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雷の英雄 ~手榴弾一万発から始まる異世界統一記~  作者: レモンティー


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第五話 雷神の激怒

野盗を撃退したその夜。

ハルトはルカの実家である小さな木造の家に身を寄せていた。

粗末な食卓の上には、干し肉と薄い野菜のスープが並んでいる。

決して豪華な食事ではない。

だが村人たちは、自分たちが飢えているにもかかわらず、ハルトへ最も良いものを差し出してくれた。

「ハルト様、もっと召し上がってください」

「いや、僕は十分だから」

「神様に空腹を我慢させるわけにはいきません」

「だから神じゃないんだけど……」

苦笑しながらスープを口に運ぶ。

温かかった。

異世界に来てから初めて、人の優しさに触れた気がした。

この人たちを守りたい。

自然とそう思った。

だが――。

その静かな時間は、突然破られる。

バンッ!

扉が勢いよく開いた。

「ハルト様!!」

飛び込んできたルカの顔は真っ青だった。

「大変です! 裏山へ避難していた第二班が……!」

嫌な予感がした。

広場へ向かうと、村人たちが円を描くように集まっている。

その中心には、一人の青年が倒れていた。

背中には矢が刺さっている。

しかも矢羽には見覚えのない紋章が刻まれていた。

「ガルダ城の紋章です……!」

ルカが震える声で言った。

ハルトはすぐに青年を抱き起こした。

「しっかりしろ! 何があった!」

青年は血を吐きながら答えた。

「ガルダ城の兵が……山狩りを……」

息が苦しそうに途切れる。

「女たちと……子供たちを……連れていった……」

広場が静まり返る。

誰も声を出せない。

「抵抗した者は……その場で……」

そこまで言って。

青年の手が力なく落ちた。

もう動かなかった。

沈黙。

そして次の瞬間。

あちこちから泣き声が上がった。

「息子が……!」

「妻が……!」

「娘を返してくれ……!」

絶望が広場を覆う。

ルカも崩れ落ちた。

「ミーナ……」

震える声。

妹の名だった。

「妹もあっちにいたんだ……」

泥を握りしめながら泣く。

その姿を見た瞬間。

ハルトの中で何かが切れた。

静かに。

だが確実に。

(ふざけるな)

胸の奥から黒い感情が湧き上がる。

(ふざけるな……!)

この村の人たちは優しかった。

食料を分けてくれた。

寝床を用意してくれた。

見返りなんて求めなかった。

ただ助け合って生きていただけだ。

それなのに。

なぜ奪われなければならない。

なぜ泣かなければならない。

なぜ殺されなければならない。

「ハルト様……」

ルカが顔を上げる。

涙でぐしゃぐしゃだった。

「やっぱり……僕たちじゃ抗えないんでしょうか……」

その声は諦めに満ちていた。

ハルトは答えない。

代わりに立ち上がる。

そしてコンテナの前へ歩いた。

ハッチを開く。

整然と並ぶ手榴弾。

残弾数――九九九七発。

たった三発。

それだけで村は救われた。

ならば。

「ルカ」

静かな声だった。

だが誰もが振り向いた。

「牛車を出してくれ」

「え……?」

「今すぐだ」

ルカが目を見開く。

ハルトの瞳に宿る感情を見たからだ。

怒り。

それも今まで見たことのないほどの。

「僕はさ」

ハルトは手榴弾を革袋へ詰め始める。

一発。

二発。

三発。

そして十発。

二十発。

止まらない。

「理不尽には慣れてるつもりだったんだ」

会社。

上司。

取引先。

世の中には納得できないことがたくさんある。

それでも我慢してきた。

大人だからだ。

社会人だからだ。

だが。

「人が攫われて」

手榴弾を詰める。

「殺されて」

さらに詰める。

「それを世界のルールだから仕方ないなんて言われて」

五十発を超える。

「納得できるほど、僕はできた人間じゃない」

袋の口を縛る。

重い。

だが不思議と軽く感じた。

ルカが震えながら尋ねる。

「まさか……ガルダ城へ……?」

ハルトは答えた。

迷いなく。

「助けに行く」

ルカが息を呑む。

「妹も」

「村の人たちも」

「全員連れて帰る」

夜風が吹いた。

遠くの山の上。

闇の中に巨大な城の影が見える。

ガルダ城。

人々の絶望の象徴。

ハルトはその城を睨みつけた。

「ルカ」

「は、はい」

「案内してくれ」

その声は静かだった。

静かだからこそ恐ろしかった。

「夜明けまでに終わらせる」

ルカは震えた。

恐怖ではない。

歓喜だった。

目の前にいるのは神なのか、人間なのか。

もう分からない。

だが一つだけ確かなことがある。

この人は本気だ。

本気でガルダ城を潰すつもりだ。

「……はい!」

ルカは涙を拭った。

「喜んで!」

村人たちが見守る中。

牛車がゆっくりと動き出す。

闇夜を切り裂きながら、ガルダ城へ向かって。

後に歴史書はこの夜をこう記す。

――ガルダ城陥落の前夜。

そして。

雷の英雄が初めて本気で怒った夜である、と。

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