第5話 断章2
カイ・ソーマの手記 第八頁
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魔法は手段であって、目的ではない。
これは当たり前のことのはずだが、この国ではそうなっていない。
魔法を使えることが価値であり、魔法を使えないことが欠落として扱われる。わたし自身がその証左だ。王立学院では成績は上位だった。だが、魔法の適性試験で不合格になり、魔術師課程には進めなかった。
「数式は立てられるが、魔法は使えない」
それが学院でのわたしへの評価だった。
だが、考えてみてほしい。
橋を設計する人間が、自ら石を積む必要があるか?
料理の献立を考える人間が、自ら火を起こす必要があるか?
設計と実行は、別の能力だ。
にもかかわらず、魔法の世界では「使える者」だけが設計権を持つ。使えない者の意見は聞かれない。これが、この国の魔法行政が非効率である根本原因だ。
わたしは魔法を使えない。
だからこそ、魔法を使う者たちが見落としていることが見える。
彼らは自分の魔法の性能を最大化しようとする。だが、全体としての最適化を考えない。一人の魔術師が100の力を出すより、10人の魔術師が80の力を出して連携した方が、全体としては何倍も強い。
そのことを、魔法を使える者は理解しにくい。自分の力に自信があるからだ。
わたしには力がない。
だから、仕組みで解決するしかない。
それが弱さなのか、強さなのかは、わたしにはわからない。
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(リーナ注:この頁の裏には、走り書きのような文字があった)
オルグレン卿に今日も拒否された。通信塔の運用変更提案。三度目。
彼の言い分はわかる。「魔法を使えない人間が、魔法の仕組みに口を出すな」
正論だ。わたしが魔法を使えれば、こんな遠回りをしなくて済む。
しかし、使えないからこそ見えるものがあると、どうすれば伝えられるのか。
課題はわたしにあるのか、彼にあるのか。
——いや。課題を誰のものかと問うこと自体が間違っている。
わたしの課題は、提案を続けること。
彼の課題は、それを受け入れるかどうか。
わたしにできるのは、わたしの課題だけだ。




