない。

 俺は起き抜けのコーヒーを啜りながら、スマホを操作する。


 日課の業務だ。

 高橋からのメッセージが届いている。


『準備OK。いつもの場所へ』


 俺は意識を集中させる。

 脳内に浮かぶのは、会社の地下深く、B級ダンジョンの最奥にある隠し金庫の座標。

 2週間前、俺が自分の足で踏みしめ、マーキングした場所だ。

 コンテナの中には、100億円分のAランク素材、ドラゴンの欠片が眠っている。


 俺はその山から、一つだけをイメージして掴み取る。

 配送先は、高橋が指定した私書箱の中。


「【配送】」


 ヒュン、と風を切るような感覚。

 以前なら、この距離と質量を送れば、脳を金槌で殴られたような衝撃が走っていた。

 だが今は、デコピン程度の軽い負荷しか感じない。


 熟練度が上がっている。

 毎日欠かさずスキルを使い続け、脳の魔力回路が拡張された証拠だ。


 これで、今日の高橋との契約は完了だ。

 俺は彼女から運送料を取っていない。

 これは、俺たちが対等なパートナーであり続けるための共益費であり、彼女の口を封じ、太い換金ルートを使わせてもらうための必要経費だ。


 俺の本当の稼ぎは、ここからだ。

 俺は残ったコーヒーを飲み干し、左目にモノクルを装着する。

 スイッチを入れると、馴染んだ起動音と共に、ARウィンドウが視界を覆う。


 蜘蛛リストを展開。

 No.12、管理通路B2エリア。

 No.15、管理通路B3エリア。


 あの日、高橋の後ろをついて歩きながら、俺はただ怯えていたわけではない。

 通りがかったモンスターの出現地点や安全地帯に、こっそりと斥候蜘蛛を産み落としてきていた。


 画面の中に、獲物が映る。


《Bランク:シャドウ・ストーカー》


 以前は俺を死の淵まで追いつめた影の悪魔。

 だが今の俺には、ただの動く30万クレジットにしか見えない。

 捕捉。

 モノクルの照準補正が、実体のない影の核に吸い付く。

 以前は0.5秒かかっていたロックオンが、今は視線を向けた瞬間に完了する。

 タイムラグ、0.1秒未満。


 俺は工具箱から鉄杭を取り出し、無造作に放つ。


「【配送】」


 ズドンッ。

 画面の向こうで、影が霧散した。

 即死。

 鉄杭は正確に核を破壊し、魔石を傷つけることなく生命活動を停止させた。


 回収。

 間髪入れずに【受取】を発動する。


 ズシリとした質量の負荷が脳にかかる。

 以前なら膝をついていた重みだが、今は心地よい疲労感でしかない。

 手元に現れたのは、漆黒のBランク魔石。

 俺はそれを、高橋が指定した私書箱の座標へ転送する。


 小杉のルートではない。

 あんな安値で買い叩くうえに、キャパシティの低いゴミ箱に用はない。

 これはプロの相場で換金されるべき極上品だ。


 所要時間、3分。

 これで、俺の取り分は手数料を引いても20数万。

 日給換算で、会社の給料の何ヶ月分だろうか。


 だが、今日は調子がいい。

 脳のノイズが少ない。

 スキルのレベルが上がった感覚がある。

 俺は次々とチャンネルを切り替え、獲物を探す。


 2匹目。

 通路を徘徊するガーゴイル。

 空中を飛んでいるが、関係ない。

 未来位置予測のラインが見える。

 撃墜。


 3匹目。

 4匹目。


 以前なら、1日10回も使えば気絶していた。

 だが今は、20回、30回と重ねても、脳が焼き切れる気配がない。

 精神力の最大値が増えている。

 それだけじゃない。

 1回あたりの消費コストが、明らかに減っている。

 無駄な魔力漏れがなくなり、最適化されているのだ。


 これが、成長。

 俺というシステムが、金を稼ぐために鋭利に研ぎ澄まされていく感覚。

 時計を見る。

 出社時間まで、あと30分ある。

 まだいける。


 俺は狩りの手を休めず、淡々と、しかし猛烈な勢いで資産を積み上げていった。


 会社に行けば、俺はただのゴミスキル持ちの契約社員だ。

 小杉に怒鳴られ、倉庫の埃を吸い、時給数百円で命を削る。

 だが、その裏で。

 俺は時給数百万を叩き出す最強のハンターとして君臨している。


 この落差。

 この優越感。

 それが、俺の乾いた心を潤す唯一の栄養剤だった。


……


 19時30分。

 俺は泥のように疲れて帰宅した。


 今日の小杉は特に酷かった。

 俺がトイレに行く隙さえ与えず、膨大な伝票整理を押し付けてきた。

 罵倒のボキャブラリーだけは豊富な男だ。


 だが、俺の心は晴れやかだった。

 小杉が俺を拘束している間も、俺の脳内では計算機が回り続けていたからだ。

 帰宅と同時に、俺はネクタイを緩めるのも忘れてベッドに倒れ込んだ。


 スマホを取り出す。

 高橋からの通知が来ている。

 都内某所のコインロッカーの番号と、暗証番号だ。


「……回収だ」


 俺はコインロッカーの中を脳内に描く。

 以前、もちろん事前に座標を登録済みだ。

 現地に行く必要はない。


「【受取】」


 ズクン。

 ベッドの上に、分厚い茶封筒の束が出現した。

 帯封のついた万札の山。

 今日の成果、そしてここ数日の積み重ねだ。


 現実の重みが、俺の掌にある。

 だが、俺にとってこの紙切れは、ただの燃料に過ぎない。

 俺は神マケを起動し、クレジットチャージを選択する。

 札束の山に手をかざす。


「【配送】」


 札束が光の粒子となって消える。

 同時に、スマホの画面上の数字が跳ね上がった。


《チャージ完了》

《現在残高:200,240,000クレジット》


 到達した。

 2億。

 3300万の借金を返しても、まだ1億6000万以上が残る。

 一生遊んで暮らせる額ではないが、人生の主導権を取り戻すには十分な軍資金だ。


 俺は震える指で、ずっと狙っていたページを開いた。

 Sランクスキルガチャ。

 1回2億クレジット。


 俺が欲しいのは、ただ一つ。

 国家サードアイの監視から逃れるための、絶対的な隠れ蓑。

 完全隠蔽、あるいは認識阻害系のスキルだ。

 それが手に入れば、俺は怯えることなく、さらに大胆に稼ぐことができる。


《Sランク確定ガチャ》

《価格:200,000,000クレジット》

《説明:Sランクスキルが1つ確定で排出されます。中身はランダムです》


 購入ボタンが、光って見える。

 これを押せば、俺の全財産はほぼ消える。

 だが、迷いはなかった。


 金はまた稼げばいい。

 だが、このスキルがあれば、安全が買える。


「……頼むぞ」


 俺は息を止め、画面をタップした。

 画面が激しい光に包まれる。

 ファンファーレと共に、金色のカプセルが弾けた。


《おめでとうございます!》

《Sランク・スキルを獲得しました!》


 表示された文字を見て、俺は瞬きをした。


《Sランク・英雄の影法師シャドウ・キャスト


「……は?」


 隠蔽じゃない。

 聞いたこともないスキルだ。

 俺は慌てて詳細をタップする。


《説明:意思を持つ分身体を作成し、使役するスキル。作成された分身体はアイテムとして扱われます》


「……分身?」


 俺はベッドの上で呆然とした。

 ハズレか?

 2億も払って、ただの人形遊びスキルか?

 俺が欲しかったのは、身を隠す力だ。

 自分が増えてどうする。

 目立ってどうする。


 だが。

 説明文の最後の一行を読んだ瞬間、俺の思考が止まった。


『作成された分身体はアイテムとして扱われます』


 アイテム。

 非生物。

 つまり――俺の【ワールド・デリバリー】で、配送と受取ができる対象。


「……待てよ」


 脳内で、パズルのピースが組み合わさる音がした。

 分身を作れる。

 それはアイテム扱いだ。

 俺の命令で動く。

 意思を持つ。


 もし、自分そっくりの分身を作って、会社に行かせたら?

 俺は家で寝ていられる。

 もし、戦闘用の分身を作って、ダンジョンに送り込んだら?

 俺は傷つかずに素材を回収できる。

 もし、何かの罪を擦り付けるための、身代わりを作れたら?


「……これだ」


 俺の口元が、三日月形に歪んだ。

 隠蔽スキル以上の当たりだ。

 自分が透明になるんじゃない。

 自分という存在を、使い捨ての駒として量産できる。

 サードアイがどれだけ俺を監視しようと、捕まえるのはいつだって偽物だ。


 ズズズ……。

 空間が歪む。

 ベッドの横、何もない空間に、黒い亀裂が走る。

 そこからゆっくりと、黒塗りの重厚なアタッシュケースがせり出してきた。


 まるで、プロの殺し屋が道具を持ち運ぶような、機能美を感じさせるケースだ。

 俺はゴクリと唾を飲み込み、その冷たい金属のロックを外した。


 カチリ。

 蓋を開く。


「……なんだ、これ」


 中には、デッサン用のような、のっぺらぼうの人形が4体、綺麗に収まっていた。

 大きさは30センチほど。

 フィギュアサイズだ。


 顔もなく、性別もなく、ただの灰色の素体。

 だが、UIの表示が、その正体を示している。


《未設定の影法師:4体》

《キャラメイクを開始しますか? 完了後、自律稼働モードへ移行し、実体化サイズへ拡張されます》


「……なるほどな」


 俺は震える手で、その冷たい人形の一つをつまみ上げた。

 軽い。

 だが、この小さな人形の中に、俺の人生を変える革命的な機能が詰まっている。


 4体。

 つまり、俺の手足となって動く忠実な部下が4人。

 会社用の影武者。

 戦闘用の兵隊。

 荷運び用のポーター。

 全部、作れる。


「……始めようか」


 俺はUIに表示されたキャラメイク画面を見つめた。

 まずは、1体目。

 俺の理想を詰め込んだ、心なき最強の社員を作る時間が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ