熱い!痛い!ギャー!
「お姉ちゃん!スマホ、スーマーホ!」
あれ?妹の声が聞こえる。私は地下鉄銀座線赤坂見附駅の入り口付近を見渡した。うーん、何処?美波。何処にいるの?
「美波!何処??」
「お姉ちゃん!こっち、こっち!」
駅入り口に沿ってある道にハザードランプを点灯して止まっているうちの車の助手席に妹はいた。どうも、お母さんが運転しているらしい。私はそこに走っていった。
「はい。忘れ物。スマホ!」
「え!?」
私はポケットの中を見た。確か、入れたはず…。このスマホケースの中に…あれ?入ってない…。いつ出したんだろ…。
「お姉ちゃん、大丈夫??この後、新橋駅で都営浅草線に乗り換えるのよ。」
「え?う、うん、大丈夫!乗り換え方判ってるから。」
妹はちょっと心配そうな顔をした。私は妹からスマホを貰って、別れを告げた。
私、近藤真帆。二十歳。立教大学の三年生。参議院議長近藤晴臣の娘です。黒い長い髪の長身の女性です。男子からは大きな瞳が神秘的だって言われます。人によっては美人だと言ってくれる人もいますが…どうなんでしょう。ただ、友人からはよく「ドジっ子」と呼ばれてます。そんなこと、ないと思うんですが…。
今日は八月七日。夏休み真っ盛り。私はマレーシアへの旅行を企画して、羽田空港に向かうところ。今、夜九時。成田空港を使おうとすると途中で二回、乗り換えるらしくて、やめた方がいいって、言われました。何でかな…。で、一回で済む羽田空港を使うことにした。まあ、初めての海外旅行、初めての一人旅、楽しまなくちゃ。
重たいキャリーケースをよっこいしょっと地下鉄に乗せた。新橋駅までどうも座れそう。新橋駅に着き、改札を出る。都営浅草線だっけ。矢印が出てるから、それに従って行けば、大丈夫。あれ?これは、どっちかしら?どっちにも都営浅草線とは書いてない…。真っ直ぐ?それとも、右折?うーん、判んない。取り合えず、右曲がってみるか。
一分ぐらい歩いてみる。まだ着かない。看板もない。これは、間違えたか?まあ、余裕持って出てきたから、これぐらいは問題ないけど。
私はさっき右折した場所に戻ってきて、左折した。あれ?銀座線の改札口の方に戻ってきちゃった。引き返さなきゃ。今度こそ。そう思って、直進した。矢印があった。左に曲がれ。ああ、右側に改札が見えてきた。急いで改札を通り、羽田空港方面のエスカレーターに乗った。そして、電車に乗った。車両内のテレビを見る。あれ?羽田空港に止まらない…。どうしよう。私は次の駅で降り、停車駅を確認した。すると、羽田空港行きでないと駄目なようだ。私は羽田空港行きの電車を待った。八分ほどすると羽田空港行きが来たので乗った。ふー。危ない、危ない。これじゃあ、ギリギリだ。羽田空港第三ターミナル駅で降りて、改札口を出、手荷物カウンターに向かう。オンラインチェックインは終わってるので、このまま行けばいいはず。手荷物カウンターでキャリーケースを預け、搭乗手続きに入った。まず、保安検査をしなくちゃ。座席に持っていく荷物はあまりないから、問題なかった。後は飛行機の搭乗口に行って、乗り込むと。
飛行機には問題なく乗り込めた。席は飛行機の一番前、窓際だった。ビジネスクラスなので、席に余裕はありすぎるぐらい。離陸は午後十一時半。はー、眠くなってきちゃった。寝よ。私は椅子を倒して、目を閉じた。
”ダァーン!”爆音で目が覚めた。何?何が起こったの?薄暗い機内が激しく揺れた。そして、炎がすごい勢いで迫ってきた。え!ちょ、ちょっと…。熱い!痛い!ギャー!私は気を失った。
え!?ここ何処?私、誰?私は目を開けた。何か、不思議な場所にいる。不思議なパネルのようなものが見える。外の様子も見えるみたいだけど…。飛行機の中…じゃなさそう。何か、朝焼けの雲みたいのものが見える。ベッドのような所に私、寝てるけど、ここ、本当に何処なのかしら?
「目が覚めましたか。」
え!?誰が喋ったの?私は、起き上がって周りを見回した。誰もいない。人影は見えない。
「どうです?調子は。」
「調子は…良いけど。何処にいるの?あなた、誰?」
「申し遅れました。私はこの宇宙船のメインコンピューター、ハルです。」
ハル?何か、どっかで聞いたような名前…。
「ここは、何処?」
「ここは宇宙船の中です。あなた方が、地球と呼ぶ星の大気圏内にいます。」
「飛行機は?飛行機はどうなったの??」
「あなたが乗っていた飛行機は、この宇宙船が追っていた小惑星に衝突して、大破しました。小惑星はボディとエンジンらしき部分に当たり、エンジンから出火、貴方の元の身体は大火傷を負い、私が助けた時は、死ぬ寸前でした。」
「死ぬ寸前!じゃあ、私、どうしたの?」
「残念なことに、あなたの身体は蘇生できませんでした。私は、あなたの身体から、脳だけ取り出し、急いで生命状態保全装置の中に入れ、保護しました。そして、あなたの身体の組織から生体インターフェイスを作り、この宇宙船唯一の乗務員、シャルファーレンスの身体にあなたの脳を移植しました。幸運なことに、あなた方の身体と、私の星の生命体の身体は、親和性が高く、生体インターフェイスは比較的簡単に開発できました。」
「え!ええ!!どう言う、どう言う話!?」
「あなたの身体は、もう死んでしまったのです。」
「今、私は生きているけど…。」
「その身体は、もう、あなたの身体ではないのです。ここに、鏡があります。ご自身の身体を見てください。」
機械の手のようなものが伸びてきて、鏡らしいものを私に見せた。鏡の中には私とは似ても似つかない、姿があった。金髪のセミロングヘア、整った顔立ち、青い瞳、長い手足、細くて長い指、ナイスバディ、やや白い肌。女性の私でもうっとりするほどの美女…。
「こ、これが、私!?信じられない…。」
「これが、今のあなたの姿です。声帯まわりだけは、移植可能だったので、移植しましたが。」
何ということでしょう。これから、一生、この姿で生きていく…。前の身体、結構気に入ってたんだけどな…。まあ、生きてられるだけめっけものかもしれないけど。
”どう?新しい身体は?”
何?頭に声が響いた!何か、耳で聞いた感じじゃない。
”気に入った?”
”あなた、誰?”
”私は、その身体の元の持ち主、シャルファーレンス。”
”持ち主!じゃあ、この身体、元々、あなたのもの?”
”そう。結構、気に入ってたのよ。”
”御免なさい。私のせいで…。”
”いいえ。良いのよ。あなたを助けるには、これしかなかったの。それはそうと、困ったことがあるの。”
”困ったこと?”
”そう。私は、宇宙で起きる犯罪を取り締まってたんだけど、それがこうなっちゃうとできないのよ。”
”宇宙の犯罪?なんか、アニメか小説の中の話だけど…。”
”あなた達には馴染みが無いでしょうね。でも、これからは判んないわよ。”
”え!何故!?”
”最近、この近くに私たちの宇宙と繋がる穴のようなものが出来てしまったの。私の乗ったこの宇宙船はそこを通って来たんだけど、今から、そこを通って犯罪者がやってくる確率は高いわね。”
”ふーん。じゃあ、私、どうしたらいいの?”
”その身体には、犯罪者を取り締まるため、特殊な能力が備わっているわ。それを使って、地球にやってきた犯罪者を取り締まってほしいの。”
”私にできるかしら…。”
”できる限り、私もサポートするわ。”
”わかった。やってみる。”
”ありがとう。”
”ところで…、身体失っちゃって、どうやって生きてるの?”
”ああ。私、脳だけになっちゃったけど、身体の機能の大部分は機械が行ってくれるわ。また、五感の情報は、あなたと繋がっていて、あなたが見てるもの、聞いてるものは、ほぼ同時に、見聞きできるわ。”
”へー、そうなの…。”
”私の新しい身体ができるまでは、この生活が続くことになるわ。よろしくね。”
”よろしくお願いします。”
私は外を見た。夜が完全に明けた。さて、日本に帰らなきゃ。残念だけど、マレーシア旅行は無しね。荷物も消えちゃったし、これからどうしよう?
「日本に帰れる?」
私はハル(?)に聞いた。
「可能ですが…。帰りますか?」
「お願いします。あ、後、服と靴、何とかなりません?これじゃあ、ちょっと、町が歩けない…。」
「判りました。何とかしましょう。」
宇宙船は動き始めた。東京湾が見えてくる。
「この宇宙船、大丈夫なの?自衛隊とか出てこない?」
「この宇宙船はレーダーには映りません。また、外側から見えることもありません。」
「そう…。」
「服と靴を用意しました。あなたの記憶から作り出したものですが、特殊な素材が使われています。それなりの強度があります。」
赤い半袖ワンピース、白いジャケットとズボン、青いインナーのシャツ、金色の…これはブラとパンティー?ちょっとセクシーだけど…。後、ミドルヒール。履けるかな…。
「洗濯は?」
「可能です。普通の服として洗濯してしまって問題ありません。」
「わかった。あと、袋、あるかしら?」
私はまず、下着らしきものを着て、その上にワンピースを着た。そして、残った服を貰った袋に入れた。
「日本に着きました。降りますか?」
「どこに降りれます?」
「こっから、半径百キロぐらいなら、転送できます。」
転送…。なるほど。さすが。凄い科学力だわ…。
「じゃあ、渋谷駅の近くで。」
「判りました。渋谷駅の近く、人目に付きづらいところに転送します。」
私は目の前の風景が光の線の様に変わるのを見た。そして、それが過ぎ去ると渋谷駅近くにいた。さて、先に腹ごしらえでもするかな…。私は近くのコンビニに入り、サンドイッチを一つ持ってレジに向かった。レジで払おうとした瞬間、カードを持ってないことに気が付いた。
「あ、済みません。」
私は謝って、商品を元に戻して、コンビニを出た。まずい、これでは何も食べれない…。何とかして、お金を貰わないと…。どうすれば良いんだろ???うーん、今まで、考えてこなかったな…。家にいたころは、カードさえあれば、なんでも買えちゃったし。私はコンビニの前で考え込んだ。
お金を貰うには…お金を貰うには…お金を貰うには…。判んない。まず…区役所に行こう!そこで相談しよう!何か回答が得られるはず。
私は駅前にある地図を見た。渋谷区役所は…渋谷区役所は…ここか。私は地図を記憶すると、歩き出した。少し?うん、少し!迷ったけど、やっと、区役所に着いた。入っていくと、案内のお姉さんがいるので聞いてみた。
「あのー、お金って何処で貰えます?」
「はあ?お金ですか?」
「はい。」
「失礼ですが、どちらにお住まいですか?」
「永田町ですが…。」
「なら、千代田区役所に行かれた方がよろしいと思います。」
「はあ。」
その時、住民票などの待つ場所に置いてあるテレビのニュースが次のように告げた。
「羽田空港発マレーシア・クアラルンプール行き、NH885便の航空事故、乗客330人、全員ほぼ絶望とみられます。」
え!これ、私の乗った飛行機の話…。私、もしかして死んだことになってる…。
多分、私が近藤真帆だって名乗り出ても、誰も信じてくれる人はいないかもしれない。あの事故からどうやって生き残ったって話になる。説明しても信じてはくれないだろう。もしかして、別人として生きていくしかないの?それって、物凄く…。
私はとぼとぼと渋谷区役所を出た。どうしよう。私は落ち込んだ。数分、落ち込んだ後、えーい!もうこれはどうしようもないから、せっかく助かった命なんだから、好きなように行こう、と開き直って、まずは、お金。お金を何とかしないと、お腹が減ってしょうがない。
私は渋谷ヒカリエ前に来た。何か手掛かりはないか、歩き回ってみる。二階のテレビスクリーン、”バイトするならバイトル!”バイト?バイト!そうだ。その手がある。バイトすればお金が貰える。でも…、バイト探すにも、スマホないし、お金、一銭もない。どうしよ。
うーん、何か手があるはず。うーん、もう一度、区役所行ってみよう。私は区役所に戻った。
「あのー、バイトを探してるんですけど…。」
「バイト?仕事?」
「はい。」
「なら、ハローワークに行ってみるといいと思います。」
「ハローワーク?」
「はい、すぐ近くにありますので。」
私は、ハローワークへの行き方を聞いて、行ってみた。そこは結構人がいて、求人情報検索用の端末が何台かあるが、全部人で埋まっていた。私は、二階にある相談窓口に行ってみた。
「あの…仕事を探してるんですけど…。」
「何か、身分証明書になるもの、持ってますか?免許証とか、健康保険証、マイナンバーカードの様なもの。」
「あ、いえ…今、持ってません。」
「それは困りますね…。採用試験を受ける場合は絶対必要ですし、ここの施設を使用する場合にも、本人確認書類の提示を義務付けています。」
「そうですか…。」
これは困った。何とかせねば。どうすれば…良いんだろう。マイナンバーカード、どうやったら貰えるんだろう…。あ!そもそも私の住民登録って!?多分、近藤真帆はもう、死んだものとして処理されてる…。今から、私は近藤真帆だって言っても、証明するものは何もない。うーん、これはシャルファーレンスさんに相談した方がいいかも…。
”シャルファーレンスさん?”
”はい。”
”私、もう、死んだものとして処理されているんですけど…。”
”うーん、そうね…。確かにあれでは助かったと言っても、信じられないかも…。別人として生きるしかしょうがないわね…。”
”でも、その別人になるには、問題が…多くて…。”
”うーーーーーん。…わかった。考えるわ。まず、その別人の登録情報が必要よね。名前と、住所?生年月日?”
”名前か…、佐々木…佐々木…麗奈。”
佐々木は小学生の頃、好きだった人の苗字。麗奈は最近よく聞いてたアーティストの名前。
”住所は…わかんない…”
”仮に決めておいた方が良いかも。どこかのマンションとか…。”
”そう…。後で決める…。生年月日は、二千六年二月五日”
生年月日は近藤真帆と一緒。
”後は、この情報をこの世界の管理側に植え付けてやればいいんだけど…。対面でそれが出来るかしら?”
”区役所で、住民票の登録はできるみたいだけど…何で?”
”対面なら、相手を思い通りに動かしたり、記憶を変えたりできるわ。”
”え!そんなこと、出来るの!?”
”ええ。これは犯罪人を割り出したり、犯罪人に自白させたりするときに使える能力として、持ってるものなんだけど、他の世界に潜り込むときにも使えるのよ。悪用すると危険だから、使用するときは気を付けてるけどね。”
”ふーん。判った。どうすれば、その能力、使えるの?”
”あなたが思い通りに動かしたい相手と目を合わせて、意識を目に持ってきて、動かす内容を心に描くのよ。試してみる?”
”うん。”
”じゃあ、近くにいる人で試してみれば。”
私は周りを見渡した。ハローワークを出たところは、ちょっとメインストリートから奥に入った場所だったので、メインストリートに出てみる。夏休み中の渋谷と言うこともあって、結構、若者が歩いている。私は向こうから歩いてくる一人の若者と目を合わせた。意識を自分の目に持ってきて、心で、”頭を掻きなさい”と思った。若者は頭を搔いた。よし!旨くいった!私は目をそらして、すれちがった。
”旨くいった!”
”そう。じゃあ、本番いってみる?”
”うん。その前に、仮の住所、決めないと…”
私は、そう思うと、一旦、渋谷駅に戻った。スクランブル交差点の大型ビジョンにマンションの広告がたまたま、流れていた。その住所を記憶すると、渋谷区役所に向かった。
”じゃあ、その架空の住所へ転入することを、政府の機関の人に指示しなさい。”
”転入?”
”そう。それ以外にないわ。”
”わかった。”
私は区役所に入り、まず、紙を取って名前と住所を書き、転入手続きの担当を聞き、その係の窓口に行った。
「何の手続きでしょう?」
私は窓口の人と目を合わせた。そして、意識を自分の目に持ってきて、心で”佐々木麗奈と言う人を転入させなさい。”と思って、名前と住所を書いた紙を見せた。その人は、席を立つと、パソコンに向かっている人を退かせると、自分でパソコンの操作をして、戻ってきた。
「しました。」
「ありがとうございます。」
私は紙を持っていた袋の中に入れると、そこを離れた。そして、マイナンバーカードを申請する方法を聞いた。申請して一週間かかると言われてがっくり。ただ、資格確認証なら当日でも発行できると言われて、頼んだ。ただ、保険者情報を聞かれて、ちょっと能力でずるしちゃったけど。
私は資格確認証を貰った後、区役所の外に出て、メインストリートを歩いていた。その時である。
「あの、ちょっといいですか?」
「はい?」
見知らぬ男の人が声をかけてきた。四十歳ぐらいのちょっと伊藤海彦似のおじさん。
「私、こういうものです。」
男は、名刺らしきものを渡した。そこには、”株式会社グラドルエンターテイメント スカウト担当部 神流崎敏夫”と書いてあった。そうか!私、今、美女なんだ。
「グラビアアイドルに興味ありませんか?」
「あのー、済みません。朝から何も食べてないんです。食べさしてくれれば、何でも話、聞きます。」
「朝食は?」
私は首を振った。
「お金は?」
さらに大きく首を振った。男は少し考えたが、こう言った。
「判りました。ファミレスで食べながら、話をしましょう。」
私と神流崎さんは、駅近くのファミレスまで歩き、入っていった。私と男は向かい合って座り、私はメニューを見た。スパゲッティにしよ。炙り生ハムと海老アボカドのレモンクリームパスタを選んだ。神流崎さんは、ドリンクバーらしい。
「グラビアアイドルをやってみたいと思いませんか?」
「どれぐらい稼げます?」
神流崎さんはちょっと嫌な顔をしたが、すぐ元に戻り、こう言った。
「取れる仕事にもよりますが…最初は、月収十七万ぐらいとお考え下さい。」
スパゲッティがやってきた。私は急いで食べ始めた。
「もしかして、お金にお困りですか?」
神流崎さんは聞いてきた。
「はい。」
「もしかして、家出でもしたんですか?」
「いえ、今、天涯孤独になってしまって…。家族をなくしまして…。」
私は、嘘のような、本当のようなことを言った。完全な真実は…多分、信じてもらえない…。
「そうですか…。それは済みません。」
私は、スパゲッティを急いでほおばった。七口で平らげる。
「それで、どうです?やってみません?」
強く勧めてくる。そんなに綺麗か?私。月十七万、魅力だ…。どのくらいの価値なんだか、私、よくわからないけど。
「やります。やらせてください。」
私は藁にでも縋る思いで言った。背に腹は代えられない。
「判りました。今から、うちの会社行きましょう。六本木にあります。」
「済みません。その前に、お金、貸していただけません?せめて、スマホだけ、買いたいので…。」
男神流崎さんは再び、嫌な顔をした。大丈夫か?この子は…と言う感じだ神流崎さんはしぶしぶ、一万円札を渡した。
「スマホ、中古なら六千円ぐらいで手に入ります。」
私たちはファミレスを出て、中古スマホ屋に行き、一番安いスマホを買った。そして、格安スマホを契約した。契約時に、本人確認書類を請求されたが、その店員と目を合わせ、心で”あなたは私の本人確認書類を見た”と思い、何とか切り抜けた。店員さん、御免なさい。
そして、私たちは六本木に向かった。タクシーを止め、乗り込んだ。
「六本木三丁目。A・Bビル。お願いします。」
「はい。」
そう言って、運転手はタクシーを出した。
タクシーは目的地に着き、神流崎さんは領収書を貰っていた。私たちはタクシーを降り、近くにあるビルの六階に上がっていった。エレベータを降りると、事務所の入口があった。入口の所に会社名と「可愛い×カッコいい」と書いてある。私たちは入口に入っていった。
「神流崎さん、おかえりなさい。」
事務員らしい人が挨拶した。
「社長、どうしてる?」
「今、会議中です。もう少しすると終わると思います。」
「いや、有望な新人をスカウトしてきたから、会って少し話してほしくてさ。」
「判りました。終わったら来るよう伝えます。」
「後、契約用紙、持ってきて。」
「はい。」
私たち二人は事務所の中の仕切られた小さな部屋に入った。
「君、いくつ?」
「二十歳です。」
私は答えた。
「そうか…、社長、グラビアアイドルだったんだ。全盛期が君が生まれたころかな…。深夜だけどドラマとかにも出てたんだ。」
「はあ。そうですか。」
その時、事務員が書類を持って入ってきて、机の上に置いた。
「これ、記入して。」
「はい。」
まずは名前と住所。あ!危なく近藤真帆って、書きそうになった。まずいまずい。佐々木麗奈だった。後、住所は…何だっけ。確か、袋に入れた紙に書いたはず…あれ?あれあれ?無い!紙が無い!私は服が入っている袋の中を探した。しかし、紙は見当たらなかった。これは困った。
「どうしました?」
「いえ、最近引っ越したばかりで、住所を忘れてしまって…。」
神流崎さんはまた、顔を顰めた。
「家が焼けてしまって、助かったの、私一人なんです。その時、荷物の殆どを失ってしまって…。」
神流崎さん、御免なさい。こんな嘘、つきたくないんですが…。納得いきそうな説明、これしかないんです。
「そう…。じゃあ、本人確認書類は?」
「今、申請中です。」
私は資格確認証の存在を完全に忘れていた。
「うーん、契約できるかな…。」
しばしの沈黙。うなだれる私、考え込む神流崎さん。そこに女性が一人入ってきた。綺麗な人…。
「この子?有望な新人って言うのは?」
「そう…なんですが…。」
「こんにちは。」
「…こんにちは…」
「神流崎君、何考えこんでるの。」
「いえ、ちょっと問題がありまして…。彼女、何か、家を焼きだされたそうで、家族を失っちゃって、一文無しで、本人確認書類もなくて、契約成立できるか危ういんですが…。」
「そう…。お気の毒に…。で、連絡先は?」
「それは、お金を貸しまして、先程、スマホを契約してもらって。」
「そう。うーん、そうね…。彼女、信用しましょう。契約書の提出は後日と言うことで、連絡先だけ控えてください。」
「社長!大丈夫ですか?」
「大丈夫!私が責任持つわ。」
その後、神流崎さんは部屋を出て、私は社長の話を聞いた。グラビアアイドルをやるにあたっての心構え、仕事上の大切なこと、スタッフとの関わり方などだった。
「あなた、お金大丈夫?」
社長は聞いてきた。
「……いえ……」
「貸すわよ。返すのは初任給が入った後でいいから。」
「はあ…。ありがとうございます。」
私は社長から、五万円程貸してもらった。その後、一人の男の人が入ってきた。
「紹介する。あなたを担当することになったマネージャーの篠原君。」
「篠原雄一です。よろしくお願いします。」
ちょっとだけ二枚目の入った男性だ。ただ、少しだけ言葉から感情が伝わらない雰囲気があった。ぶっきらぼうなだけかな…。
「彼、優秀なマネージャーよ。信頼していいと思うわ。じゃあ、よろしく。」
社長は退室した。
「明日から、仕事をしていきます。そこで、スマホにカレンダーアプリはインストールされてます?」
「あ、多分、買ったばかりなので、入ってないと思います。」
「では、入れてください。」
私はカレンダーアプリをインストールした。その後、今後の一週間のスケジュールを聞かされた。明日はイメージビデオの打ち合わせと撮影だった。なんでもショートのビデオを作り、ネットの動画サイトに上げてみて、様子を見るそうだ。大規模なプロモーションはその後とか言ってた。
今後のスケジュールの話は、十分ぐらいで終わり、今日は帰っていいことになった。
帰り際、事務所の扉の所で、女の人とすれ違った。茶髪で、背は私と同じぐらいで、大きな黒い瞳、今の私よりさらにナイスなバディの人。やっぱりグラビアアイドルなのかな…。
「おはようございまーす。」
「おはようございます。由愛ちゃん。」
由愛って言うのか…、あの人。私は、エレベータで一階に降り、ビルから出た。さて、今からどうしよう。まず、暑いから地下に潜ろう。そう思うと、近くの六本木一丁目駅まで歩いて、もぐりこんだ。
取り合えず、住む所を決めて、テレビと洗濯機ぐらい欲しいかも。まあ、洗濯機は中古でも良いとして…。スマホで住む所を探そう。検索、検索と。アパート、都内。できれば都内に住みたいよね。うーん、結構高いね…。でも、この敷金、礼金って、何?うーん、検索で調べればわかるかしら。敷金、”契約を結ぶ際に、借主が貸主(大家や管理会社)に預けるお金”と出てきた。そんなお金要るんだ。しかも、見てるとこれも結構、お高い。あ!敷金ただってのも、中にはある。これが狙いかも。あ!保証人なんてのもある。何だろ?検索で調べると、”債務者が返済義務を履行しない場合に、代わりに返済する責任を負う人”何か、難しい言葉が並んでるけど、どうも借りる人以外に人が要るらしい。でも、見てるとたまに保証人不要ってのもある。できれば、保証人も要らない方が…。あ!三つとも要らないとこ、在った!”グリーンヒルズ”ってアパート。空いてる部屋は二階。月三万四千円。八王子。ちょっと都心からは離れてるか。でも、良しとする。あ!スマホから入居申し込みしようとすると、本人確認を求めてくるような気がする。直接不動産屋に行くしかないか…。私はその物件を取り扱っている不動産屋をチェックした。株式会社タウンハウジング東京八王子店か…。今から、行ってみよう。京王八王子駅の近くか。まず、渋谷に出て、渋谷駅から井の頭線で、明大前駅で京王線に乗り換え、京王八王子駅まで。急行使って、50分ぐらいかかるかな…。私は地下鉄に乗り、麻布十番、青山一丁目で乗り換えて渋谷に出た。その後、渋谷から井の頭線、京王線を乗り継いで、京王八王子駅に着いた。不動産屋は駅から歩いて一分ぐらいの所だった。ちょっとだけ迷ったけど、何とか見つけた。
「済みません。」
「いらっしゃいませ。物件をお探しですか?」
「あの…スマホで見たんですが、グリーンヒルズって言うアパート、借りれますか?」
受付の人は、ちょっと変な顔をした。
「少々お待ちください。」
しばらくして、担当の男の人が出てきた。
「グリーンヒルズ、八王子の物件ですね。二階、1Kで、月三万四千円ですが、よろしいですか?」
「はい。」
「では、入居申込書にご記入お願いします。」
住所、氏名、電話番号、年齢、職業、年収と…。住所は…うる覚えだけど、書いちゃお。佐々木麗奈、二十歳、グラビアアイドル、えっと、十七×十二で…二百四万円?まあ、大丈夫でしょう。
「はい。」
「次に本人確認書類のご提示、お願いします。」
「本人確認書類!?あ、えーと…」
その時、資格確認証の事をふと思い出した。確か、ポケットの中…。あった、あった。
「コピー、撮らしてもらいます。」
担当の人は、資格確認証のコピーを撮りに行った。そして戻ってきた。
「ありがとうございます。確かにお預かりしました。入居できるかどうかは、おってお知らせします。後、それまでに、収入の証明となる書類と住民票、お願いします。」
収入の証明か…。社長に頼まないと駄目かな…。
「いつ頃になりそうですか?」
「早ければ、五日後、遅ければ九日後ぐらいです。」
「そうですか…。」
私は不動産屋を出た。さて、どうしようか…。テレビと夕食を買って、後は、宇宙船に帰るしかないか…。
私は近くのコンビニで弁当を買って、JRの駅向こうのビックカメラで小さめのテレビを買った。
”シャルファーレンスさん?”
”はい。”
”寝るとこ、無くなっちゃった。ハルに言って、私を宇宙船に転送させて。”
”判ったわ。”




