2026/10/13 三木幹男はビールが飲めない。
この三連休には、「ベルギービールウィークエンド2026 京都」というとても魅力的なイベントがあった。
チェコフェスティバルのように、食べ物とイベントを楽しめるのならば是非とも参戦したいと思ったが、いざ検索したら、入場の段階で飲食用コインとビールグラスがセットになったチケット制であった。
ふっ…ビール飲めねぇ奴はハナからお呼びじゃねぇってか……
俺は大人しくタブを引っ込めた。
ーーそう、あれは10年ほど前の、ある秋の日のことだった。
季節は今より少し進んで、夜になると冬の気配が忍び寄りぶるっと身震いをするような、そんな寒さがせまる頃である。
あの日、俺とビールは運命の出会いを果たしたのだった。
当時の俺はまだぴちぴちで、如何にも新人らしいパリッとしたスーツに着られているような新米社会人だった。
うっかり専門的な研修に紛れ込んでしまった俺は、年上のお姉さんやお兄さんに揉まれながら、割と期間長めの研修を受ける羽目になっていた。
当該研修は、ただ座って時間が過ぎるのを待てばよいような悠長なものではなく、模擬問に対して事前に自力で起案したものを持ち寄ってグループで進めていくタイプのものだった。
しかも、ほぼ毎日朝から晩までみっちりコマがあり、いつ起案やれっちゅうんじゃというハードスケジュールだ。
AIもない時代。起案なんか数時間はかかる。
俺は、この研修を監修したまだ見ぬ黒幕に「自分でやってみろよ」と何度呪いをかけたか分からない。
そんな中でも、お兄さんお姉さん方は研修が終わるやいなや、呑みに夜の街へ消えていく。
「三木くんもおいでよ!」
「一緒にいこうやぁ〜」
え、ムリくない?もう20時とかなんですけど。
いつ寝るの?起案は??
「体力的に自信ありません、ごめんなさい!」と丁寧に毎度お断りをしたところ、誘われなくはなったが、皆決して俺をハブったりすることはなく優しく接し続けてくれた。
呑みニケーションが見直され始めた、平成末期のことである。
そして翌朝、お兄さんお姉さん方はきちんと起案を揃え平然と出席されるのだ。
驚きである。
それにしても、俺が知らないだけで、彼らの時間は24時間以上の手持ちがあるのだろうか。
呑みニケーションで揉まれた結果、超進化でも遂げた人類なのであろうか。
俺がムリなのは、ゆとり教育どまんなか世代だから?
謎が謎を呼ぶお兄さんお姉さん方の生態が1ミニも掴めないまま、俺はせっせと研修に参加し続けた。
そして、運命の日。
全員参加の懇親会である。
こればかりは流石の俺も参加することとなった。
「あー、やっと三木くんとも喋れるねー!」
「こっち来いやぁ」
「とりあえずビール」はまだ若干残っていた時代。
だが、和やかなお兄さんお姉さん方に甘え、俺はウーロン茶をお願いすることにした。
俺は酒で眠くなるタチだから、眠くなる訳にはいかない。
立食パーティー式で、使い捨てのプラカップにウーロン茶なりビールなりがドボドボと注がれていった。
「かんぱーいっ!」
雑談は弾み、俺もにこにこと話に参加する。
各々適当に取ってきた料理を机に並べてシェアし、つまみながら飲みながらわいわいと話をした。
「ははは!そうですよね〜!」
ご機嫌に笑いながら手元にあったコップをひょいと取り、グッと口に含んだ。
「ー…………っ!?!?!?」
絶句である。
フグのように頬を膨らませ、慌てて口を手で抑え、わたわたし始める俺。釣り上げられたフグより動作がうるさい。
周りの全員、一体何事かと注目した。
「あ!これビールやん!」
「えぇ!?大丈夫!?」
「トイレいく!?」
涙目で、ごくっ…と口の中の何かを呑み込む。
「だ…大丈夫です……(瀕死)」
ー…これが、俺とビールとの記念すべきはじめての出会いであり、今のところ人生最後の邂逅である。
ウーロン茶と思って飲んだビールの衝撃はかなりのもので、ビールの味は全く覚えていない。得体のしれない苦いものだ。
「麺つゆを麦茶と間違えて飲む」というテンプレの大事故の亜種がこのように存在するとは思わなかった。テンプレ経験済みの方はこの衝撃が幾ばくのものか分かって頂けるであろう。
ビールに罪は無い。それは分かっている。
が、出会いが最低最悪だ。
あの日あの時、俺の目の前で何故かウーロン茶とビールが入れ替わっていた、運命の悪戯が全て悪いのだ。
だから俺は、ビールが飲めない。




