第六話 理不尽にはもっと大きな理不尽を
夜明け前。
牛車の車輪が石だらけの山道を軋ませながら進んでいた。
ルカは何度も前方の闇を見上げる。
そこには巨大な影があった。
ガルダ城。
この地方の誰もが恐れる難攻不落の要塞。
そして。
妹のミーナたちが囚われている場所。
「ハルト様……」
隣を見る。
ジャージ姿の青年は荷台に腰掛けたまま黙っていた。
怒っている。
ルカにはそれが分かった。
大声を上げるわけでもない。
拳を振り回すわけでもない。
むしろ異様なほど静かだった。
だがその静けさが恐ろしかった。
荷台のコンテナには無数の黒い球体が並んでいる。
神の雷。
ルカにとってはそう呼ぶしかない代物だ。
ハルトはコンテナの表示を見た。
残弾数 9996 / 10000
たった三発。
それだけで村を救った。
ならば。
(助けられる)
ハルトは心の中で呟いた。
(まだ助けられる)
会社員だった頃なら考えなかっただろう。
危険だからやめろ。
無茶をするな。
警察を呼べ。
そう言っていたはずだ。
だがこの世界には警察はいない。
法律も届かない。
助けを求める人だけがいる。
そして。
自分の荷台には約一万発の切り札がある。
「ルカ」
「は、はい」
「全員連れて帰るぞ」
ルカが息を呑む。
「妹さんも」
「村の人たちも」
「一人残らずだ」
その言葉に。
ルカは初めて確信した。
この人は本気でガルダ城を潰すつもりなのだと。
やがて霧の向こうに巨大な城壁が現れた。
ガルダ城。
夜明けとともに。
歴史が変わろうとしていた。




