第四話 雷鳴の救済
ルカに案内され、ハルトは隠れ里へ向かっていた。
牛車の上には、異世界に転移してきた原因でもある巨大なコンテナ。
中には一万発の手榴弾。
そして隣には、なぜか自分を雷神だと信じて疑わないルカが座っている。
「ハルト様、少し休まれますか?」
「だから様はいらないって……」
そんなやり取りをしていた時だった。
風に乗って、遠くから悲鳴が聞こえた。
「助けてぇ!」
「逃げろ!」
「火だ! 火が回るぞ!」
ハルトとルカは顔を見合わせた。
次の瞬間、ルカの表情が凍り付く。
「村だ……!」
牛車から飛び降りるように駆け出すルカ。
ハルトも慌てて後を追った。
森を抜けた先に広がっていたのは、まさに地獄だった。
藁葺きの家々が燃えている。
黒煙が空へ昇る。
広場には武装した男たちが集まり、村人たちを囲んでいた。
三十人ほど。
まともな軍隊ではない。
だが剣と斧を持ち、暴力に慣れた連中だった。
「今日からこの村は俺たちのものだ!」
隻眼の大男が叫ぶ。
「食料も女も全部いただく!」
泣きながら抵抗した老人が蹴り飛ばされた。
ルカが叫ぶ。
「やめろ!」
飛び出そうとした彼の襟首を、ハルトが掴んだ。
「待て」
「でも!」
「相手は三十人だ」
ルカが唇を噛む。
分かっているのだ。
飛び出したところで死ぬだけだと。
ハルトは燃える村を見つめた。
恐怖はある。
だが、それ以上に腹が立った。
さっき会ったばかりの村人たち。
それでも彼らは温かい食事を分けてくれた。
自分たちだって苦しいはずなのに。
そんな人たちが理不尽に踏みにじられている。
許せなかった。
「ルカ」
「……はい」
「村人を伏せさせろ」
「え?」
ハルトはコンテナを開いた。
黒い球体が整然と並んでいる。
その中から三発取り出した。
「少しうるさくなる」
ルカがごくりと息を呑む。
彼は知っていた。
その黒い球が何をもたらすのかを。
ハルトは歩き出した。
広場の中央へ。
野盗たちが気付く。
「なんだ?」
「変な格好の奴が来たぞ」
隻眼の男が笑った。
「命乞いか?」
ハルトは立ち止まる。
そして静かに言った。
「今すぐ武器を捨てて出て行け」
一瞬の沈黙。
次いで爆笑。
「聞いたか?」
「俺たちに命令してるぞ!」
「頭がおかしいんじゃねえか?」
ハルトはため息をついた。
交渉終了。
手榴弾の安全ピンを抜く。
カチリ。
小さな金属音。
もちろん野盗たちには意味が分からない。
ハルトは広場中央の古井戸へ向かって投げた。
黒い球体が石畳を転がる。
野盗たちが首を傾げた。
そして――。
轟音。
世界が揺れた。
井戸が吹き飛ぶ。
石の破片が四方へ飛散した。
前列の野盗たちが悲鳴を上げて倒れる。
「なっ――!?」
誰も理解できなかった。
何が起きたのか。
その隙を逃さない。
二発目。
三発目。
連続する爆発。
逃げようとした野盗たちの足元で雷鳴が炸裂した。
地面が抉れる。
武器が吹き飛ぶ。
男たちが転げ回る。
わずか十数秒。
戦いは終わった。
生き残った野盗たちは武器を捨てて逃げ出していた。
「悪魔だ!」
「化け物だ!」
「雷神だぁ!」
誰一人として振り返らない。
広場には静寂だけが残った。
やがて。
伏せていた村人たちが顔を上げる。
燃え盛る炎。
倒れた野盗。
そして。
その中央に立つジャージ姿の青年。
老婆が震える声で呟いた。
「神様……」
その言葉をきっかけに、次々と人々が膝をついた。
「ありがとうございます……」
「助けてくださって……」
「神様……!」
ハルトは頭を抱えた。
「いや、神じゃないから」
誰も聞いていない。
むしろ感謝の祈りが強くなる。
ルカが胸を張った。
「皆、恐れる必要はありません!」
村人たちの視線が集まる。
「この方こそ雷の神、ハルト様です!」
「だから違うって!」
ハルトの抗議は虚しく消えた。
歓声が上がる。
涙を流す者までいる。
その光景を見て、ハルトは小さく息を吐いた。
この世界では。
もう元のサラリーマンには戻れない。
そんな予感がしていた。
そして彼はまだ知らない。
この救済が、後に大陸全土を揺るがす大戦の始まりになることを。
雷の英雄の伝説は、ここから本格的に動き始めるのだった。




