2026/10/07 三木幹男は最後の鼻子玉を抜かれる。
手術から約1週間。
今日はめでたく鼻の中の何かを取れる日なのである。やったー。
この鼻の中の何かは、機嫌がいい時は鼻通路を少し開通させるのだが、機嫌が悪い時は一切の空気の通行を許さなかった。
その匙加減は今となってもわからない。最後まで分かりあえることはなかった。
ただ、寝る時には決まって完全封鎖を決め込むことが多かったので、口呼吸で眠ることが出来ない俺は大いに睡眠不足を被ることとなっていた。
今日この日をどんなに待ったことか!コヤツとお別れ出来るのを指折り待っていた。
病院の待合室でわくわくと待って、先生の前にうきうきと座った。
さぁ早くとってくれ。
しかし、そう簡単にはお別れ出来ない。
先に苦い麻酔をシュッシュッされた挙句に、麻酔ガーゼをこれでもかと鼻穴に詰め込まれることになった。
く…苦しい…逆に鼻の中の何かが増えた……
ここで発見なのだが、鼻に容量以上の何かを詰めて圧迫すると、涙がとめどなく流れるのは勿論のこと、上の歯が浮いた感じとなり上顎が痺れるみたいな痛さがでる。
手術初日の上顎の痛さもこの圧迫によるものだったのだなと無駄な答え合わせをしつつ、麻酔がきくまで10分間耐えた。
さ……さぁ、早くとってくれ……
はじめの目を輝かせていた俺とはうってかわり、たった10分でHPを半分以上減らした俺は先生の前に再び座った。
ずりゅん、ずりゅん。
また、あの尻子玉ならぬ鼻子玉が抜かれるような感覚である。痛いのと苦しいのと、凄く大きい何かが、粘液とともにずりゅりと出ていく感覚。
先生が凄くうまいから一瞬なのだが、涙がポロポロと出た。別に涙を出したいわけではなく、反射で出る。
「魂が抜けたみたいになったねぇ、大丈夫?」
尻子玉ならぬ鼻子玉が抜かれたので、魂が抜けたという表現は言い当て妙だなぁとぼんやり思いつつ、俺は涙目で頷いた。
「ほら、吸ってみて。凄く通るでしょ。」
凄く通る、本当に感動レベルで通るのだが、HPが削られすぎて、あんまり感動に浸れない…ごめん、先生…
こうして俺の鼻穴はめでたく開通したのであった。
折角開通したのだから、何か食べたい。鼻が詰まってて味をいまいち楽しめなかった俺にご褒美をあげたい。
1時間程座ったり、ちょっと歩いたりしながらHPの回復を待ち、俺は一風堂のラーメンを食べに向かった。
久々の一風堂だ!
でも、高菜やもやしが置いてなかった。一風堂と言えば、無料で食べれる高菜やもやしがいてこそである。
あれ……昨今の物価高で追いやられたのだろうか。
周りを見ると、ぽつぽつと高菜やもやしを得ている人がいるが、ほぼの人が得ていない。
有料になったのかな、それとも何かに付随するようになったのだろうか…とメニュー表をよく見るがご案内が無いので真相が分からない。
むかし無料だった高菜は…と店員さんに聞くのも、なんだか意地汚い気もするし、結局聞けずに俺は諦めたー……
「何かお探しですか?」
おっさんの店員さんが俺に話しかけてきた。
「あ、いえ……」
あーー、俺のバカ。一大チャンスを無駄にして、根性無し。
「もしかしてこれですかね。いつでもお申し付け下さい。」
目をやるとポップがあった。
[下記ご希望の際はスタッフへお声がけください 〜高菜、辛もやし、紅生姜、にんにく〜]
「はい、これ、です。高菜を……」
「承知しました。」
神風のように俺の元にすぐやってきた高菜。
ぅおっさんっっ……!!ありがとう。えぇ……優しすぎないか。
おっさんの俺になんかに優しくしてもしょうがないのに、しかも、ちょっときょろきょろした俺の異常を気にして声をかけてくれるなんて、なんて優しいのだろう。
サービスが神すぎる。店員さんは神様だ。
鼻子玉抜かれたばかりで弱っているから、尚更人の優しさが身に染みる。
ラーメンが届く。
鼻に届く匂いは微かににんにくを捉えるだけで、まだ鼻が全快していないことを俺に教えてくれた。
でも、今日はあの店員さんの優しさだけで、満足度100%でお腹いっぱいだ。
ありがとう。おっさん店員さんに幸あれー……




