サービスエリアの女戦士⑤
「一応、木津竜馬っていいます。覚えてくれなくてもいいんだけど」
「私って人の名前とか聞いてもすぐ忘れるタイプなんで、ちょうどいいっすね」
「なんでそんなツンツンしてんのさ。命を救ってもらっておいてなんだけど、初対面の態度じゃなくない?」
「マルガリテスを土産物とか言われたの、めっちゃ不愉快でしたから」
それが怒っている原因か。だってしょうがないではないか。どう見ても土産物なのだから。
「さっき神に選ばれた、とか言ってたけども。差し支えなければ詳しく聞いてもいい?」
「差し支えるっす」
「そっか、支えるか」
支えるならしょうがない。
先ほどドラゴンに邪魔されてしまった喫煙を再開するため、箱から一本抜きだして口に咥えると、鴻池からの視線を感じた。
「タバコ吸わないでもらえます?」
「あ、嫌いだった?」
そういえば出会い頭にヤニカスと罵られた。
「違います。せっかく禁煙してんのに、近くで吸われたらこっちまで吸いたくなってくるでしょ!」
マルガリテスを握っていた時の力強さは失われ、鴻池の手はぶるぶると震えている。ヘビースモーカーにしか出ない禁断症状だ。歯を食いしばって欲望に抗っているように見えるが、この様子では長くはもたないだろう。
「禁煙ってどれくらいしてるの?」
「み、三日っすよ。あとちょっとで日付変わるから、そしたら四日目突入っす」
「…吸う?」
「いやぁ、やめて!」
弱弱しい悲鳴を上げて頭を抱え、地面にうずくまる鴻池。これがドラゴンを一刀両断した戦士の姿か。
竜馬はそんな鴻池に構わず、タバコに火をつけた。金属製のライターの蓋が開く、カチンというに鴻池の肩が跳ねる。
「この音だけで吸いたくなるよね、分かる」
「やめろって言ってんでしょ!」
「我慢は体に毒だよ。ストレスで早死にしたら元も子もない」
「うぐぅ…」
鴻池が陥落するまでに大した時間はかからなかった。竜馬から漂う煙の匂いに釣られ、鴻池はついに煙草を咥えてしまったのだ。もうそこから引き返せる人間などこの世には存在しない。
タバコを咥えたまま顔を突き出してくる鴻池。ライターで火をつけてやると、彼女の顔中に幸福の色が広がった。
「なんてことを。よくもやってくれましたね」
「あんだけ強いのに意思は弱いんだな」
「この悪魔。3日間の我慢が全部台無しっす」
「なんで禁煙なんかしてんのさ」
「婚活っす。今の世の中、タバコ吸ってるってだけで女として見てもらえないじゃないっすか。実家の親から孫の顔見せろってうるさく言われてて、そろそろマジで相手見つけないとって焦ってんすよ」
「なるほど、それでまずは禁煙を?」
「いい女への第一歩っす」
それで禁断症状が出ているのだから、きっと鴻池は禁煙に向いていない。吸っている時の幸せそうな顔を見れば、それが痛いほど分かった。
「で、悪魔さん」
「木津竜馬だって」
冗談ではなく本当に人の名前を覚える気がないらしい。
「竜馬さんは気になってんですよね?私が聖剣に選ばれた理由」
「あれ、話してくれる気になった?」
ニコチンが鴻池のつっけんどんな態度を和らげてくれたらしい。やはりタバコも捨てたものではない。




