2026/10/08 三木幹男は金木犀の香りをつかみたい。
俺、三木幹男の嗅覚は今現在ほぼ機能していない。
1ヶ月程かけて徐々に回復していくとのことだ。
幸い味覚は問題がないので、食事は最低限楽しめそうだが、細かい風味は拾えていないと思われるのでそれは少し…いや、かなり残念だ。
落ち着いた空気が鼻の奥に一直線に入ってきて、すーすーと通り抜けていく。
やがて、もっと冷えて乾燥し、ツンとした空気になるのであろうという気配をひっそりとはらみつつ、まだ優しさが残っている。
日はさっきまで頭の上にあったかと思ったのに、すでにこてんと傾いていた。
閉園間近の京都府立植物園にするりと入り込むと、横からの眩く光る夕陽に照らされた木々が、もうすぐ今日が終わることを知らせていた。
こんなにも明るく、眩い夕陽なのに、ひんやりした空気の中をほんのりとしか暖めていないなんて、秋の太陽は柔らかい。
遅咲きの向日葵が、夕陽を背にして並んでこちらに顔を向けていた。
夏には溢れんばかりの生命力ではっきりと圧倒的な主張をしていたのに、今日の向日葵は夕陽の逆光に朧げで、ひらひらと風に吹かれている。
一緒に仲良くゆっくり雑談しながら鴨川を散歩出来そうなタイプの向日葵だ。
蓮の花は上品に慎ましく花を開き、水面には夕陽に映える緑の木々が反射していた。
少しオレンジ色の蓮の池をゆっくり眺めて、モネを思う。
モネの睡蓮は青みがっかっている印象が強いけれど、オレンジ色の睡蓮を描いている絵はあっただろうかー……
[ご来場のお客様へお知らせします。当園はあと10分で閉園となります。]
あまり見れてないけど、仕方ない。
てくてくと帰りながら、電車の中でふと思う。
金木犀を見ていない。
俺は金木犀が生えているあの道を通ったはずだ。
あぁ、匂いがわからないから。
そうだよな、金木犀は目で見つけるのではなく、匂いに導かれてその愛らしい姿を見つけることが多いから。
嗅覚が失われていることを、やはりちょっと恨めしく思う。致し方ないのだけれどー……
餃子の王将で夕飯をテイクアウトする。
金木犀が咲いている間に嗅覚が戻って、あの香りを今年も楽しめたらいいなー……
いや……なんか、すげぇなにか匂う、くさいんだけど。
うっわ、ええ?これ?餃子の王将??多分餃子か??
まじで?そんな匂いすんの?
一風堂のラーメンのニンニクすらほのかにしか分からん俺の鼻にここまで匂い届けるって、何者だよお前。
551の新幹線テロ並みの威力だろ。凶悪がすぎる。
えぇ、こっわ……強ぇ………
餃子の王将、強ぇぇー……
餃子の王将はうまかった。
俺が金木犀の香りをひろえるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。




