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ぼ、ぼ、ぼ、僕、斎藤紘一って言います

 今度の新居は比較的簡単に決まった。敷金礼金保証人不要。家賃は五万五千円と少し上がるけど、まあ、しょうがないか。「ビル・エスパシオ」と言うマンション。JR八王子駅まで徒歩十分か。

 引っ越し作業は順調に進んだ。私は新居のマンションを見上げた。午後二時頃だ。その時、一人の男性が声をかけてきた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのー、佐々木麗奈さんですか?」

「…はい。」

「あ、あ、あ、あのー、ぼ、ぼ、ぼ、僕、斎藤紘一って言います。あ、あ、あ、握手してください。」

「あー、はい。」

 私はその男性の手を握った。一体、何だろ?

「あ、あ、あ、あ、あ、あのー。あ、あ、あ、貴方の配信見まして、ひ、ひ、一目で好きになりまして。」

 あ!そうか!私、グラドルだったんだ。完全に忘れてた!

「プ、プ、プ、プレゼント、受け取って、いた、いた、いただけましたか?」

「あ、ああ、いえ…。」

 そう言えば、最近、事務所に連絡とってなかった。これは、まずいかも…。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのー。さい、さい、最近、配信、無いですが、なんでです?」

「え、ええ、あ、あのぉ…。」

 沈黙が数秒過ぎた。何か、ちょっと、気まずい。男性は頭を下げて、去っていった。まさか、ファンが来るなんて…。でも、どうやってこの場所を知ったんだろ?まあ、良いか。私は新居に入った。

 その後、私は事務所に連絡ととった。住所が変わったことを伝え、プレゼントが届いているという事を伝えられた。私は明日、久しぶりに事務所に行ってみることにした。

 行きの電車の中、何か、視線を感じた。何だろ?まさか、またファン?まさかね。私は荻窪駅で丸の内線に乗り換え、四ツ谷駅で南北線に乗り換えた。何か、ずうっと、視線を感じる。ちょっと、気味が悪いな。南北線の車内を見回してみた。緑色の薄いフード付きパーカーの様なものを着ているちょっと怪しい人はいたが、他は普通の人がほとんどだった。私は六本木一丁目で降りた。そして、A・Bビル入り六階に上がった。

「おはようございます。佐々木さん。」

「おはようございます。」

「住所が変更されたという事ですので、こちらにご記入ください。」

 私は書類に新しい住所を記入した。

「あの、プレゼントが届いているという話ですが。」

「はい。こちらになります。」

 私はプレゼントを受け取ると、事務所を出ようとした。向こうから、社長が来た。

「佐々木さん、ちゃんと謹慎してる?」

「え!あ、はい。」

 社長はちょっと睨んだが、すぐ通り過ぎた。私はエレベーターの一階のボタンを押し、ふーっと一息ついた。そして、プレゼントの内容お確認した。プレゼントは…何だぁ?これは。蛸?

 エレベーターの扉は開き、私は外に出た。外はまだ暑い。私は六本木一丁目の駅に向かった。ホームに入って、電車を待っていた。また、視線を感じる。

 あ、電車が来る。その時、私は線路のある方向に突き飛ばされた!まずい、線路の上に落ちそう。何?私の人生、これで終わり?

 その時、私の手を掴んで引っ張る人がいた。誰?あ、今日、握手をした彼。でも、彼、何も言わずに、行っちゃった。ちょっと!お礼ぐらい言わせてよ!

 斉藤って、言ってたかな、彼。私のSNSのフォロワーかな。うん、そうみたい。後でメッセージしてみようかな。それは良いとして、突き飛ばした奴!許せない!何を考えてるんだ。

 私は怒りながら電車に乗った。電車には怪しい人はいなかった。南北線、丸ノ内線、中央線と乗り継いで八王子に着いた。特に事件は無かった。そして、私は迷ったが何とか新居に歩いて着いた。その後、午後五時頃だろうか。玄関のチャイムが鳴った。

「はい。」

「私、斎藤美千代と申します。少し、お話しできないでしょうか。」

「はあ。」

「突然、済みません。兄が伺ったと思います。」

「お兄さん?」

「斎藤紘一と言います。」

「あ!彼の…。」

「はい。兄、あなたの事を真剣に想ってます。」

「真剣に…。」

「ですから、兄の事を嫌わないで欲しいのです。」

「…」

「お願いはそれだけです。では。」

「…あ!ちょっと!!ちょっと待ってください!」

 あーあ、行っちゃった。あの兄妹、去る時は速いんだから…。でも、二人ともコミュニケーション不器用そうだけど誠実そう。あ!メッセージしてみなくちゃ。

”どうも。佐々木麗奈です。斎藤紘一さんですか?今日はありがとうございます。”

 暫く反応はなかった。三十分後ぐらいか、メッセージが返ってきた。

”いえ。どういたしまして。”

”あの、会って、きちんとお礼を言いたいのですが、会っていただけますでしょうか。”

”また、会ってもらえるんでしょうか!会います!何時が良いでしょう?”

”明日の午前中、10時頃なら良いです。”

”じゃあ、その時刻に伺います。”


 翌日、午前九時五十五分頃、チャイムは鳴った。私は急いで出た。

「おはようございます。」

「お、お、おはようございます。」

「どうせだから、喫茶店で話しませんか。」

「は、はい。」

 私たちはマンションの前の道を歩いた。ラーメン屋がある。焼肉屋がある、でも、ちょっと早いかな。この角を曲がって少し行けば、喫茶店があるはず…。あれ?行き止まり。ティー字路だ。おっかしいな…。

「さ、佐々木さん。き、喫茶店なら向こうですよ。」

「え!?あ、はい。」

 私たちは、引き返した。少し行くと、喫茶店があった。中に入ると、私たちは向かい合って座った。彼はアイスコーヒーを、私はアイスティーを注文した。

「昨日は、本当にありがとう。危なく死ぬところでした。」

「い、いえ、貴方には死んで欲しくはないんです。本当に。」

 ちょっと、沈黙が流れた。

「あ、あの」

「あ、あの」

 二人の声がぶつかった。

「プレゼントだけど、」

「何故、最近、」

 またぶつかった。

「どうぞ。」

「どうぞ。」

 今度も。

「お先に」

「お先に」

 また。さすがに二人、笑い合った。

「プレゼントだけど、あれ、何です?」

 私は彼に聞いた。

「あれ…蛸です。」

「やっぱり。」

「いえ、貴方が”蛸娘”と配信で言ってたので、蛸が好きなのかと思って。」

「ああ。あれは漫画のタイトルです。”侵略!蛸娘”と言う。」

「そうですか…。何故、最近、配信をしないんですか?」

「ああ、それは、ビデオカメラをですね、二台も、私のせいで、プールにダイブさせてしまって…。謹慎を言い渡されて…。」

「なるほど…。そうですか。」

 そこで会話は一段落。私たちは会計を済ませて、外に出た。

「じゃあ、ここで。」

「ど、どうも、ありがとうございました。」

 二人は別れた。私は道を歩いていると、あれ?また、突きあたった。ティー字路だ。おっかしいな。どっかで右に曲がるんだっけ。何処だったろう?

 私は結局、十五分ぐらい、その近辺をグルグル回った。その後、何とか新居に辿り着いて、郵便受けを見ると、何か入ってた。え!何、これ…。

そこには彼の縛られている写真、地図、そして彼を返して欲しかったら此処に来いと言うメッセージ…。怒りが徐々に沸いてきた。


 地図に書いてあった場所は、平和島にある物流センターだった。私は宇宙船を使って、そこに転送してもらった。コンテナの様なものを積んだトラックが大量に停まっている。その時、大きな声が聞こえてきた。

「右側に入り口がある。そこから中に入って来い。」

 私は仕方がなく、声に従って入っていった。中を進むと緑色のパーカーを着た男が、縛られた彼を右手で抱え、待っていた。

「イントゥ」

「この男がどうなってもいいのか?」

 男は彼の首にナイフを当てた。私は、”プぺ”までで止まった。卑怯な!

「この中に入れ。」

 男は、銀色の大きな扉を開けた。う!寒!何!?ここに入れって!?

 私は仕方なくその中に入った。奴も彼を連れて入ってきた。奴は何か、ホースの様なものを持ち出して、煙のようなものを吹きかけてきた。寒!冷た!これ、まさか、寄生体を凍らせるときに使った…。眠い…寒い…眠い…。


 僕、斎藤紘一。佐々木さんが動かなくなった。寒い。何とかしないと。僕は自分を縛っている縄を何とかしようとした。緑色のパーカーを着た男は何か取り出した。何だ、あれ。何か、光ってる。レーザーか?そして、動かなくなった佐々木さんに当てた。あ!佐々木さんの身体が、切られた!どんどんバラバラになっていく!早く、早く縄を解かないと。あ!佐々木さんの首が切られた!僕の目から涙が流れた。縄を、縄を解かなきゃ。あ、佐々木さんの身体が…佐々木さんの身体が…。

 男は満足そうな顔をして、部屋から出ていった。僕は棚の様なものに自分を縛っている縄を擦り付けた。身体を上下に動かして、縄を切ろうとしていると、何か音が聞こえてきた。バラバラにされた佐々木さんの身体の近くからだ。僕はなんとか縄を切ると、音がしているものを探した、音がしているのは、佐々木さんのポケットに入っていたスマホだった。僕はそのスマホで通話してみた。

「今、佐々木麗奈の身体って、どうなってます?」

 男の人の声が聞こえてきた。誰なんだろう。

「ば、バラバラになって、転がってます。」

「では、それを一か所にまとめてください。」

 僕は凍ってバラバラになった佐々木さんの身体を泣きながら集めた。

「はい。集めました。」

 すると、集めた身体は、フッと消えてしまった。何処へ消えた?!

 僕は、その部屋にいると凍えそうなので、部屋から出た。そして、建物の外に出た。すると、都心の方向に不気味な巨大生物が現れた。その巨大生物は、全身緑色でクラゲの様な帽子をかぶって、その帽子の上に三つの触角が出ており、帽子の下には魚の様な形をした大きな目が二つ、丸い口の様なものが一つある。両手両足はあるが、手の指は見えない。そいつは町を壊し始めた。

 僕は暫く状況を見ていた。逃げた方が良いのは確かなのだが、どっちに逃げるべきかわからなかった。十五分ぐらい過ぎた頃、もう一体巨大な姿が現れた。あれは…以前見た、巨大佐々木さん!これは、どう言う事なんだろう。佐々木さんは生き返った?

 僕は何か囁き声を二度ほど聞いた。すると巨大佐々木さんの着ているものが消え、下着姿の様になった。う、美しい。僕の視線は巨大佐々木さんに釘付けになった。巨大佐々木さんは、巨大生物にキッスをした。う、羨ましい。すると巨大生物は虹色に輝いて大量の花に変わってしまった。その後、巨大佐々木さんは何か、見えないものに隠れるようにその姿を消した。

 その五分後、普通の佐々木さんが建物の陰から現れた。やっぱり生きてたんだ。嬉しい。僕らはその場所で抱きしめ合った。

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