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雷の英雄 ~手榴弾一万発から始まる異世界統一記~  作者: レモンティー


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第二話 最初の一発

「どうすんだよ、これ……」

ハルトは巨大なコンテナを見上げた。

中には一万発の手榴弾。

そして自分の格好は会社支給の作業ジャージに安全靴。

ポケットを探っても、出てきたのはストップウォッチと数枚の領収書だけだった。

スマートフォンは電源が入らない。

雨は相変わらず降り続いている。

異世界らしき森の中で、一万発の手榴弾だけを持って途方に暮れる。

改めて考えると、かなりひどい状況だった。

そのとき――。

ガサガサッ!

森の奥から激しい物音が響いた。

誰かが全力で走っている。

「はぁっ……はぁっ……!」

茂みをかき分けて飛び出してきたのは、一人の少年だった。

年齢はハルトと同じくらいだろうか。

泥にまみれた革鎧。

肩で息をしながら、何度も後ろを振り返っている。

少年はハルトとコンテナを見て一瞬目を見開いた。

だが驚いている余裕はなかったらしい。

「おい! 何してる! 早く逃げろ!」

「え?」

「追手だ! すぐそこまで来てる!」

言葉が終わるより早く――。

再び茂みが大きく揺れた。

二人の男が現れる。

手には長剣。

鎖帷子をまとった屈強な体格。

その顔には獲物を追い詰めた肉食獣のような笑みが浮かんでいた。

「ようやく捕まえたぞ」

「逃げ足だけは一人前だな、文官坊や」

少年の顔が青ざめる。

男たちの視線が今度はハルトへ向いた。

「なんだ、その妙な格好は」

「まあいい。まとめて連れていけば済む話だ」

剣先がこちらへ向く。

その瞬間、ハルトの全身から血の気が引いた。

本物だ。

映画の小道具ではない。

ゲームの敵キャラクターでもない。

あの剣は、人を傷つけるための道具だ。

そして目の前の男たちは、それを使うことをためらわない。

「ひっ……」

隣で少年が腰を抜かした。

男たちがゆっくりと近づいてくる。

ハルトの心臓が激しく鳴った。

(死ぬ)

頭の中に浮かんだのは、その一言だけだった。

考えるより先に身体が動く。

コンテナのハッチを開く。

整然と並ぶ手榴弾。

そのうちの一つを掴み取った。

「なんだ?」

男たちが訝しげに眉をひそめる。

ハルトは安全ピンに指をかけた。

会社で何度も行った検品作業。

身体が覚えている。

カチリ。

金属音が鳴った。

「……?」

男たちは意味が分からないという顔をしていた。

当然だ。

この世界に手榴弾など存在しない。

ハルトは全力で投げた。

黒い球体が泥の上を転がる。

男たちは反応しない。

ただ不思議そうに見下ろしているだけだった。

「伏せろ!」

ハルトは少年の襟首を掴み、地面へ押し倒した。

「えっ!?」

少年の悲鳴。

次の瞬間――。

轟音が森を裂いた。

世界が白く弾ける。

地面が揺れた。

爆風が吹き荒れ、泥や葉が空高く舞い上がる。

耳が痛い。

雨音すら消し飛ぶほどの衝撃だった。

しばらくして静寂が戻る。

ハルトは恐る恐る顔を上げた。

そこには先ほどまで余裕を浮かべていた男たちの姿がなかった。

爆発の中心付近に倒れ込み、ぴくりとも動かない。

剣は遠くへ吹き飛び、地面には大きな穴が穿たれていた。

「……」

ハルトは言葉を失った。

分かっていたことだ。

手榴弾が危険なことくらい。

だが実際に人へ向けて使ったことなど、一度もない。

胃の奥が重くなる。

手が震えた。

隣を見る。

少年はもっとひどかった。

完全に腰を抜かし、口をぱくぱくと開閉している。

ハルトと爆発跡を何度も見比べていた。

まるで理解が追いついていない。

無理もない。

彼の目には、雷が地上で炸裂したようにしか見えなかっただろう。

雨だけが静かに降り続いている。

やがて少年が震える声で尋ねた。

「あ……あなたは……何者なんだ……?」

ハルトは答えなかった。

代わりにコンテナへ視線を向ける。

残弾数 9999 / 10000

たった一発。

それだけで状況がひっくり返った。

胸の奥で、一つの考えが形になり始める。

この世界では。

自分の持つ力は、常識を超えている。

「ねえ」

ハルトは少年へ向き直った。

「さっき、ガルダ城って言ったよね?」

少年がびくりと肩を震わせる。

「ぼ、僕はルカだ……」

「ルカか」

ハルトは小さく頷いた。

そしてコンテナを軽く叩く。

「僕はハルト。ただのエンジニアだよ」

そう言って笑う。

その笑みは、自分でも驚くほど落ち着いていた。

「案内してくれないかな。そのガルダ城まで」

ルカは息を呑んだ。

目の前にいるのは奇妙な服装の青年。

だが先ほどの光景を見た今では、とてもただの人間には見えなかった。

こうして――。

後に「雷の英雄」と呼ばれる男と、その生涯の参謀となるルカの出会いは、雨の森の中で幕を開けたのである。

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