2026/10/23 三木幹男は十三夜を待ちながら京都駅ビル芸術祭を楽しむ。
外からは不規則にごぅーと唸り声が聞こえていたし、窓の隙間はヒューヒュー定期的に鳴いていた。
だから、今日は良くないなって予感はあったんだ。
そう、今日は十三夜。
お月様を楽しむ日だ。
東本願寺の庭園である渉成園では、お月見の会が催される予定だった。
夜間の特別開園だ。
俺は京都駅で無事に仕事を早めに終わらせた。
ほーれ、俺の方は準備万端だ。
昨日のように仕事という名の檻に閉じ込められていない。
しかし少し頑張って早く終わらせ過ぎたとも言える。
京都駅前では
京都駅ビル芸術祭
が催されていた。丁度いい。
無料で駅に点在しているアートを見て周って楽しむ開かれたイベントだ。
メインビジュアルは招き猫なので、猫好きな俺は是非とも招かれなければならない。
空には雲が満遍なく張り付いている。青空ならぬ白空だ。
朧ろ月でも見に行きたいのだが、雲行きはいかに…
招き猫に招かれた俺は、お気に入りの猫を見つけた。
やる気のなさそうな招き猫だ。
そもそも招き猫なのか?位にはやる気はない。
メインビジュアルの方の招き猫は勢いよく手を掲げて招きまくってるので、奴を見習ったほうがよい。
中途半端に宙に浮かせたその手は
「ちょっとすみませんが…」
って言いながら、人に道聞く時ぐらいの動作をしている。
口もちょっと半開きだし、間抜けな顔だ。
しかし、身体だけは一丁前に金ピカである。
有難いのかそうじゃないのかよくわからん奴だ。
名前に目をやると「金色猫様立像」と書かれていた。
また猫の顔を見ると、眉毛は情けなさそうに垂れていた。
益々有難いのかそうじゃないのかよくわからん奴だ。こっちの眉毛も垂れそうになるじゃないか。
マップを頼りに、点在するアートを求めて、普段はあんまり行かないような場所まで駅ビルをくるくると周った。宝探しのようで面白い。
鳥獣戯画のランタンは今にも動き出しそうな立体感と躍動感だ。
手塚治虫ブースのユニコの特大フィギュアは、手塚治虫が描く可愛いだけじゃなくてちょっと色気のある雰囲気がよく出ている。
エトセトラ、エトセトラ……
通りがかる皆々様は、京都駅にそれぞれ移動の用事があるものだから、そこまで足を止めてくれない。
でも、止めてくれる人もいる。
これがいいんだよ、駅で開けた美術イベントをやる“かい”があるってもんだ。
きっと俺みたいにガッツリ周る人は多くはないかもだけど、ちょっと立ち寄って「いいな、かわいいな、素敵だな。」と感じてもらうことこそが大事なのだから。
ほら、メインビジュの招き猫だって、キラキラに輝きながら目一杯元気に招いているわけだしさ。
……俺のお気に入りの猫はやる気ねぇけど。
空を見る。
益々分厚い布団を被っている。
太陽すら捜索不可能なのに、いわんやお月様をや、やろう。
んー、やっぱり良くなかったな。
でもま、いい芸術との出会いがあったわけなのだから、今日はそれで良しとしよう。




