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雷の英雄 ~手榴弾一万発から始まる異世界統一記~  作者: レモンティー


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第三話 ルカ、雷神を目撃する

――僕の人生は、あの日を境に変わった。

いや。

変わったなんて生易しいものじゃない。

完全に壊れて、別の何かへ作り替えられたのだ。

僕の名前はルカ。

かつてガルバディス王国で下級文官を務めていた。

半年前、故郷はガルダ城を拠点とする反乱軍によって滅ぼされた。

家族は散り散りになり、仲間も多くが命を落とした。

剣も魔法も使えない僕にできることは、生き延びることだけだった。

だから森を逃げ続けた。

追手に捕まれば奴隷鉱山送り。

運が悪ければその場で斬り殺される。

そんな絶望の中で、僕は彼と出会った。

ハルト様だ。

雨の降る森の中。

見たこともない服を着た青年が、巨大な鉄の箱の前で途方に暮れていた。

今思えば、あれが運命だったのだろう。

当時の僕は知らなかった。

目の前の青年が、この世界の歴史を書き換える存在だということを。

追手が現れた時、僕は死を覚悟した。

二人の兵士。

どちらも戦い慣れた男たちだった。

武器を持たない僕たちに勝ち目などない。

だからせめて巻き込んでしまったことだけでも謝ろうと思った。

だが――。

ハルト様は逃げなかった。

確かに恐怖していた。

顔は青かったし、手も震えていた。

それでも逃げなかった。

巨大な鉄箱を開き、中から黒い球を取り出したのだ。

「耳を塞げ! 目を閉じろ!」

そう叫んだ直後。

世界が砕けた。

轟音。

閃光。

衝撃。

すべてが同時に襲ってきた。

僕は地面に伏せたまま悲鳴すら上げられなかった。

やがて静寂が戻る。

恐る恐る顔を上げた先には――。

倒れ伏す追手の姿があった。

剣は届いていない。

拳も振るっていない。

ただ黒い球を投げただけ。

それだけで戦いが終わった。

僕は理解できなかった。

理解できるはずもなかった。

だって、それは人間の力ではなかったからだ。

「僕はハルト。ただのエンジニアだよ」

そう言って笑う姿を見ながら、僕は幼い頃に読んだ神話を思い出していた。

天の雷をその手に収める者あり。

その者現れし時、古き王座は崩れ落ちる。

神殿の古い羊皮紙に記されていた伝承だ。

その時の僕には確信があった。

ああ。

この人は神だ。

神が人の姿を借りて現れたのだ。

そうでもなければ説明できない。

「科学だからね」

「ただのサラリーマンなんだけど」

道中でハルト様は何度もそう言っていた。

しかし僕には分かっていた。

神というものは正体を隠したがる。

きっとそういうことなのだろう。

僕たちは避難民の隠れ里へ辿り着いた。

そこには数十人の生存者がいた。

皆、疲れ切った顔をしている。

希望などどこにもなかった。

だから僕は叫んだ。

「みんな聞いてくれ! 僕たちは救われた!」

村人たちが怪訝そうな顔を向ける。

長老が前へ出た。

「ルカよ。ついに気が触れたか」

「違う!」

僕は全力で首を振った。

そしてハルト様を指差した。

「この方は天より遣わされた雷神だ!」

村人たちがざわめく。

当然だ。

僕だって数十分前なら信じなかった。

「追手が現れた時、この方は雷を落として敵を滅ぼしたんだ!」

「そんな馬鹿な」

「若者ではないか」

疑いの声が飛ぶ。

すると当の本人が困ったように頭を掻いた。

「いや、雷神じゃないんだけど……」

そう言いながら懐へ手を入れる。

そして。

あの黒い球を取り出した。

僕は息を呑んだ。

まさか。

また神罰を見せるつもりなのか。

「みんな、少し下がって」

ハルト様が言った。

「そこの枯れ木を使うから」

村人たちは慌てて距離を取る。

僕も後退した。

ハルト様は黒い球を構え――。

投げた。

数秒後。

森を揺るがす轟音が響いた。

大地が震える。

閃光が走る。

そして。

何十年も村を見守ってきた大樹が真っ二つに折れ、炎に包まれた。

誰も声を出せなかった。

あまりにも圧倒的だったからだ。

長老の杖が地面に落ちる。

乾いた音が響いた。

「か……神……」

その一言をきっかけに。

一人。

また一人。

村人たちが膝をついた。

やがて全員が地面に伏し、祈りを捧げ始める。

その中心でハルト様は慌てていた。

「いやいやいや! 違うから!」

「頭上げて!」

「お願いだから!」

しかし誰も聞いていない。

むしろその姿が、

「なんと慈悲深い神なのだ」

と解釈されていた。

僕も同じだった。

僕はハルト様の前に跪いた。

「ハルト様」

彼は困った顔をしていた。

だが関係ない。

もう決めたのだ。

「僕の命も、この村の未来も、すべてあなたに捧げます」

深く頭を下げる。

雨上がりの土の匂いがした。

「どうかガルダ城を滅ぼしてください」

沈黙。

しばらくして。

「えぇ……」

という情けない声が聞こえた。

だが僕の決意は揺るがない。

この方こそ希望だ。

絶望の時代を終わらせる存在だ。

後に世界中から『雷の英雄』と呼ばれることになる男。

その伝説の始まりを、僕は誰よりも近くで見ていたのである。

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