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雷の英雄 ~手榴弾一万発から始まる異世界統一記~  作者: レモンティー


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第七話 伯爵の絶望

フォン・バルト伯爵は、自分が負けるところを想像したことがなかった。

ガルダ城。

山岳地帯を見下ろす巨大要塞。

高さ三十メートルを超える石壁。

厚い鉄板で補強された巨大城門。

数百の精鋭兵。

そして、この地方一帯を支配する絶対的な権力。

それら全てが、彼の自信の源だった。

「森で兵が消えた?」

執務室でワインを揺らしながら、バルトは報告書を机に放り投げた。

「馬鹿馬鹿しい」

目の前で報告を続ける部下が顔を強張らせる。

「しかし閣下、生き残った兵の証言では――」

「幻覚だろう」

バルトは鼻で笑った。

「森で盗賊にでも襲われたのだ。あるいは恐怖で仲間を見捨てて逃げ帰ったか」

部下は黙り込んだ。

それ以上反論できない。

この地方において、バルトの言葉は法律より重かった。

「くだらん報告に時間を使わせるな」

ワインを飲み干し、窓の外を見る。

夜明け前の空。

遠くに広がる森。

あの森には今も反抗的な村人どもが隠れている。

だが問題はない。

数日もすれば全員捕らえられる。

女は売り払い、男は鉱山送りだ。

いつも通り。

何も変わらない。

そう思っていた。

その時だった。

「伯爵閣下!」

執務室の扉が勢いよく開いた。

見張りの兵士が血相を変えて飛び込んでくる。

「城門前に不審者です!」

「不審者?」

「二名です!」

バルトは眉をひそめた。

「たった二人か?」

「は、はい!」

思わず失笑した。

二人でガルダ城に来たというのか。

狂人だ。

退屈しのぎにはなる。

「行くぞ」

バルトはマントを翻し、城壁へ向かった。

冷たい朝霧が城を包んでいた。

城壁の上には数百の兵士が並び、眼下を見下ろしている。

その先。

巨大な城門の前に、確かに二人の人影が立っていた。

一人は見覚えがある。

逃亡した下級文官、ルカ。

そしてもう一人。

奇妙な青い服を着た若い男だった。

鎧もない。

剣もない。

盾もない。

代わりに、大きな灰色の箱を載せた牛車があるだけだった。

兵士たちが笑う。

「なんだあいつは!」

「旅芸人か?」

「一人で城を落とすつもりらしいぞ!」

嘲笑が城壁を包んだ。

バルトもまた笑った。

「哀れな鼠め」

身を乗り出して叫ぶ。

「我が城に何の用だ?」

青い服の男は静かに顔を上げた。

不思議な目だった。

恐怖がない。

怒りだけがある。

「おい、城主」

その声は不思議なほどよく通った。

「人から大切なものを奪っておいて、いつまでも偉そうにしていられると思うなよ」

兵士たちが再び笑う。

バルトも肩をすくめた。

「射殺せ」

ただ一言。

数十張りの弓が一斉に引き絞られる。

だが。

男は慌てなかった。

懐から小さな鉄の輪を引き抜く。

カチャリ。

聞き慣れない金属音。

次の瞬間。

男の腕が振り抜かれた。

黒い球体が城壁の上へ飛来する。

「石ころか?」

兵士の一人が鼻で笑った。

その直後だった。

世界が白く弾けた。

――ズガアアアァンッ!!!

耳が潰れた。

空気が爆発した。

身体が吹き飛ぶ。

バルトは何が起きたのか理解できなかった。

石畳を転がり、ようやく顔を上げる。

そこには地獄があった。

さっきまで笑っていた兵士たち。

その多くが倒れている。

血を流し。

呻き声を上げ。

動かない者もいる。

「な……」

喉が震えた。

「なんだ……これは……」

魔法。

いや違う。

こんな魔法は聞いたことがない。

その時。

兵士が悲鳴を上げた。

「閣下!」

城壁の下。

青い服の男が城門へ走っていた。

何か大きな塊を抱えている。

男は迷いなく城門の根元へそれを置いた。

そして逃げた。

全力で。

まるで次に何が起きるか知っているかのように。

「止めろ!」

バルトは叫んだ。

「止めろぉぉぉ!!」

誰も動かなかった。

兵士たちは恐怖で固まっていた。

そして。

世界が再び壊れた。

――ドゴオオオオオォォォンッ!!!

山が揺れた。

城が揺れた。

空気が震えた。

窓ガラスが砕け散る。

石壁が軋む。

白煙が城門を飲み込んだ。

バルトは震えながらその光景を見た。

やがて煙が晴れる。

そして。

絶望が現れた。

巨大城門。

千年破られなかった鉄の門。

ガルダ城最大の誇り。

それが。

消えていた。

粉々になっていた。

「そんな……」

膝から力が抜ける。

「ありえない……」

門が破壊された。

それは単なる軍事的敗北ではない。

世界の常識そのものが壊れた瞬間だった。

兵士たちの顔から血の気が引いていく。

武器が落ちる。

誰かが呟いた。

「悪魔だ……」

その声は瞬く間に広がった。

「雷の悪魔だ!」

「逃げろ!」

「勝てるわけがない!」

兵士たちは我先にと逃げ出した。

誰も命令を聞かない。

誰も戦わない。

バルトはその光景を見ながら理解した。

終わったのだ。

自分の時代が。

自分の支配が。

自分の世界が。

白煙の向こうから、一人の男が歩いてくる。

青いジャージ。

武器も鎧もない。

だが、その背後には一万発の雷がある。

バルトは震えた。

初めて。

生まれて初めて。

自分が弱者になったことを知った。

そして、その瞬間。

ガルダ城は陥落した。

戦いによってではない。

絶望によって。

――こうして、難攻不落と謳われたガルダ城の伝説は終わりを告げたのである。

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