2026/10/19 三木幹男とシュレディンガーのカメムシ。
俺は帰宅して久々に食べたくなったグラノーラなり、牛乳なり、サラダなり、柿なりを冷蔵庫にいそいそと入れていた。
「ブゥゥゥーーン」
んえ?冷蔵庫お前喋った?開けっぱにして不服やったか?冷気を出すの頑張る系の音け?
暫く経って、俺は椅子に座ってスマホをポチポチいじっていた。
「ブゥゥゥーーン」
え、めっちゃ虫の音みたい。
さっきと同じ音やん。冷蔵庫を見る、が、特に何かを頑張ってる様子もなく大人しそうにしている。
やめてくれないか。
そうすると、虫の音みたい、じゃなくて、虫の音である可能性が猛烈に高くなってきたじゃないか。
冷蔵庫、お前の鳴き声であってくれよ。
俺は立ち上がって、部屋全体を見渡してみた。
やめてほしい。
俺は10何年もゴキとの格闘経験がないから、家にゴキジェットとかもないし、戦闘力ゼロの丸腰なんやから。
ここでいきなり、あんなくそでか羽音がする虫と対戦なんて、俺が負けるやん。経験値不足で。せめて道具持たせろ。
んあーーーーーー!!!!!
居た。
居るなよ。
ゴキじゃねぇけど、グレーで、普通カメムシの3倍くらいでかいラスボスみたいなやつ!!が!天井に張り付いてる!!
絶対フォルムがカメムシ!!
でも、でけーーー!!!
……まぁ、ゴキみたいにS全振り(※素早さにステータス全振りすること。)してる奴じゃないから、捕獲は出来る……かもしれない。できないかもしれないけど……
あれだけデカいと、潰して殺すのはむりぃぃぃ。
そりゃ都合よくここに虫網があれば捕獲はできんこともないんやろうけど、俺も30過ぎてるし、うちに虫とり少年がいるわけでもないから、ないわけで。
んなもんあったら、ゴキジェット的な何かがあるわ。
網の代わり、代わり………
ラスボスカメムシに注意を払いつつ、その辺を見渡すとアマゾンの空箱があった。
俺がお口クチュクチュモンダミン買ったやつぅ!!
サイズも丁度デカい網位はある。
問題は……柄がないことだ。
大問題とも言える。
ここで俺は1ヶ月前位に遭遇したカメムシのことを思い出した。
(「2026/9/16 三木幹男は、マスカットの群集の中でカメムシと出会う。」のカメムシ)
あの日、俺は
「カメムシは、あの臭さに反して、高級フルーツ贅沢三昧ドリンクバーを決め込んでいる」
という明日使えるかどうかも知らないトリビアを得たのだ。
トリービアーー(懐かし…)
明日は使えんかったが、今日使えるかもしれへんやんけ。
丁度俺は柿を買ってきていたので、柿の皮を少し剥き、アイラップを段ボールに敷いて、その上にちょんと柿の皮を置いた。
移動式の少し高いテーブルをラスボスカメムシがいる天井の下ら辺に置き、その上に段ボールを置いた。
俺の作戦はこうだ。
①柿に誘われたラスボスカメムシが段ボールに入る
↓
②俺が渾身の勇気を絞り、その瞬間に段ボールを閉める!!
……暫く観察したが、ラスボスカメムシは下の柿に気付かない様子だった。
気付けよ。
今こそその意地汚い根性を見せる時やろがい。
こうなると、仕方がない。
俺がなけなしの勇気を更に振り絞るしかない。
はぁーーーーー。
机を撤去し、椅子を配置し、柿の皮入りの段ボールを手に持った。
椅子の上に乗る。
そして、蓋が開いた状態の段ボールを勢いよくラスボスカメムシのいる天井に押しつけた!!!
しゃっ!!!
ラスボスカメムシはスピード力がないが故に、段ボールの開け口に閉じ込められた。
これで柿がわかるやろがい。
柿につられて段ボールの中に入れや。
ー……ここで問題が発生する。
まず一に、天井から段ボールの中に入ったか分からない。見えないから。
二に、蓋どうやんの?今は天井に押し付けてるからいいものの、蓋をして、外に持っていって逃すまでがゴールじゃないか。
こうなると完全に、シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーのカメムシである。
やつは、無事に段ボールの中に入っているのか、もしくはまだ天井にへばりついているのかー……
その違いが俺の運命を左右する。
天井に段ボールを押し付けている腕がプルプルしてくる。
「段ボールに入ったやんな!?そうやんな!?信じるで!?まじで!!」
最後の足掻きとして、段ボールを天井に押し付けたまま、ぐるぐると円を描いて動かし、さっと天井から離して
シュババババッッッ!!
と段ボールの蓋を閉めた。
天井にはラスボスカメムシはいない。
俺の視界にはラスボスカメムシが逃げていった影は見えなかった…気がする……!
即座に玄関からぽいっと段ボールを投げた。
蓋がかぱっと開いた。
そこからカメムシが飛んでいけば、俺のミッションは大成功だったと言える。
あーーー、カメムシ出てこない。
なんでや。
柿か?柿への食い意地?
お前が出て行くのを確認しないと、その段ボール回収しにいけないし、何よりまだ部屋にラスボスカメムシがいる可能性が微レ存してしまうやんけ。
そぉ〜っと腕を伸ばしてスマホのカメラで撮影する。
と、アイラップも柿の皮もいてるのに、ラスボスカメムシがいない!少なくともカメラの画角の中に。
俺のミッションは失敗したんやろか。やめてほしい。部屋でラスボスカメムシと共生とか俺にはできない。
めっちゃ腕を伸ばして傘で段ボールをひっくり返し、トントンと叩いた。
そうすると、アイラップからこぼれたのであろう柿の皮にしがみついたラスボスカメムシが転がりだしてきた!!
あーーー!!!トリービアーーー!!
トリビア‥‥それは人生には全く役に立たない、無駄な知識……じゃなくて、超有用な知識だったよ!
今日今まさに使えました、大成功です!!
さっさとアイラップと段ボールを回収し、俺は扉をだんと閉めた。
お前が抱えていた柿の皮はくれてやんよ。
ー……こうして、俺はシュレディンガーのカメムシとの賭けに勝ち、無事に平穏を手に入れたのであったー。




