第八話 ガルダ城突入
ひんやりとした不気味な静寂が、ガルダ城の地下牢獄を支配していた。
「お兄ちゃん、助けて……」
ルカの妹・ミーナは湿った石床に膝を抱え、震えていた。
周囲には、昼間の山狩りで捕らえられた村の女や子供たちが、互いに身を寄せ合い、声を殺して泣いている。
鉄格子の向こうでは、看守たちが松明の明かりの下で酒をあおりながら笑っていた。
「このガキどもは明日には奴隷鉱山送りだ」
「あそこじゃ三ヶ月も生きられねえな」
ミーナは目を閉じた。
浮かぶのは兄・ルカの顔。
優しくて、弱くて、剣ひとつ持てない男。
(お兄ちゃんが、こんなところに来られるわけがない……)
その時だった。
――ズガアアアァンッ!!!
地面が跳ねた。
天井から土埃が降る。
「な、なんだ!? 地震か!?」
看守たちが立ち上がる。
直後、さらに深く、世界そのものを叩き割るような轟音が響いた。
――ドゴオオォォォンッ!!!
上層の城門が破壊された音だった。
松明が一斉に消え、地下牢は闇に沈む。
看守たちの声が一気に混乱へ変わる。
「上で何が起きてる!?」
「雷だ! 雷が落ちたんだ!!」
その時、階段の方から足音が響いた。
一人の男が松明を掲げて駆け下りてくる。
「ミーナ!! ミーナ、無事か!!」
「お兄ちゃん……!?」
ミーナの呼吸が止まる。
そこにいたのは、ボロボロの革鎧を着た兄・ルカだった。
「ルカ!? なぜお前がここに……!」
看守が剣を抜く。
だが、その背後から声が落ちた。
「どいて。危ないから」
低く、冷たい声。
暗闇から一歩出てきたのは、青い奇妙な服を着た青年だった。
手には黒い球体。
その表面で、小さな火花が跳ねている。
「ひっ……火魔法……!?」
看守が後ずさる。
次の瞬間。
青年はそれを、何の躊躇もなく投げた。
「ルカ、伏せろ!」
ルカがミーナたちの前に飛び込む。
――ズガアアアァンッ!!!
衝撃波が地下通路を駆け抜けた。
鉄格子が軋み、ねじれ、根元から吹き飛ぶ。
看守たちは一瞬で沈黙した。
煙の中、静寂だけが残る。
ミーナは息を呑んだまま立ち尽くしていた。
鉄格子は消えている。
そこに立っているのは、青い服の青年と、その背後で頭を下げる兄。
(何が……起きたの……?)
青年の胸元で揺れる黒い球体。
それは、鉄を砕き、戦場を一瞬で沈黙させた“雷”そのものだった。
青年はゆっくりとミーナの前にしゃがみ込んだ。
その表情は、さっきまでの冷徹さが嘘のように柔らかい。
「ケガはない? 怖かったよね。ごめん」
そして振り返る。
「ルカ、妹さんは無事だ」
「ミーナ……よかった、本当に……!」
ルカが泣きながら抱きしめる。
ミーナはその腕の中で、青年を見つめていた。
燃え上がる城の奥で、青い服の男は静かに立っている。
この世界の常識を、たった一瞬で壊した存在。
「お兄ちゃん……この人は、だあれ……?」
震える声。
ルカは涙を拭い、迷いなく言った。
「この方はハルト様だ」
「僕たちの絶望を終わらせるために来た、“雷の神様”だ」
その瞬間、地下牢にいた全員が跪いた。
泣きながら。
震えながら。
救いを求めるように。
ミーナの目に映るその姿は、もはや人ではなかった。
この理不尽な世界に落ちた、一つの“夜明け”だった。




