第3話 断章1
カイ・ソーマの手記 第三頁
(リーナ注:以下は手記の一部を写したものである。数式の大半はわたしには理解できないため、王立学院の数理学者に解読を依頼した。ここでは、わずかに含まれていた文章部分のみを転記する)
────
ネットワークの価値は、接続点の数の二乗に比例する。
これは純粋な数理だ。魔法通信塔が10基あれば、その価値は100。20基になれば400。接続が増えるほど、価値は線形ではなく指数的に上がる。
しかし、接続点が増えれば、障害点も増える。ひとつの塔が落ちたとき、何が止まるか。それを設計時に織り込まなければならない。
冗長性。代替経路。優先順位。
人間の組織も同じだ。
ひとりの人間が倒れたとき、何が止まるか。それが明確になっていない組織は、もろい。
では、わたしが倒れたら?
考えたくないが、考えなければならない。
わたしは接続点のひとつではない。わたしは接続点と接続点をつなぐ「経路」そのものだ。経路が消えれば、接続点は孤立する。
経路は、人に依存してはならない。仕組みに埋め込まなければならない。
しかし——
仕組みに埋め込めないものがある。
「判断」だ。
想定外の事態が起きたとき、どの接続を優先し、どの接続を切るか。それは仕組みでは決められない。人間が決めるしかない。
では、その判断を誰に委ねるか?
将軍は戦術を知っている。商人は市場を知っている。魔術師は魔法を知っている。だが、彼らは「全体」を知らない。自分の領域の最適解は出せるが、全体としての最適解を出せない。
全体を見る人間が必要だ。
それがわたしである必要はない。
ただ、今のところ、わたし以外にいない。
それが問題だ。
────
(リーナ注:この頁の余白には、複雑な図が描かれている。王国の地図のようだが、通常の地図とは異なり、都市と都市の間を直線で結んだものだ。線の太さが異なっており、おそらく通信量か物流量を示していると思われる。
一つだけ、赤い丸で囲まれた点がある。王都だ。
そこから伸びるすべての線が、一箇所を経由して各都市に向かっている。その経由点には名前が書かれていない。
おそらく、それがカイ自身を示しているのだと、わたしは思った)




