アリサの独走
アリサが目を覚ますと、そこは様々な扉が浮かぶ場所でした。重厚な造りの扉や、まるで玩具の家につくような小さな扉など、一つ一つ違う扉は、数え切れないほどありました。
「まあ、こんなに扉があったら迷ってしまうわ」
アリサは扉を見上げながらふらふらと歩きます。落ちてきた穴のことなどもう忘れて、その扉達に夢中になってしまったようでした。
「本当に色々あるのね~ 目移りしてしまうわ」
キョロキョロとしながら歩いたアリサは、気がついた時には様々な鍵がぶら下がる扉の前に立っていました。
管理部屋の扉でしょうか?
どうやら、浮かんでいる扉の全ての鍵があるようです。
「まぁ、この鍵を選べばあの扉に入れるかしら?」
アリサはキラキラと輝くガラスの鍵やプラスチックで出来た鍵達を真剣な眼差しで見つめます。そして、ある鍵を手に取ると満足そうに微笑みました。
「これにしよう」
そうアリサが決めると、アリサは選んだ鍵の扉に移動していました。
その扉はどうやらアリサの理想に合っていたのか綺麗な笑みを浮かべると、目の前の扉にためらうことなく鍵を差し込みました。そして、扉を開けて中に入りました。
なんて順応力が高いのでしょう。恐れ知らずのアリサは、ある扉の中に消えていきました。
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ウサギの躯から人の体に変わったペティが目を覚ますと、そこは様々な扉が浮かぶ場所でした。
彼の主人のアリサが落ちた場所です。
「うわー あんなに重い扉が落ちてきたら僕はペッチャンコだろうな」
赤い瞳に少し怯えが乗ったとき、その瞳は驚きに見開かれました。
「あっ、あの扉ってご主人の家の扉と同じだ」
もし、あの扉をご主人が選んでいたらご主人は無事に家に帰ったことになります。
「どうやって、あの扉の前にいけるのだろう?」
この体でウサギの躯ほどジャンプ力に優れていたら、簡単にいけるとは思いますが、残念ながら上手く跳ぶことは出来ませんでした。
ウサギはしばらく悩んだ後、決意の滲んだ瞳を果てが見えない奥を見ました。
そして、走り出しました。この先にあの扉の前に行ける何かがあると、彼の動物の勘が告げていたからです。
「ご主人待っててね。すぐにあなたの元に帰るから」
健気なペットはご主人のことを想って走ります。こんなに主人想いのウサギは、何処を探してもこのペティしかいないでしょう。
しばらく行くとあの沢山の鍵がぶらさがる扉にたどり着きました。
「はぁ、やっとあった。これのどれかがあの扉の鍵なんだよね」
ペティは赤い瞳を一生懸命こらして鍵を見つめます。しかし、ウサギだった頃に扉を見たことはありますが、鍵を見たことがありませんでした。
「どうしよう。どの鍵なんだろう」
ペティはだんだん悲しくなってきました。こんなに長い間独りぼっちになったことがない彼は、孤独感に襲われていました。
何処に行くのも、寝るのもいつも主人のアリサと一緒でした。しかし、その主人はここにはいません。そして、ペティが正しい鍵を選ばなければもう一生会うことが出来ないかもしれないのです。
いつしかペティの赤い瞳からは、涙が溢れ出していました。ポロポロとこぼれ落ちる涙は止まることを忘れてしまったかのようにずっと流れます。
「ご主人さま~ ペティはここにいます」
涙に濡れた声は空気に解けてしまい、アリサには届きません。
あまりにも辛くてペティは俯きました。
俯いたペティの目線の先に他の鍵とは違い木の板のようなメモが着いている鍵が、3つぶら下がっていました。その3つの鍵は見分けがつかないぐらいよく似ていました。
ペティはさっきまで涙を流していたことを忘れてその3つの鍵を手に取りました。
1つ目の鍵には『迷子のあなたの為の鍵』と書いてありました。
2つ目の鍵には『誰かを探しているあなたの鍵』と書いてありました。
3つ目の鍵には『迷子で誰かを探しているあなたの鍵』と書いてありました。
3つの鍵はペティに希望を与えるようにキラキラと輝いています。
「僕が必要な鍵は……」
1つだけ鍵を選んだ後、ペティは残り2つの鍵を元の場所に戻しました。
ペティは選んだ鍵を胸の前で握り締めました。この鍵があれば独りでも大丈夫な気がしたからです。気がつけばその赤い目から流れる涙は乾いていました。
「待っててね。ご主人。僕はきっとあなたの元に行くから」
ペティは目の前の扉をじっと見ると、ゆっくりと扉の鍵を開けました。
さて、二人は無事に会うことが出来るのでしょうか?
ウサギの健気な旅はまだ始まったばかり、これからどんな試練がこの可愛らしいウサギに降りかかるのでしょう。




