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第8話 断章3

カイ・ソーマの手記 第十二頁


────

 わたしは楽器を弾けない指揮者のようなものだ。


 楽器を弾けない人間が、楽団を率いる。そんな指揮者を、演奏者たちは認めるだろうか?


 認めない人間がいるのは当然だ。自分よりも楽器が下手な人間に——いや、楽器がまったく弾けない人間に指示されることへの反発。それは感情として正しい。


 だが、指揮者の役割は楽器を弾くことではない。全体の調和を設計し、各演奏者が最も力を発揮できる配置を作ることだ。


 ジャズの世界では、各演奏者が互いの音を聴き、反応し、その場で最適な音を選ぶ。それが即興——セッションだ。


 わたしの理想はそれだ。


 将軍は将軍の判断で動き、商人は商人の判断で動き、魔術師は魔術師の判断で動く。それぞれが全体の調和を意識しながら、自分の最善を尽くす。わたしはその調和の「枠組み」だけを設計する。


 枠組みが機能すれば、わたしは不要になる。


 それが、わたしの仕事の完成形だ。


 しかし、現実はそうなっていない。


 各部門は自分の最適解を追求し、全体を見ない。全体を見る人間がわたししかいないから、わたしが調整し続けなければならない。わたしが調整し続ける限り、各部門は全体を見る必要がない。


 悪循環だ。


 この循環を断ち切るには、どうすればいいか?


 答えはひとつしかない。


 わたしがいなくなることだ。


 わたしがいなくなれば、各部門は自分で全体を見なければならなくなる。最初は混乱するだろう。だが、混乱の中で、彼らは自分たちで調和を見つけるはずだ。


 ——本当にそうなるだろうか?


 わからない。


 わたしの設計した枠組みが十分に浸透していれば、各部門は自律的に動ける。だが、浸透が不十分なまま消えれば、混乱は収拾がつかなくなる。


 準備が必要だ。


 レンには通信網の全体設計を教え始めた。マーサには物流の判断基準を共有した。ガルスの部下には、通信連携の応用パターンを伝えた。


 だが、時間が足りない。


 オルグレン卿の管轄——魔術行政の部分がまったく手つかずだ。あそこだけは、わたしの手が届かなかった。


 最後の提案を、もう一度だけ出してみようと思う。


 受け入れられなければ——そのときは、覚悟を決める。


────


(リーナ注:この頁以降、数頁にわたって通信塔の自動化設計が詳細に記されている。数式と図で埋め尽くされており、解読には専門家の協力が必要だが、一つだけ明確に読み取れる注記があった)


 「この設計が実装されれば、日々の調整は不要になる。わたしの仕事の八割が消える。残りの二割——想定外への判断——は、レンとガルスの副官に委ねる。彼らならできる」


(リーナ注:さらにその下に、小さな字でこう書かれていた)


 「できるはずだ。少なくとも、わたしよりは」

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