サービスエリアの女戦士⑥
「私がマルガリテスと出会ったのは社会人一年目の頃。就活に落ちまくった結果、別に入りたくもない会社になんとなく入社して、それはもうお先真っ暗の人生を歩み始めてた時っす」
なんて嫌な話の導入だ。これから聖剣とやらに出会うエピソードとは思えない。
「あの頃の私にとって、楽しみといえば仕事終わりに飲む酒くらい。駅前からちょっと離れた居酒屋に週4で通ってたんすよ。火曜日はなんとなく気が乗らないので、それ以外の平日は全部」
「新卒の女の子とは思えない習慣だ」
「あんまりにも足しげく通うものだから、常連さんから顔覚えられましてね。おっさんばっかりの店でしたから、私みたいな若い女はちやほやされるんすよ」
娘くらいの年齢の女性が毎日のように飲みに来ていれば、さぞかし可愛がられるだろう。
「金曜以外は翌日の朝も早いんで、飲む量をセーブしてたんすよ。ビールは3杯まで。焼酎はロックなら2杯、水割りなら3杯まで。日本酒は2合まで。それが私の決めた絶対のルールだったんです」
「えっ、普通に飲みすぎじゃないか?」
「いやそれくらいじゃ酔わないっすよ。こう見えても酒に強いんで。でもね、ある日常連さんがすごい気前よく奢ってくれて、私的にはルールの上限越えてるのに、飲め飲めってすごい注いでくるんすよ。相手は30歳くらい上のおっさんだし、無下に断るわけにもいかないっしょ。だから奢られるだけ飲んだんですけど…」
当時を思い出したかのように、鴻池は口元を手で押さえた。
「うえ、思い出しただけで吐きそう」
「吐くほど飲んだのか」
「吐くほどっていうか吐きました。あ、でも私だって女ですから、人前で醜態は晒さなかったっすよ」
「トイレに間に合った?」
「ちゃんと店の外に出て、電柱の陰に吐きました」
朝方に吐しゃ物が路上に残っている光景をよく目にするが、こういう人間が前日の夜にやらかした結果らしい。
「席からトイレまで距離があったんすよ。扉と便座を開ける時間を考えると、その間にリバースしちゃうかもしれないっしょ。それなら店の外にダッシュで出て、そのへんに吐いたほうが被害は少ないかと」
「公共の道路を汚した言い訳はいいから、早く聖剣との出会いを話してくれよ。今のところ酔っ払い女が吐いただけじゃないか」
出会ったばかりの相手の汚いエピソードなど聞きたくない。竜馬が先を促すと、鴻池は2本目のタバコに火をつけながら続けた。
「吐いたあと、人気の少ない場所で夜風を浴びながら休んでたんす。電車に乗る気力もなくて、明日も仕事か、なんて考えながらボーっとね。そしたら突然、襲ってきたんすよ」
「なにが」
「アンデッドっていうんですかね。中途半端に生き返った死体みたいなやつが、キモイうめき声上げながら私に覆いかぶさってきたんすよ」
「どっから出てきたんだよ、そんな化け物」
「あの辺近くに葬儀場ありますし、そこじゃないっすか」
通夜を終えて、あとは葬式と火葬を待っている遺体が、葬儀場を抜け出して鴻池を襲ったというのか。なんとも荒唐無稽な話だが、ドラゴンに襲われた経験者としては信じないわけにもいかない。
「ゾンビみたいに汚い感じじゃなくて、湯灌を終えたあとの遺体だったんで綺麗でしたよ。だから見た目にあんまり不快感はなかったっす。フルチンだったこと以外は」
「で、酔っ払いの鴻池さんはそいつに襲われてどうしたの」
「そりゃもう酔いも覚めますよね。必死に逃げようとしたんすけど、吐いた直後で体に力が入らなくて。四つん這いで逃げようにもスピード出なくて、ああもうだめだ、殺されるって諦めかけたその時っす。見たんですよ、私は」
腰に差したマルガリテスに手を触れ、鴻池は誇らしげに微笑んだ。




