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ぶった切ってやる!

 スマホのアラームが鳴った。起きなくちゃ。今日は…そうか、イメージ動画の打ち合わせと撮影か…。私は着替えると、テレビを見ながら出社の準備をした。テレビは、ハルがアンテナの機能を用意してくれて、見ることができた。面倒くさいから、ハルに六本木まで転送してもらおう。朝食は、六本木一丁目駅近くのコンビニで買おう。

 私は六本木一丁目駅の裏に現れ、コンビニでアイスティーとサンドイッチを買った。打ち合わせまで、三十分ある。私は事務所のあるビルに入り、六階に上がった。事務所の中に入る。もう、午前十時だ。

「こんにちは。」

 事務員は、ちょっと変な顔をした。

「佐々木さん…でしたよね。この業界ではどんな時刻でも、”おはようございます”と挨拶するのが慣例となってます。」

「そうですか。済みません。」

「いえいえ。お気を付けください。」

「はい。」

 私は、受付の横のロビーで朝食を食べた。その時、昨日帰る時にすれちがった女性がやってきた。

「おはようございまーす。」

「おはようございます。由愛ちゃん。」

「あれ?新人?」

 彼女は私を見た。

「あ、昨日からこちらで働かせてもらってます。佐々木麗奈と申します。」

 やっとこの名前にも慣れた。

「私、坂崎由愛。よろしく。」

 私は頭を下げた。やはり、先輩らしい。

「いくつ?」

「二十歳です。」

「そう。年上か…。私十九。」

「そうですか…。」

「あ!敬語、止めない?!せっかく知り合ったんだし。」

「え?はい。」

「だからぁ。」

「う、うん。」

「おーい!由愛!」

 奥の方から、男の声が聞こえた。

「あ、はい!じゃあ。」

「じゃあ。」

 私は時間を見た。私もそろそろ、打ち合わせの始まる時間。

「佐々木さん。」

 マネージャーの篠原さんの声が聞こえた。行かなきゃ。

 動画の打ち合わせが始まった。篠原さんがスタッフを紹介し、篠原さんは抜けて、スタッフと十分ぐらいの打ち合わせが行われた。要約すると、何でも視聴者が好きになってくれるような動画が良いそうな。うーん、ちょっとズルしちゃおうかな…。何しろ、ネットでバズれば良いんでしょ。それなら…。

 私たちは、社内にある簡単なスタジオに移動し、私は更衣室で用意された水着に着替え、撮影を始めた。私は、カメラが顔を映した時、瞳に意識を集中して、心の中で”私を好きになりなさい”と思った。三秒後、私はそっと目を逸らした。これで、どうなるのかしら?その後、何か、カメラマンさんが、私に嵌っちゃったみたいで延々とカメラで撮り続けるので、休憩を促して、カメラマンさんをカメラから引きはがして、私と直接目を合わして、私への気持ちを忘れるよう暗示をかけた。これは、もしかすると、編集スタッフにも術を解く必要性があるかも…。

 撮影は終わり、編集作業に移った。私はお願いして、編集作業を見せてもらった。案の定、私がカメラを見つめたシーンの後、編集スタッフの形相が変わった。私は、ゆっくりとそのスタッフの肩を叩いて注意を引き、術を解いた。編集内容の確認の時もそうだった。あー、しんど。やっぱり、能力なんて使うもんじゃないかな…。

 さて、チェックも終わって私の動画をネットの事務所の新人チャンネルにアップした。配信の設定を行ってもらって、配信開始。さあ、どうなるかな…。私とスタッフはお昼にした。

 お昼から帰ってきたら、再生数が上がり始めた。少しづつだが、上がっている。後は、急上昇するのを待つだけ??コメントも、ぽつりぽつりと付きだした。好感触!

 なんでもこの結果で、次の仕事を決めるらしい。明日には、決まると言っている。後は、SNSのアカウントの登録をした。自己紹介コメントの投稿をした。

 仕事が終わって、宇宙船に戻った。私にはやっておきたいことがある。それは、妹の美波に真実を教えること。せめて妹だけでも、私が今、ここで生きていることを伝えたい。私は自分のスマホにメッセージアプリのワイヤをインストールし、友達検索で妹の名前を入れた。あった!間違いない。私は妹のアカウントを友達登録して、会話を始めた。

”美波、元気?”

”済みません、どなたですか?”

”…真帆よ。信じられないかもしれないけど…”

”え!?”

”飛行機事故の時、ある宇宙船に助けてもらって…”

”本当に、どなたですか?”

”ねえ。お願いだから話を聞いて。身体はほぼ全部駄目になっちゃたんだけど、脳だけは大丈夫で、別の身体に移植してもらったの。”

”ちょっと、信じられないけど。”

”じゃあ、昔、十年ぐらい前だっけ。美波が大切にしてたモフリンのぬいぐるみ、私が汚しちゃって、美波、泣きべそをかいて”

”…”

”お姉ちゃん、嫌い!って、呟いて…”

”じゃあ、私の「推し」覚えてる?”

”アニメ「腰の子」の「MIYAちょ」でしょ。C小町のステージが見たくて、一緒に「アニスプ」行ったじゃない。”

”うーん、間違いなさそうね…。”

”で、今、身体、完全に変わっちゃって、仕方なく名前も変えて、生きてるの。ただ、せめて妹にだけでも、私が生きていることを知ってほしくて、連絡したの。”

”そう…。どうする?父さん、母さんに伝える?”

”それは…、美波に任せる。あなたが決めて。”

”…それで、今、何ていう名前でどこにいるの?

”名前は佐々木麗奈。今、宇宙船の中に仮住まいしてるわ。”

”そう…。”

”助かった後、大変だったんだから…。カードもないし、お金もない。身分を証明するものも何もなくて、困っちゃったわ。”

”うーん、それは凄い経験ね…。”

”うん”

”…”

”じゃあ、また、連絡する。”

 美波との会話は、それで終わった。良かった。判ってくれたみたい。


 翌日、アップしたビデオはそれなりにバズった様で、仕事はとんとん拍子に決まった。雑誌のグラビアが三本入った。私はSNSで動画を紹介する投稿をした。そんな感じで、グラドルの毎日が続いていった。

 入社から一週間後、初めて給料をもらって、晴れてアパートへの入居が決まり、今のところ、順風満帆だ!中古の全自動洗濯機と安い炊飯器、安い冷蔵庫、簡易ベッド、小さな机と椅子を買って、アパートへ引っ越した。そして、私の残っている荷物を送ってくれるよう、妹に頼んだ。

 その後、私は、テレビを見ながら夕食を食べていた。

”ストップ詐欺被害!私は騙されない。”

 ローカルニュースの一コーナーだ…。かわいい女性アナが喋ってる。

”実際の手口を見てみましょう。三十代の女性の方のスマホに自動音声で「この電話回線は二時間後に使えなくなります。」と言う電話がかかってきます。その女性がアナウンスに従って操作すると通信会社員を名乗る人が、「あなた名義の携帯電話が契約されて、多量の迷惑メールなどが発信されています。」と言ってきます。さらに「無関係であれば、警察に届け出を出してください。」と言ってきます。そして、警察らしき場所と電話を繋ぎ、刑事を名乗る男から「犯罪グループの持ち物から、あなた名義の通帳が見つかった。」と言い出し、男はビデオ通話に誘導し、警察手帳らしきものと逮捕状らしきものを見せ、「身の潔白を証明したければ、次の口座にお金を振り込んでください」と言ってきます。警察はビデオ通話で逮捕状を示すことは絶対にありません。電話でお金の話が出たら詐欺を疑ってください。”

 ふーん、詐欺か…。許せないけどね…。

 私は夕食を食べ終わった。もうすぐ、午後七時か…。そんな時、私のスマホが鳴った。何だろ?

「はい。佐々木です。」

「この電話回線は二時間後に使えなくなります。問題がある場合は番号の一を押してください。」

 え!何?それは困る!私はキーパットをタッチして、一のボタンをタップした。するとコール音が鳴って、誰かが出た。

「はい。こちらハードバンクカスタマーサポートの飯田です。どうしました?」

「あの…。何か、電話回線が使えなくなるとか、言われたんですけど…。」

「済みません。お名前と生年月日、お願いします。」

「佐々木麗奈、平成十八年二月五日。」

「今、調べます…。佐々木麗奈さんですね。あなたの名義でスマホがハードバンク熊本店にて契約されていて、そのスマホから大量の迷惑メールが送信されています。」

「え!?心当たり、無いですが…。」

「そうですか…。不正契約と言うことですね…、そうすると警察に被害届を出していただきたいのですが…。」

「はあ。」

「こちらで熊本県警の方にお繋ぎできますけど、どうします?」

「あ、お願いします。」

 保留音が鳴っている。

”真帆。”

 シャルファーレンスさんだ。

”え?”

”さっきから聞いてたけど、それ、詐欺よ。”

”ええ!?”

”さっきテレビで言ってた内容よ。この後、刑事に逮捕状を見せられるわ。”

”…許せない!”

「お待たせしました。熊本県警捜査二課の橋本です。」

「はい。」

「どう言うご用件でしょう。」

「…被害届を出せと言われたのですが…」

 私は仕方なく、さっきの効いた話を続けた。どうにかして、懲らしめてやりたい。良い手はないかしら。

「お名前をお聞かせ願えますか?」

「佐々木麗奈です。」

「今、調べます。あ、ちょっとお待ちください。逮捕状が出てますね…ある犯罪グループの所持品から、あなたの通帳が見つかりまして、そのグループのメンバーを取り調べた結果、あなたが資金洗浄に関係したという供述を得まして。」

「はあ。」

「今から、ビデオ通話で取り調べを行います。ワイヤはお使いですか?」

 ふーん、これはいいわ。懲らしめてやる。

「はい。」

「では、次のアカウントを友達登録してください。”橋本浩二”」

「”橋本浩二”ですね。」

 私は騙されているふりをした。

「そして、このアカウントを指定してビデオ通話をタップしてください。」

「はい。」

 私は指示通りにした。すると、背広にネクタイをした一応、それらしい男が映った。私はスマホのカメラを見つめ、男が画面を見るのを待った。そして、男が画面を見ると、瞳に意識を持ってきて、”私を好きになりなさい。”と強く念じた。まずはこっからかしら。

「あ、あの、とり、取り調べを…。」

 動揺してる。どうしてやろうかしら。

”きっと黒幕がいるわよ。”

 とシャルファーレンスさん。うーん、そっか…。なら、そこまで自首させたいわね…。

「取り調べをはじ、はじ、はじめます。」

 私は何も答えず、じっとスマホのカメラを見た。男の視線が画面に来たのを確認すると”私をとても欲しくなる”と念じた。

「あ、あなたは、次の容疑で…」

 男は生つばを飲み込んだ。私の映像に見とれている。次の一手ね…。

「あなたの住所、教えて欲しいの。名前もね。」

 私は甘く言ってみた。さあ、どうする?あ、迷ってるみたいね。なら、これでどう?

「教えてくれたら、私をあげる。」

 私は甘くそう言うと、スマホの画面と音声の録画を始めた。

「お、俺の住所は、PH3V+8C7, Unnamed Road,ポイペト、バンテアイミエンチェイ、カンボジア、な、名前は、橋下浩一」

「そう。あなたの上司もそこにいるの?」

 男は考え込んだ。うーん、もう一押し足りないか…。

「教えてくれたら、今から、会いに行ってあげる。」

「ほ、本当か?」

「ええ。本当よ。」

 ハルに頼んで、転送してもらおう。

「上司は…住んでるところは違うが、この近くにいる。」

「わかったわ。ねえ、今いる場所の地図を見せて。そうしたら、十分後にそこに行くわ。」

 男はラインで、地図を送ってきた。

 私は着替えてハルに宇宙船に転送してもらって、地図の場所に連れて行ってもらった。

「五分ぐらいで着きます。」

 宇宙船は静かに動き出した。

「静かね…本当に動いてるの?」

「我々は、簡単な慣性制御の技術を開発しまして、加速しても搭乗者は何も感じません。」

「へー。」

 良く判んないけど、凄い事なのかしら…。

「あ、ハル。私、今、佐々木麗奈って名乗っているから。」

「わかりました。記憶します。」

 そうだ、能力について、聞いとかないと。

”シャルファーレンス。能力って、他にどんなのがあるの?”

 私は宇宙船が目的地に着くまでの間、シャルファーレンスに聞いた。

”そうね…。まず、「イントゥ・プベティ」かしら。”

”いんとぅ…何?”

”イントゥ・プベティ。生命体の心理状態を人間の思春期の男の状態にする技よ。対人関係の経験も一時的に消し去るわ。一回で、複数の生命体に効くわ。”

”どんな生命体も?”

”そう。本能を持つことが最低条件ね。”

”へー、それから?”

”バーニング・ラブ。これは、さっきの技と組み合わせて使うことが多いかしら。下着以外の服が透明化する技よ。”

”え!?それって…意味、あるの?”

”相手の脳裏にその姿を焼きつけさせることによって、正常な思考をできなくさせるのよ。”

”うーん、何か、凄い発想の技…。二つの技は、どうやって出すの?”

”それぞれ、技の名前を囁けば、使えるわ。後、バーニング・ラブで透明化した服を元に戻すには、バーン・イントゥ・メモリーと囁くのよ。”

”そう。”

「着きました。」

 ハルが教えてくれた。

「じゃあ、この地図の場所近くに転送して。」


 私はカンボジア・ポイペトの地に降り立った。そして、地図に示された建物に向かった。建物の入り口で、男は待っていた。

「おまたせ…。」

「あ、ああ…。」

「他にも人がいるの?」

「あ、ああ…。」

 男は私の身体に触ってきた。私は、男の手をそっと取って、男に目を合わせ、こう念じた。”あなたは私の気品が強すぎて、手を出せなくなる。”そして、私は男に微笑んだ。

「じゃあ、あなたの上司や周りの人全部をここに集めなさい。私の写真を撮って、この人が会いたがっていると言うのです。」

 男はしぶしぶ奥に入っていった。暫くすると大勢の男たちが出てきた。みんな、不機嫌そうな顔をしている。不満を言っている奴もいる。

「これで全員?」

 男は頷いた。

「イントゥ・プベティ」

 私は囁いた。少しだけ、男たちの表情が変わった。

「バーニング・ラブ」

 私は囁いた。その瞬間、私の着ていた服が光を放ち、下着を除き消え去った。男たちの視線は私に釘付けになった。ある男たちは顔を真っ赤にしている。ある男たちは鼻血を垂らしている。ふーん、こういう事になるんだ。納得。二人ほど、こっちに向かってきた。力づくかしら?なら、こうね。私は男と目を合わせると、こう念じた。”あなたは私の気品が強すぎて、手を出せなくなる。”

 私は”バーン・イントゥ・メモリー”と囁いて元の姿に戻り、カンボジアの日本大使館に連絡を取った。そして、警察に通訳とともにここに来てもらうよう、頼んだ。警察が来るのは早かったが、通訳はいなかった。結局、私は警察署に重要参考人として同行させられた。

 警察署には通訳もいた。私は、通報者であると言い、警察からビザ等の提出をお願いされたが、能力で何とか切り抜けた。入国の理由を聞かれたが、観光としておいた。一時間ほど色々聞かれて、やっと解放された。ハルに宇宙船に転送してもらい、家に帰り着いたのは、午後十時半を回っていた。急いでシャワーを浴び、床に就いた。


 翌日、仕事から帰って、テレビを見ながら夕食を食べていると、次のようなトップニュースが流れた。

「今日午前六時ごろ、JR横須賀線鎌倉駅の近く、鶴岡八幡宮二の鳥居付近で、殺人事件がありました。被害者は東智一さん、六十二歳。死体は鋭利な刃物で八つ裂きにされており、散乱している状態で見つかりました。凶器は不明です。現在、目撃者を探していますが、早朝であるため、今のところ見つかっていない模様。」

 猟奇殺人か…。やだな…。

”真帆?ちょっといい?”

”シャルファーレンスさん。”

”私、実はある凶悪犯を追っかけてきたんだけど…。”

”凶悪犯?”

”そう。あなたの乗っていた飛行機にぶつかった隕石、あるでしょう。”

”あ、あの飛行機、隕石にぶつかったの?”

”そう。あの飛行機事故の原因は隕石なの。”

”ふーん。で?”

”その隕石には、凶悪犯が付着してたの。”

”付着…。で?”

”その凶悪犯は他の生命体に寄生して、寄生した生命体を凶悪に変えてしまうやつなんだけど…。”

”え!?じゃあ…。”

”私、隕石があのまま海に落ちれば、人間に寄生する可能性は低いと思ってたわ。でも、さっき聞いた事件の事を知ると、人間に寄生した可能性を否定できないわね…。”

”…どうしたらいいの?”

”そいつ、簡単に死なないのよ。寄生した生命体が死んでも、寄生先を変えて生き続けるの。だから、私の技でそいつの遺伝内容を変えてしまうしかないの。”

”そんなことできるの!”

”ええ。それなりに力を使うので、一日、三回ぐらいしか使えないけどね。”

”ふーん。じゃあ、そいつに寄生された人を見つけないと…。”

”ええ。多分、こういう殺人事件が繰り返されるわ。でも、問題はどうやって見つけるかよね…。”

”警察の情報が手に入らないかしら。能力を使って…。”

”その手は、確かにあるけど、どのぐらい掴んでいるかしら。そいつ、犯罪を犯すときは、人目を気にするわ。着ているものなんかも、普段とは変えてる可能性があるわね。でも、行ってみる?”

 私は翌日の朝早く、神奈川県警察本部に行って受付で能力を使って、捜査関係者を呼び出させ情報を聞いた。捜査上には、事件当日の朝早く鎌倉駅を利用した不審な男が二人あがり、一人は横須賀線を利用して久里浜駅下車、おそらく同じ男が久里浜線を利用して三浦海岸駅を下車。もう一人は、江ノ電を利用して藤沢駅下車。どうも、二人とも午前六時ごろに鶴岡八幡宮近くに行くことは可能らしい。ただ、鎌倉駅周辺に住む人間の可能性や車を使った可能性もあるので、完全には絞れていないとのこと。これじゃあ、まだ、駄目かな…。

 その後、私は仕事に行った。


 その翌日、珍しく朝のニュースを見ていると、また、猟奇殺人の報道があった。今度の場所は、京急久里浜駅近く、イオン久里浜店の裏。時刻は、午前五時半ごろ。うーん、何か、久里浜線を使った男が、臭いわね…。ある意味、当てずっぽだけど、行ってみた方が良いかも…。

”シャルファーレンスさん。”

”何?”

”その寄生体に寄生された人の特徴って、何かあるの?”

”そーねー。これは、報告を聞いただけだけど、何でもまるで感情を失ったように見えるって聞いたわ。ただ、見えるだけで実際には凶悪な感情を隠しているだけとも。”

”そう…。じゃあ、それを手掛かりに探してみる。”

 と言っても、どうしようか…。どうやったら、そういう人を探せるか…。そんな時、チャイムが鳴った。なんだろ?

「宅急便です。」

「はい。」

 あ、そうだ。妹に荷物、送ってくれって頼んだんだ。これで「侵略!タコ娘」が読める。

「印鑑お願いします。」

「はい。」

「ありがとうございました。」

 あ!宅急便の人なら、住人の顔とか見てるかも…。もしかしたら、手掛かりぐらい掴めるかも…。そう思った私は、スマホで三浦海岸駅周辺の宅配業者を調べた。ナデシコ運輸の営業所が二店、四崎小型運送店ってのが一店。後、郵便局が一つ。聞いてみれば、何か掴めるかも。今日の仕事は…午後からか。あと三時間…ハルに頼んで、転送してもらえば可能か…。

 私は三浦海岸駅近くの郵便局のそばに降り立った。聞き込み開始である。

「済みません。」

 私は、郵便の受付の人に聞いた。

「はい。」

「ちょっと済みません。配達員の方にお話を聞きたいんですが…。」

「はい?それは…ちょっと、対応できかねますが…。」

「そうですか…。」

 駄目か…。何か、手を考えないといけないな…。このままだと、他の宅配便会社でも断られるな…。能力を使わずを得ないかな…。私は熟考した。「私を刑事だと思い込ませる。」これしかないかな…。

「済みません。」

「はい。何でしょう。」

 私は受付の人の目をじっと見つめた。そして、次のように念じた。”私は刑事、今、警察手帳を確認した。”

「あ、済みません。」

 受付の人は詫びた。

「今、殺人事件の犯人を捜しています。最近になって無表情になった人がいないか、配達員に聞いてくれませんか。」

「無表情ですか…。少々お待ちください。今、主任と相談します。」

 受付の人は、別の人と交代して奥に行った。五分後、その人が戻ってきて言った。

「今から、配達員に連絡しますが、結果が集まるまで三十分ぐらいかかると思います。」

「判りました。三十分後にまた、来ます。」

 私は次の宅配業者へ向かった。

 結局、三十分かけて、私は三社の宅配業者を回った。どこも、三十分後ぐらいに結果を教えてくれるそうだ。私は郵便局に行った。

「あ、ご苦労様です。配達員に問い合わせましたが、そのような人はいないようです。」

「そうですか。御協力、ありがとうございます。」

 その後、二社回ったが、結果は同じだった。最後の一社で一人だけ、そういう人がいることが分かった。

「その人の住所と名前、分かります?」

 私は聞いた。

「え!?少々お待ちください。…判りました。住所は神奈川県三浦市南下浦町上宮田一三三四−一二−一一三浦海岸メゾン一号棟百三号室、名前は伊武義明。」

「御協力、ありがとうございます。」

 私はスマホで、住所を調べた。三浦海岸駅から近くだ。ここからだと、ちょっと遠いか…。時間は…後一時間半か…。転送してもらった方が無難かな…。

 私は教えてもらった住所のマンションの前で実体化した。

”ねえ、真帆”

”え!?”

”今から、あいつと出会うかもしれないんでしょ。”

”うん。”

”気を付けて。あいつ、特殊な武器を使うわ。”

”武器!?”

”そう。鎌のような…多分、人の骨ぐらい、簡単に切っちゃうわよ。”

”ええ!”

”しかも、動きも速いわ。だから、接近戦になったら勝ち目無いわよ。”

”うーん、それは困った。”

”できる限り、間合いを取ることね。一メートル五十センチぐらいは空けないと。そうじゃないと死ぬわよ。”

”わかった。気を付ける。”

”それと、倒すのは難しいわよ。私は、何度か失敗してる。このままほっとくと、犠牲者が増えるだけだからここに来たわけだけど、簡単じゃないわよ。それだけは心に留めといて。”

”うーん、判った。で、遺伝情報を書き換えるって、どうやってするの?”

”変えたい対象に一分間、キッスをするの。”

 うーん、何だかな…。下着姿になる技と言い、何か、変…。

 私は、呼び鈴を鳴らした。ドキドキする。中から男の声が聞こえた。玄関のドアが開いた。

「はい。何でしょう。」

 最初、出てきた男は無表情だった。しかし、何かに気付くと凶悪な表情になった。

”危ない!逃げて!”

 男の右手が突然、見えなくなた。すぐさま、私は後ろに大きく跳んだ。何か見えないものが私の頬をかすり、血が垂れてきた。

「良くここが分かったな。捜査官さんよお。」

 男の右手からは触手のようなものが三本伸び、三本とも先は鎌のようになっていた。あれが猛スピードで動き、私の頬をかすったのだ。

「せっかく、こんな好環境に住めたんだ。邪魔者はとっとと消えてもらわないと。」

 男はそう言うと、私に近づいてきた。私は急いで後ろに逃げた。物凄い速度で三本の触手が動く。庭木をざっぱざっぱと切り刻んでゆく。何とか、二メートルぐらい離れた状態を保ち、

「イントゥ・プベティ」と囁いた。

 男の表情は少しだけ変わったが、それでも攻撃してきた。何とか、触手の動きを止めないと駄目かもしれない。私は後ろにさがりながら、男の目を見つめた。しかし、男は目を合わせようとはしない。こいつ、私の手の内を知ってるな…。私は逃げ出した。何とか、奴の隙を突くしかない。私は道に出て道なりに走り、左手にあったゴミ置き場の壁の向こうに入り込んだ。そして草むらを通り過ぎて、急いでマンションの別の棟の入り口の壁に隠れて、奴の様子をうかがった。どうやら、触手以外の運動能力は私と変わらないらしい。

「どこに行った?早く出て来い!ぶった切ってやる。」

 奴は私を探しながら、歩いてくる。一か八か、奴の懐に入り込んでやる。そうすれば目を合わせるだろう。

 私は奴が入り口に近づいたぎりぎりの瞬間を見計らって、奴の目の前に飛び込んだ。奴と目が合った!私は急いで念じた。”あなたの右手の触手は動かせない。”

 触手は私の首の一ミリ前の所で止まっていた。危なかった。

「バーニング・ラブ」

 私はそう囁くと、着ていた洋服を消した。私は奴が私の全身が見えるように、触手を避けて、後ろにさがった。奴は私を顔を真っ赤にして見ている。

”気を付けて。奴は直前に精神を分離させた可能性があるわ。”

”え!?そんなこと、できるの?”

”今まで、何度かやられたわ。それで、逃げられたの。奴は別の寄生先を見つけに動くわよ。”

”そんな…”

 奴をよく見ると、右腕から黒い液体をし垂らせていた。

”ねえ!どうしたらいいの?”

”寄生していない状態で、奴を倒すのは難しいわね。遺伝情報を書き換える技は最低でも一分間、相手の動きを止める必要があるわ。奴の感覚器官は寄生先に依存する。もし、倒す可能性があるとしたら、精神を分離させる前に動きを止めるか、寄生動作途中で技をかけるしかないわ。どちらにしろ、難しいけどね。”

 奴の右腕から垂れている黒い液体は、何か地面を這うように流れ、マンションの一階の部屋に向かっていた。何とか止められないかしら。

 私は”バーン・イントゥ・メモリー”と囁いて元の姿に戻り、ヒールで踏んづけた。しかし、何ともないようで、やはり部屋に向かって動いている。火を点けたらどうなるんだろう。液体だから、燃えないかな…。マッチもライターもないし。やばい、このままじゃ、あの部屋に入っちゃう。ドアの隙間からどんどん入っていく。私はその部屋の呼び鈴を鳴らした。中から女の人の声が聞こえた。あ!まずい!こっち来ちゃダメ!ドアが開いた。

「キャー!」

 女の人の悲鳴が響いた。液体は女の人の身体をつたって、女の人の顔を目指しているようだった。私と女の人は必死でそれを剝がそうとした。服を脱いだり、水をかぶったりしたが、液体は女の人の身体や手を這い上がり、女の人の口と鼻まで到達した。

「イヤー!」

 女の人は叫び声をあげたが、その開いた口の中に液体は入っていった。

「あ、あぁ、あぁぁぁぁ」

 女の人は必死に液体を吐き出そうとした。しかし、どうやら喉の奥にまで入ったらしく、吐き出すことはできなかった。肩で息をする女の人。

「救急車、呼びましょうか。」

 私は言った。

「え、ええ。」

 私はスマホで緊急通知ボタンをタップして、119番をタップした。

「はい、こちら消防署です。火事ですか、救急車ですか?」

「救急車お願いします。」

「判りました。病人ですか?怪我人ですか?」

「あの…異物を飲み込んだ人がいるんですが…。」

「意識はありますか?」

「はい。」

「判りました。三分程お待ちください。すぐ向かいます。」

 私は通話を切った。

「三分で来るそうです。」

「そう…。」

 女の人は落ち着いたようだった。脱いだ白い半袖のブラウスを着始めた。救急車はほどなく来た。女の人は靴を履き、玄関の鍵を閉めて、救急車に乗った。私はそれに付き添って、救急車に乗った。ここで奴を見失うわけにはいかないわ。

「異物って、どんなものなんです?」

 救急隊員は女の人のバイタルをはかりながら、聞いた。

「黒い…液体のようなものです。それが、私の口に入って来て…。」

「は?!自然にですか?」

「はい。まるで生き物みたいに。」

「ちょっと、信じられませんが…。」

「でも、事実です。」

 救急隊員たちは黙った。救急車は病院に着いた。女の人と私は歩いて診察室に向かう。

「付き添いの方は、こちらでお待ちください。」

 私は嫌な予感がした。目を離した隙に何をするか、判らない気がする。

”シャルファーレンスさん。”

”はい。”

”奴って寄生するのにどれぐらい時間かかるの?”

”報告だと、体に吸収されてから、精神を操り始めるのが三十分後、武器が使えるのが一時間後みたいよ。”

 水分って、身体にどれぐらいで吸収されるんだろう?私はスマホで調べてみた。飲んでから約二十分。つまり、五十分経つと精神を操り始めると言う事。女の人の中に奴が入って、二十分ぐらい経過しただろうか。とすると、もう身体に吸収されている。検査と診察にどれぐらいかかるのかな…。

 私は待合室で三十分ぐらい待った。まだかな…そろそろまずい時刻だけど…。

「済みませーん!何処行きましたかー!池上さーん!池上美和子さーん!」

 看護婦が一人、人を探してる。どうしたんだろう。

「済みません。池上美和子さんの付き添いの方ですよね。美和子さんがMRI検査の後、行方が分からなくなってしまって…。」

「え!あ、はい。探しましょうか。」

 まずい!逃げるつもりだわ。

 私は病院の中を探し回った。しかし、あの女の人は見つからなかった。まさか、外に出たんじゃ…。院内放送で呼びかけられている。入院患者に寄生しても、簡単には自由になれない。だから、病棟の方には行ってないはず…。これは…外だ!

 私は病院を出て、外を探した。外にはバスを待っている人が三人ほどいた。

「済みません。白い半袖ブラウスを着て青いロングスカートをはいた女の人、見ませんでした?」

 二人は首をかしげた。

「あ!そういえばそういう女の人、さっき、病院から出てきて、何か、野良犬に餌やってたみたいだけど。」

 もう一人が、思い出したように言った。野良犬に餌…。判断、難しいわ…。

「その女の人、何処へ行きました?」

「餌をやった後、ボーっとした感じで向こうに歩いていきました。」

「ありがとうございます。」

 私は今の人が指示した方へ、走っていった。女の人はすぐに見つかった。

「私、何、してたんだろう。」

 女の人は呟いた。まずい!これは犬の方だ。私は急いでバス停の所に戻った。幸運にもまだ、教えてくれた人はそこにいた。

「済みません。餌を与えてた野良犬の特徴、何かあります?」

「犬の特徴?えーっと、柴犬だったかしら。身体は茶色だったと思う。」

「ありがとうございます。」

 教えてくれた人は、変なこと聞くわねっといった顔つきをした。私は急いで野良犬を探した。まだ、精神を操ってはいないはず。だから、遠くに行ってる可能性は少ない。多分、この近辺にいるはず。あ!見つけた。柴犬だ!首輪も付いてない!道の電信柱の所で、おしっこしてる。うーん、柴犬を誘惑しなければならないのか…。

「イントゥ・プベティ」

「バーニング・ラブ」

 私は囁いた。犬はこっちを見ている。私は犬に近づき、しゃがんた。

「ワンちゃん、御免。」

 私は犬の顔にキッスをした。私の唇が触れている間、犬の身体が虹色に輝いた。そして、私が唇を離すと、犬の身体は薔薇の様な花の山に変わっていた。

「はあ…、疲れた。」

 私はスマホで時間を見た。

「まずい!遅刻しちゃう!」

 私はハルに言って、転送してもらった。昼食抜きで仕事をせざるを得なくなったのは言うまでもない。

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